表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
咎人の詩  作者: 81MONSTER(日本を代表する怪物)ポンコツ犬のタナトス
第四話【呪毒】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/111



 御法院家の地下には、龍脈が流れている。龍脈とは、大きな氣の流れで在る。氣は川の様に流れていて、氣が集まるポイントには土地神が宿る。


 御法院の一族は、神と契約した《禍人の血族》で在る。


 神の眠る祠を、家屋の地下に奉っていた。


 暗闇の祠の中で、香流羅は座禅を組んで眼を綴じていた。神は気紛れで在る為、みだりに姿を現さない。神に認められ、其の力と眷属を与えられたとは言え、容易に謁見する事が出来ないでいた。


 だからこそ禅を組んで一向ひたすら、待ち続ける以外には無かった。


 待ちながら、香流羅は戦騎騎士の少年の事を考えていた。戦騎騎士と相対するのは初めてで在ったが、手強い相手だった。此方の手の内を全て曝け出した訳ではないが、まだまだ底が見えない。軽く手合わせしただけだが、かなりの修羅場をくぐっている事が窺える。


 今の儘では、恐らく勝てないだろう。戦騎騎士を斬るには、新たな力が要る。其の為には、神に請わねば為らない。《禍人の血族》で在る我等は、此れまでそうして力を得て、生きながらえてきたのだ。其の為に支払った対価は、決して安価な物ではなかった。


 《血の定め》も《地の掟》も、背負うには余りにも重い荷では在った。だが、此の世に生まれた時から与えられた宿命で在る。


 何人たりとも、犯す事の出来ない領域で在った。戦騎騎士は、必ず斬る。先刻の少年には怨みはないが、掟で在る以上は抗う訳には往かない。其れに——戦騎騎士には、個人的な怨みが在った。


 決して赦す事の出来ない怨みが在る。


 香流羅は目を見開いていた。其の瞳には、憎悪の光りが色濃く灯されている。


「香流羅よ、良くぞ参ったな」


 香流羅は眼前に、神の気配を感じた。


 其の姿こそは見えないが、辛うじて神の輪郭を捉える事が出来た。並々ならぬ力を発する神は、此の世に具現化すれば大気を歪ませ龍脈に亀裂をもたらし兼ねない。


 故に神は、不用意に出現する事は無い。


「戦騎を繰る者が、現れた様だな?」


「はい。先刻、刃を交えました」


「今の儘では、勝てぬか?」


 全てを見透かされていた。己の未熟さ故、勝てない事は承知している。


 だからこそ、力が要る。


「私に、神威かむいの使用を許して下さい」


「——ならぬ」


 宝刀【神威】は、神が生み出した破邪顕正はじゃけんせいの刃だ。


 御法院家が、神に授かりし刀。如何なる魔で在ろうと、其の一振りで無へと帰す力を持っている。


 其の力を以ってすれば、戦騎と言えども斬る事が出来るだろう。


「神威は、伝家の宝刀。今の貴様では、触れる事すら赦されぬ。更なる修練を積み上げ、力を得るが良い」


「此れは?」


 香流羅の前に、二冊の巻物が現れた。


「【天涯の書】と【人外の書】だ」


 刹那、香流羅の顔色が明らかに変わった。名前ぐらいは、姉から聞いた事が在る。


 二冊共、禁忌の書で在った。


 御法院の始祖、最初に神と契約した男が書き記した奥義書でも在る。


 御法院の歴史の中、幾人もの猛者達が挑み、命を落としてきた。


「必ずや会得するのだ。そして、騎士を斬れ」


 戦騎騎士を斬る。其れは、神が課した《地の掟》で在る。


「私は騎士を赦さない。曾て在の男に斬られた傷が、今でも痛むのだ」


 神は曾て、戦騎騎士に斬られた。以来、神は戦騎騎士を等しく怨んでいた。所謂いわゆる、逆恨みでは在るが、神が課した掟で在る以上は守らねば為らない。元より戦騎騎士は、魔徒よりも憎むべき対象だった。


 必ず此の手で、斬る。


 愛する者達を護る為には、力が必要だった。


 御法院家の当主として、一族を護らねば為らない。


 巻物を手に取り、香流羅は決意を固める。


「必ずや、会得して参ります」


 こうべを深々と垂れて、香流羅は神に誓いを立てる。其の瞬間、香流羅の全身を凄まじい重圧が包み込んだ。


 吹き出る汗。


 ——が、て附く様な寒さを感じた。


 沸き上がる恐怖。得体の識れない何かが、全身に浸潤するかの様だった。震えが止まらない。自分の意思で体を動かす事すら、儘為ままならない。突然、無重力の空間に放り込まれた様に、立ち位置すら覚束無い。あらゆる感覚が、麻痺して往くのが解った。そう——此れは、死の恐怖だ。選択をあやまてば、命を落とし兼ねない。


 おそれを懐きながら、顔を上げる。


 神が此方を見ていた。とても美しい女の姿をしていた。


 其の双眸から発せられる重圧に、肢体を押し潰されそうに成った。


「其の言葉、たがえる事は赦さぬぞ」


 冷やかな声。


 震える大気。


かしこまりました」


 暫しの沈黙の後、神が静かに微笑んだ。其の刹那、心が和らぐのが解った。安堵しているのだ。


 だが其れが、命取りに繋がる事を刹那ののちに悟らされた。


「直ぐに警戒を解いては、いかんな。隙だらけだ」


 刀の切尖きっさきが、香流羅の喉元に在った。


 優しく突き付けられた神の刃が、香流羅の命を静かに撫でる。


「申し訳、御座いません……」


 香流羅は心底、恐ろしかった。殺される事がではない。


 殺意を向けられているのに、心が癒されているのだ。心が蕩々(とうとう)と安らいで往く。其の事実が、どうしようもなく恐ろしくて堪らなかった。


「安心するが良い。ほんの戯れだ。儂は眠りに就くとしよう」


 そして、神の存在が消えた。


 震えと汗が止まらなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ