捌
「ようこそ、御法院刹那さん」
山下に連れられた教室の中央に、史華が居た。
教室の中には神峰史華親衛隊が佇んでいた。
其の光景は異様で在った。史華はまるで、女王の様だった。
「貴女を呼び出した理由は、他でもないの」
「刹那ちゃん。どうやら、彼女が魔徒の様ね」
「嘘。神峰さんが、心に闇を抱えてるなんて……」
刹那には意外だった。
史華は全てに於いて、完璧で悩みとは無縁の存在だとばかり思っていた。常に自信に満ちて、皆の憧れの的で在る史華には、刹那も少なからず憧れの念を抱いていた。だからこそ意外だったし、ショックも受けていた。
史華がゆっくりと、刹那の元へと歩んで来ていた。肌を厭な空気が撫で附けて往く。自然と身体が強張るのが理解った。
「ずっと前から、思っていたの」
そっと、刹那の頬に手を当てる。悪寒が全身を衝き抜ける。
「貴女の其の、極め細やかな白い肌。透き通る様な、漆黒の髪。とても、美しいと思っていたのよ」
刹那の髪を撫でる史華。
周囲の者達が、刹那に羨望と嫉妬の目線を送る。
「本当に、美しいわ。本当に……」
史華は衣服を脱ぎ捨てる。
「気に喰わないわ!」
腹に埋め込まれた鏡に、刹那の姿が映り込む。
どうやら史華は、刹那を喰らうつもりの様だ。
「あら、残念ね。刹那ちゃんは、食べれないわよ」
「貴様、戦騎の加護を受けているのか!」
タリムの存在が、魔徒の食事を妨げていた。
「為らば、殺すまでよ!」
史華の合図で、神峰史華親衛隊が動き出した。
「其処までだ!」
羅刹が、何も無い空間から出現した。
「戦騎騎士か。お前に、罪の無い人間を斬れるのか?」
神峰史華親衛隊は、操られこそしているが、只の人間だった。
刹那は彼女達を護りたかった。
「斬れるさ。俺は、咎人だからな」
無情な羅刹の声音。不安が心を過ぎった。
「駄目よ、羅刹。罪の無い人間を斬ったりしたら、地獄に落とされるわよ」
「解っている。今の俺は、騎士だからな。殺しはしない!」
一気に、史華との間合いを詰める。
速すぎて誰も、羅刹の動きに反応し切れなかった。既に羅刹は、戦騎を喚装していた。
刀に依る一閃を、史華に浴びせる。
だが、深手を負わせる迄には至らなかった。
「貴女達、私を護りなさい!」
謂われる儘に、神峰史華親衛隊が羅刹を阻む。
「糞、こいつら邪魔だ!」
羅刹は戦騎の喚装を解いて、刹那の元へ向かう。
まるで刹那を護ろうとするかの様に、刹那の前を遮っていた。
「刹那。此処は一旦、退くぞ!」
刹那を連れて、羅刹は教室を後にした。




