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咎人の詩  作者: 81MONSTER(日本を代表する怪物)ポンコツ犬のタナトス
第三話【作家】

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「もう直ぐ、私の名前が世間に知ら占められる。そうなれば、お前に楽をさせてやれる!」


 勲は満足そうな笑みを、妻に向ける。穏やかな妻の表情が堪らなく愛おしい。二度と失いたくはなかった。此れからは、妻には幸せに成って貰わなければ困る。


 先日、書き上げた作品は、紛れもなく最高傑作で在った。間違いなく、世に知れ渡るで在ろう名作だ。必ず、妻を幸せにしてみせよう。


 ——私はもう、充分に幸せですよ。


「何を言う。此れからも、もっと幸せにしてみせるさ」


 楽しそうに笑って、勲は珈琲を口元に運ぶ。芳醇な薫りが、鼻腔に広がる。程良い苦みの奥に広がる濃密な薫りが、幸福な一時を誘い込む。


 此の店の珈琲は、偉大なる大作家をも唸らせる代物で在る。


 店の雰囲気もおごそかな静けさを秘めていて、好感をいだく事が出来た。こうして妻と共に、珈琲を嗜む時間が何よりも心静かに成れるいとまで在った。


 其れなのに、邪魔をしようとする輩がいる。


「小僧、戦騎騎士か?」


 ——全く。昨日の若造爾しかり、目の前の小僧爾り一体、自分を誰だと思っているのだ。


 此の空間は気に入っている。


 出来得る限りは壊したくはないので、場所を変えなければいけない。


 勲は立ち上がった。


「特別に相手をしてやるから、ついて来なさい」


 命ずるままに従って、小僧はついて来た。


 人気のない裏路地で向かい合う形で、勲は静かに口を開いていた。


「小僧よ、本は好きかね?」


「そんな物には、微塵も興味はない!」


 ——愚かな答えだ。矢張り、ガツンと解らせてやらねば為らん。


 勲は拳を放っていた。其れを小僧は左手で巧く受け流している。端緒から無粋な小僧で在る。不意に込み上げる怒りから、勲は叫んでいた。


「愚か者がぁ!」


 拳の勢いを殺さずに半身を捻って、左の裏拳を小僧の顔面に叩き込んでやった。たしかな手応えを感じた。真面に自分の拳を受ければ、決して只では済まない……筈だった。


「随分と軽い拳だな?」


 余裕の表情を浮かべる小僧。全く意に介していない様子で在った。


 ——小癪な奴だ。


「ならば、今度は本気で叩き潰してやろう」


 勲は鬼神化すると、言の葉を繰り出した。おきに為るまで、燃やしてやろう。


 勲の周囲を廻る言葉の珠には其々、力が籠められている。


 ——言霊。其れが勲の持つ能力で在った。


 言葉の珠に刻まれた文字を見た者は、其の言葉通りの事象に見舞われるのだ。


 『燃』の文字を、小僧に投げ放つ。


 物の見事に、小僧は言霊を見ていた。が、何故か言霊は小僧を通り抜けて、不発に終わっていた。


 そんな馬鹿な事が在る筈がない。


 きっと、何かの間違いに違いない。


 もう一度、言霊を小僧にぶつけてやる。


 ——が、何事も起きなかった。


「もう、終わりか?」


「ふざけるなぁ! 私は……私は——」


 ——偉大なる大作家だ。


 こんな処で、終わる筈がないのだ。



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