漆
御影町の外れに在る霊山。其の奥部の空間に、結界が張られていた。相当な規模の結界で在る。元々、魔窟と化している霊山で在った。一般人が入っても危害が及ばぬ様に、数百年程前に何者かの手に依って、結界が張られていた場所だった。其の奥部の深奥に、更に別の手の者に依って張り巡らされた結界が在った。並の術者では不可能な御業で在る。相当に大掛かりな結界装置が必要で在る。
空間が歪んでしまって、昼と夜の境目を失っていた。太陽の光は一切、入らない。暗幕に照らされた其の場所の在る一点。何らかの術が施されているのか、薄ぼんやりと燈が灯されている。其処に、其れは聳えていた。
不夜城と化した其の建物の外観は、禍々しい不気味さを孕んでいる。
其の建物の一室。
用途の解らぬ器具が立ち並ぶ其処は、実験室の様でも在り、手術室の様でも在った。多くの呪符が張られていて、禍々しい像が数多く並べられている。不気味な様相の部屋で在る。部屋の照明は薄暗いが、不思議な事に部屋全体に光が万遍無く往き届いていた。
部屋の中央には、何かの儀式に遣われるのか、禍々しい祭壇が在る。蒼白く魔方陣か浮かび上がる祭壇の上に、燈の遺体が横たわっていた。其れは何処か生贄の様に思えたし、何処か手術代の上に乗せられた患者の様にも窺える。けれど、其の何方でも無い。一番近い印象は、実験動物だ。事切れて数日が経ってはいるが、其の身体は全くと謂って腐食の色は無かった。
燈を嘲笑うかの様に、鉈梛九が見下ろしている。
「此の男は間違い無く、最高傑作に成る」
薄気味の悪い笑みを浮かべながら、鉈梛九は呟いた。其の傍らには、萌が居た。其の表情は、昏い。普通の女子高生を装って、刹那と居た時には決して見せなかった表情だ。
「以前より考案していた新型の戦騎。其の依代に、此の男は相応しい」
既に燈の胸には、魔徒の心臓が埋め込まれている。如何なる技術が用いられているのかは不明だが、鉈梛九は天界でも随一の医学と科学の知識を得ている。頭はイカれてはいるが、頭脳は明晰で在った。
霊石の原石を掲げながら、鉈梛九は呪詛を唱えている。其れは、古い言語で在る。神々ですら識る者は少ない。其れは、魔徒の言語で在る。
蒼白い耀きを放ちながら、霊石がゆっくりと融けて往く。其の形が固体から液体へと成り、次第に気体へと姿を変えて往く。そして最後には、暉の粒子と成って燈を包む。
呪詛を唱える鉈梛九の声が、次第に強く成って往く。部屋全体を禍々しい程の邪気が、静かに埋め尽くして往く。
鉈梛九の叫ぶ声と共に、蒼白い暉が燈の中に雪崩れ込んで往く。
「目覚めるが良い。蒼人戦騎アカリよ!!」
心臓が脈打つ鼓動を感じて、鉈梛九は嘲る様にして嗤った。
燈は戦騎として、蘇っていた。




