玖
「何なのよ、あいつ。私の美しい肌に、傷が附いたわ。嗚呼、こんなに血が出てる。もう!」
史華は憤っていた。
血に塗れる己の姿を見て、憤慨している様子だった。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
比津地は血相を変えて、駆け寄っていた。史華に幼少の頃から仕えてきていた。実の娘よりも、史華の存在が大切で在った。史華の幸せの為ならば、どんな事でも出来た。
「嗚呼、比津地。痛い。痛いの。私を助けて!」
血に塗れる史華を見て、憤懣やるかた無い想いに満ちていた。
「此の比津地権左衛門、お嬢様を御守りする為なら、此の命投げ出す覚悟は出来ております!」
「なら、私の代わりに死んでくれる?」
史華の為ならば、喜んで我が身を捧げる事が出来た。
「私に出来る事なら、何なりと御申し付け下さい。必ずや、史華様のお役に立ちます」
自分は何時如何なる時も、史華の事だけを考えて生きてきた。史華の幸せだけを願い、史華の為ならば何でも出来た。
既に史華が、以前とは違っている事に気付いていた。人ではない存在で在る事も、薄々は勘付いていた。其れでも比津地には、史華に生き続けて欲しかった。
幸せになって貰いたかった。
例え人外の道を歩もうとも、史華に仕え続ける覚悟が出来ていた。
全ては、史華の為。
比津地も又、主と共に人の道を外れる決心をしている。道を過とうとも、史華を護る肚は附いている。
史華の為に死ねるならば、此の命は少しも惜しくは無かった。




