拾壱
「さて。今度こそ、終わりにしようか?」
魔徒の特定さえ出来れば、タリムが見付け出す事は容易だった。譬え何処へ居ようと、追い詰める事が可能だった。魔徒の探知は、同族には容易い事なのだ。
戦騎には、浄化された魔徒の魂が宿っている。契約さえすれば、互いに裏切り合う事は出来なく為る。
史華に短剣を向けながら、周囲を窺う。
「此の状況で、私を斬れるかしら?」
神峰史華親衛隊は、相変わらず史華の周囲を囲んでいる。全く、鬱陶しい奴等だ。
「斬れるさ」
感情の籠らぬ声。自分は只、魔徒を斬り捨てるだけだ。其れは此れまで同様、変わらない。
「無関係な人間ごと、斬ろうとでも言うのか?」
人間を斬る心算は、毛頭なかった。と謂う依りも、斬れなかった。斬れば地獄に逆戻りだ。其れに認めたくは無いが、刹那と出逢ってから僅かに心象に変化が在った。其の変化が、自分を妨げている様で、癪に障った。
兎に角、無関係な人間は斬れなかった。
「俺達が何もしなかったとでも思ったか?」
羅刹が手を翳すと、教室中に魔法陣が浮かび上がる。
「俺の戦騎タリムには、空間を操る力が備わっている」
「馬鹿な?」
神峰史華親衛隊の姿が消えた。
「お前だけを、結界内に閉じ込めさせて貰った。準備に多少、手間取ったがな」
大掛かりな結界装置を作る為、刹那に依代と為って貰った。
禍人の血を受け継ぐ刹那だからこそ、可能で在った。彼女の体力を考えると、三分程しか保たないが其れで充分だった。
「余り時間がない。早速、斬らせて貰うぞ」
「ふぅん。其れで、私を追い詰めたつもり?」
史華から、余裕の表情は消えなかった。
「羅刹、気を付けて。奴の能力は、複写。お腹の鏡に映った者の力を、再現する事が出来るみたいよ」
史華が、戦騎を纏っていた。
「只の猿真似だろう?」
間合いを詰める史華。
太刀筋も、剣速も、羅刹と寸分違わぬ精度でトレースしていた。
だが、所詮は二番煎じに過ぎない。
太刀筋が解っているなら、受け流すのも容易い。
短剣で払い、左腕で殴り付ける。
戦騎を喚装して、大剣で叩き付ける。其れを、刀で受ける史華。
史華の刀は、あっさりと折れた。
刀での戦い方を真似ると言うのならば、違う戦い方をすれば良いだけの事だ。刀と違って、剣での戦い方は打撃が主体で在る。
「幾ら自分を着飾ろうと、どれだけ他者の真似をしようと無駄だ!」
大きく体勢を崩した史華を、羅刹は斬った。
「己の力で勝負も出来ない奴に、俺は負けない」
史華の体が、硝子の様に粉々に砕け散った。
結界が消えて、元の空間に戻った。
神峰史華親衛隊は皆、一様に倒れていた。
洗脳が解けて、一時的に意識を失っているだけだった。暫くすれば又、意識を取り戻す。
部屋の片隅に蹲る刹那に、羅刹は仏頂面を向ける。
「お前のお陰で、助かった。ありがとう……」
照れくさそうに、礼を述べる羅刹を見て刹那は笑った。
「何を笑っている?」
「貴方がそんな事を言うなんて、意外だなって思ったの」
「俺だって、礼ぐらい言うさ……」
羅刹の頬が、朱に染まっている。刹那と居ると、調子が狂う。
そんな自分自身に、苛立っていた。
「貴方、意外と可愛い処も在るのね」
「黙れ。其れ以上、余計な事を言うなら斬るぞ!」
「どうぞ!」
真っ直ぐな瞳に、羅刹は戸惑っていた。無垢な瞳に見詰められて、胸が締め附けられた。
まるで、自分が自分じゃない様な錯覚に捉われて、困惑していた。
「羅刹、貴方の負けよ」
タリムが羅刹を諭す。自分を掣肘する存在に、羅刹は大いに戸惑っていた。其の事を気取られまいと、踵を返した。
羅刹は無言で教室を出て行った。
「あ。ちょっと、待ちなさいよぉ!」
刹那は、慌てて羅刹を追い掛けた。




