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咎人の詩  作者: 81MONSTER(日本を代表する怪物)ポンコツ犬のタナトス
第三話【作家】

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「ならば、今度は本気で叩き潰してやろう」


 鬼神化した老人が、何かを飛ばして来た。


「羅刹、避ける必要はないわ」


 タリムの言葉に従って、羅刹は避けなかった。


「奴の能力は言霊。言葉を操る力の様ね。尤も、文字を読めない羅刹には、効果がないみたいだわ」


 再度、言葉の弾丸を繰り出して来たが、何事も起きなかった。


 どうやら今回の魔徒は、自分とは相性が良い様だ。


「ふざけるなぁ! 私は……私は——」


 魔徒の背後には、香流羅が居た。


 羅刹と香流羅の放った剣撃に挟まれて、魔徒は消滅した。


「偉大なる大作家だ……」


 魔徒の最期の言葉を聞きながら、香流羅を睨み付ける。


「今度は、お前の番だ」


 此方を睨み返す香流羅。放たれた言葉には、憎しみが籠っていた。香流羅の憎しみの源は、自分にではなく戦騎騎士に向けられた物で在った。だからと謂って、状況は何も変わらない。自分が戦騎騎士で在る以上、香流羅は向かって来るだろう。


 香流羅の両のかいなを、青い光りが包んでいた。霊獣を使役している様だった。


 今度は本気で、命を獲りに来ているのだろう。だが、本来の実力を発揮しているのは、自分も同じで在った。


 たとえ刹那の実兄で在っても、手加減は出来ない。


「お前には、無理だ。止めておけ」


 挑発する様に、羅刹は言葉を返した。


「なら、試してみるか?」


 笑みをしたためる香流羅。


 背後に気配を感じて、羅刹は横に飛んだ。狼の霊獣が、襲い掛かっていた。既に敵は、羅刹の制空圏の中だ。


 決して、捉える事は出来ない。追撃が来るのは識っていたし、軌道も予測できた。


「逃がすかよっ!」


 光の羽根が無数の弾丸となって、羅刹を襲う。弾丸に紛れて、呪符の刺さったナイフが飛来していたのを、羅刹は見逃していなかった。先日の手合わせで、呪符の威力は学んでいた。香流羅は自分に、手の内を見せ過ぎた。そして、香流羅は識らない。


 ——既に香流羅は、手の内に在る。


 瞬時に戦騎を喚装して、身を護った。


 羅刹の全身を、白い炎が包んでいた。戦騎の力で、地獄の業火を召喚したのだ。


 光の羽根を焼き払い、ナイフを刀の鞘で受け流した。


 死角から、狼の気配が飛び込んで来る。躱せるタイミングではなかった。


 炎の出力を上げて、切尖きっさきに宿す。刀を持つ手を返して、斬り上げる。


 全く手応えが無かった。


「勘の良い奴だ」


 眼前に佇む狼が、此方を見据えていた。


「余所見している暇はないぞ!」


 距離を詰めていた香流羅が、小太刀を繰り出していた。


 其れをしのぎで受けながら、勢いを逸らした。真面まともに受ければ、刀が折れてしまう。


「どうして、俺を目の敵にする?」


「お前が、戦騎騎士だからだ!」


 香流羅の瞳の奥に、憎悪の光が灯っている。


 羅刹は其の瞳に、己自身の姿を重ねていた。


「俺はお前を、斬らなければ為らない!」


 至近距離から光の羽根を放って来る。其れを炎で焼きながら、香流羅の放つ弐の刃を薙ぎ払う。狼の霊獣の位置にも気を配らなければ為らない。何時如何いついかなる時に、奇襲を掛けて来るか解らない。隙を見せれば、必ず喰らい付いて来る。


 香流羅は自分に良く似ていた。


 憎しみに囚われ、魔徒を斬る一振りの刀。其れが自分だった。


「戦騎騎士が一体、何を護ったと言うのだ。魔徒に無惨に殺され、喰われていった人間が、此の世に何人いると思う?」


 繰り出される斬撃。


 繰り返される連撃。


 ——躱し、払い、受け流す。其の一連の動きに対応するが、隙が窺えなかった。


「戦騎騎士に見捨てられた者の気持ちが、お前には解るか?」


 反撃の機を見据え一向ひたすら、護りに徹していた。


「《禍人の血族》は、戦騎騎士に見捨てられた一族だ。一族の怨みは、お前の力よりも深い!」


「怒りや憎しみを抱えているのは、お前だけじゃない!」


 斬撃を受ける刀を捨て、香流羅の懐へと潜り込んだ。ほんの僅かな隙で在ったが、羅刹は見逃さなかった。


「香流羅!」


 叫ぶ霊獣。


 香流羅の鳩尾みぞおちに拳を叩き込んでいた。


 懐に忍ばせていた短刀を、香流羅の喉元に向けていた。


「此処は退け。手負いで勝てる程、俺は甘くない」


 香流羅の腹部が、血で滲んでいた。


 自分が負わせた傷ではなかった。恐らく、魔徒に依る物だ。


「殺さなかった事を、後悔するぞ?」


「今の俺なら。殺せばきっと、後悔している」


 どうしてか解らないが、脳裏に刹那が過ぎった。香流羅を殺せば、きっと刹那は悲しむ。心の中を、何かが乱そうとしている。胸裏に秘めた想いに、羅刹は気付かない振りをした。不要な感情を捨てなければ、刃が鈍る。自分は魔を斬る一振りの刀だ。憎しみ以外の感情は、必要ない。


 互いの視線が交わる。


 憎しみの秘めた眼だった。まるで、互いが互いを映す鏡で在るかの様に、憎しみが交差していた。


 羅刹の脳裏で、過去の記憶が過ぎっていた。鬼子と呼ばれ、札付きの悪として扱われてきた生前。


 其の念を払拭するかの様に、魔徒を斬り続けて来た。


「香流羅、此処は退け!」


 霊獣が怒りに奮える香流羅を促した。


 其の言葉に従う様に、香流羅は去った。


 戦騎の喚装を解いて、羅刹は呟いていた。


「珈琲、冷めちまったな……」


 気が付くと、雨が降っていた。


 嫌な雨だった。



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