陸
「タリム、奴は何者だ?」
戦騎を纏っているのに、羅刹は圧されていた。
太刀筋が速過ぎて、隙が無かった。加えて二刀流だ。間合いを取って、態勢を立て直さなければ不味い。純粋な剣術の打つかり合いで、遅れを取っている。其の事が心を苛立たせたが、羅刹は至って冷静で在った。潜って来た修羅場の数が、そうさせているのだろう。
大小二刀を繰り出す身体は、思いの外に小さかった。華奢な身体に、そぐわぬ身体能力の高さ。体の造りから、相手が女で在る事を悟った。
だからこそ、余計に戦い辛かった。刹那と出逢ってから、どうも調子が狂ってしまっている。以前の自分ならば、相手が女で在っても、決して躊躇しなかっただろう。羅刹は今、目の前の敵を斬る事に、僅かばかりの迷いを抱いている。
だが、手加減をする余裕はなかった。覚悟を決めねば為らない。
大きく息を吸い込み、丹田呼吸をする。意識を研ぎ澄まし、極界の炎を召喚した。全身に炎を纏いながら、歩を進める。
女が繰り出す斬撃が、空を斬った。
僅かに生じた隙を、逃さなかった。
技の名は【糸游】と言った。
擦り足を用いた独特の歩法で、相手の間合いを狂わせる技で在った。加えて極界の炎の熱で、陽炎が生じている。
羅刹の斬撃で、相手の大刀は折れた。
「お前は何者だ?」
刀の鋒を突き附ける。
女は面を取った。
まだ幼い顔立ちをしていた。自分よりも年下だった。
「私の名は菴。お前に用はない」
「ならば何故、襲った」
「只の勘違いだ……」
其の刹那、女は去って行った。
釈然としなかったが、羅刹は魔徒を目指して再び駆け出した。




