伍
教室の真ん中の席に、静かに佇む史華。只、其れだけなのに、皆の視線を集めている。
凛とした其の佇まいに、クラス中の人間が魅了されていた。皆が陶酔する中を、史華は悠然とした姿勢で佇んでいる。教室内を慥かに、独特なドグマが内在していた。皆の寵愛を一身に蒐めていた。
生徒も教師も、史華に魅入られている。
其れ程までに、史華は美しかった。
「跪きなさい!」
其の場に居る者が皆、史華に従った。
史華の妖艶な美と魔性に、皆が操られている。此の場に居る者は皆、史華の傀儡と化していた。
——戦騎騎士が、私達を狙っているわ。
内なる声が、史華に囁き掛ける。
「解っているわ。私の美しさの前には、如何なる者も無力に等しい。此れから、其れを証明してみせる」
妖しく嗤う史華。何者もにも、屈服する心算はない。『捕食』するのは、常に自分でなければ為らない。
「其処の貴女。此方へ来なさい」
生徒の一人に、声を掛ける。史華の言葉に従う生徒。生徒の名前は、観月。先日の体力測定で観月は、史華より良い結果を出していた。
ほんの些細な差では在ったが、史華は赦せなかった。自分より少しでも優れた存在を、史華には赦せなかった。どんな理由で在ろうとも、嚥下する訳には往かない。
「貴女の全てを、私に捧げなさい」
「畏まりました。私の全ては、史華様の物で御座います」
史華の腹に埋め込まれた鏡に、観月の顔が映り込む。あどけなさが残るが、可愛らしい顔をしていた。活発そうな娘だった。本当に、気に喰わない。
観月の体が、ゆっくりと鏡に吸い込まれて消えた。
「此れで又、一つ。私は、完全な存在に近付いたわ!」
心地良い甘美の渦が、史華の体を包み込んだ。
己よりも優れた人間を喰らって、完全なる美を求めていた。
「貴女達、私に平伏しなさい。私を崇めなさい。貴方達の全ては、私の為に存在する」
恍惚の表情を浮かべて、史華は両手を広げた。
「此の学園の中に、私を殺そうとする者がいる。其の者を見付けて、捕らえなさい!」
授業終了のチャイムが鳴った。
其の瞬間。何事もなかったかの様に皆、日常へと戻った。




