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咎人の詩  作者: 81MONSTER(日本を代表する怪物)ポンコツ犬のタナトス
第三話【作家】

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「魔徒は何処に居る?」


 羅刹は、殺気立っていた。抜き身の刀の様に鋭い殺気が、周囲の空間を張り詰めさせる。道行く人々が、羅刹を避ける様にして歩いていた。屈強な肉体の強面の男が、羅刹と目が合った。其の刹那、殺気に当てられた男は羅刹から目線を外し、小動物の様に倉皇そそくさと逃げ去っていった。


「羅刹、落ち着きなさい」


 微かに魔徒の気配を感じたが、邪気がなかった。まるで、もやが掛かった様に、魔徒の気配が掻き消されて往く。此れでは何処に居るのか、特定するのが困難で在る。如何にタリムとて、邪気の源が解らない相手は見付けられない。


 こんな事は初めてだった。魔徒への手掛りが、余りにも少なかった。


 夜の街を羅刹は、闇雲に彷徨い続けた。


「どうして、奴から邪気が感じられない?」


「魔徒に憑かれた人間が、純粋な心の持ち主かも知れないわ」


「なら何故、純粋な者が魔徒に衝け入られる?」


「恐らく……愛する者が、死んだのよ。其の時の悲しみが、心の闇と成ったんだわ」


「じゃあ今回の魔徒は、邪気も殺気も持たないって事か?」


「恐らくね……」


 厄介な相手だった。


 一体、どうすれば魔徒に辿り着けるだろうか。


 羅刹は思案に暮れながら、気配を探った。苛立つ心が、思考を低下させていた。先刻から、殺気を感じていた。魔徒に依る物ではない。羅刹を苛立たせている原因の一つで在った。心辺りは無かったが、明らかな敵意を自分に向けていた。


 此の殺気の持ち主は、紛れもなく人間だった。人間を傷付けてはいけない。だが、例外が在る。


 人気のない裏路地に入り込み、羅刹は好戦的な笑みを浮かべる。


「出て来いよ。俺に、用が在るんだろう?」


「人間を傷付けちゃ駄目よ、羅刹?」


「そいつは無理だ」


 気配から、手加減が出来る相手ではない事が解った。相手は、かなり強い。


 古来から戦騎騎士と《禍人の血族》には、深い溝が在る。羅刹は短剣に手を添えて、腰を低く落としていた。其の瞬間、羅刹が支配している間合いが一メートル程、広がった。戦闘に於いて、間合いは非常に重要な役割を果たす。間合いの事を中国武術ではけんと称し、細かく分類していた。空手の用語でも、己が支配する間合いを制空圏せいくうけんと呼んでいる。


 制空圏のつかり合いは、陣取り合戦に良く似ている。拮抗した実力者同士の制空圏が、互いに打つかり合おうとしていた。


 冷たい夜気に殺気が混ざり合って、静かに張り詰めていた。自分の呼気に、風の音が纏わり附くのを羅刹は感じた。


 一陣の疾風かぜが、羅刹を襲う。相手が間合いに入った時点で、羅刹は其の動きに対応し始めていた。


 男の飛び蹴りを、羅刹は左腕で受けていた。男は其の儘、空中で体を捻っていた。


 其の反動を利用して、男は左腕を繰り出して来る。互いの制空圏が拮抗する中、羅刹の陣地が僅かに崩されていた。男の手の中には、呪符が在った。触れる事自体が危険な一撃が、羅刹の制空圏を瓦解させる。


 男の拳が、羅刹の顔に触れる。呪符が起爆剤と成り、羅刹の眼前で爆発が起きた。


「羅刹、無事?」


「当たり前だ!」


 紙一重で避けていた。間合いを保って、態勢を持ち直さなければ為らない。追撃が来る事は理解わかっていた。男の一連の動きは、自分の制空圏を崩す為の物だ。男の放った爆撃に依り、自分の纏っていた制空圏は掻き乱されている。


 窮地で在ったが、羅刹の心は自然と舞い上がっていた。死闘に身を置く事で、生の実感を得られた。満ち足りた心持ちに成れた。反射的に半歩だけ退がって、迎撃態勢を執っていた。一秒にも満たない世界に、羅刹は至福の悦びにも似た充足感を得ていた。


 自分は闘う事しか識らない。


 爆煙に紛れて、男の小太刀に依る斬撃が迫り来る。感覚的に、其れを予感していた。腰に提げた短剣を引き上げ、受け止める。其の動作と同時に、体を捻って左の拳を前に突き出していた。


 カウンターの一撃が、男の鳩尾みぞおちに入る直前。男の左手に依り、遮られた。


「何者だ?」


 鈍い殺意と視線が、羅刹の眼を捉える。憎悪の炎が、揺らめいている。


「妹が、世話になったな」


 羅刹の眼にも、同じ炎が滾っていた。男の顔の造りが、何処となく刹那に似ていた。


 纏う空気は刹那とは異質では在ったが、血縁者で在る事が窺えた。どちらにせよ男は《禍人の血族》で、自分は戦騎騎士で在る。互いにいがみ合うのが必定で在る。


「妹だと。お前、刹那の兄貴か?」


 短剣を打ち抜いた。男は小太刀で受け流し、体を捻って回転する。羅刹の制空圏が、再び崩れ様としていた。


 呪符を握った拳を、羅刹の腹に叩き込む。羅刹は両の腕で、其れを庇う。


 二度目の爆発と共に、両者共に後方へ飛び下がる。


「俺の名は、御法院香流羅。《禍人の血族》だ。必ず、お前を殺す」


 男は姿を消した。


「大丈夫、羅刹?」


「大した火傷じゃない」


 羅刹の両腕が、ただれていた。


「彼、強いわね」


「俺の方が、強い」


 確かに男は強い。未だ本気を出し切ってはいないが、其れは相手も同様の筈だ。制するには戦騎の力を借りる必要が在る。羅刹は短剣を納めると、懐から薬を取り出した。


 治癒力を高める薬だった。飲めば、どんな傷も治してくれる。


 一気に飲み干して、空になった容器を投げ捨てる。


 御法院香流羅。其の名を脳裏に焼き附けて、静かに怒りを鎮めた。


 ——此の借りは、必ず返してやる。



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