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咎人の詩  作者: 81MONSTER(日本を代表する怪物)ポンコツ犬のタナトス
第十三話【正義】

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「何者にも、此の東山昭久を止める事は出来ない!」


 累々と転がる屍を満足そうに眺めて、東山昭久は笑っている。


 吐き気がする様な、邪悪な笑みで在った。


 此方の存在に相手は未だ、気付いていない様だ。好都合で在る。


 気配を圧し殺して、ゆっくりと小太刀を抜き放つ。既に龍脈の流れを読み取って、効果的に呪符を張り巡らせている。全ての氣の流れが、一箇所に流れる様に出来ている。上手くいけば、一撃で仕留める事が出来る筈だ。


 邪悪なる魔獣・タタラ。相手取るには、相当に骨が折れる。一瞬でけりを着けなければ、不味い事に成りそうだ。長引けば、此方に分が無いのは明白で在る。


 既に相手は、此方の間合いに入っている。間抜けにも、無防備な姿を晒している。自分は今、術で姿と気配を完全に消していた。眼の前に居るにも関わらず、全く気付いていない。相手が此方に気付いた時には、勝負は着いている。


 小太刀に術を掛けて、一気に相手の胸を刺し貫いた。慥かな手応えが、小太刀を通して手の内に伝わる。


 其の刹那、周囲に張り巡らされた呪符が反応した。


 龍脈を流れる氣を取り込んで、小太刀を通して東山昭久に流れ込む。胎内に流れ込んだ大量の氣が、大きな奔流と成って内側から大爆発が起きる。四肢が吹き飛び、其の存在は灰燼に帰す。


 ——其の筈だった。


「……嫌だ、嫌だ。……ふふふ。貴様の存在には、初めから、気付いていたよ。だが……私を殺すには、未だ未だ準備が足らない様だったな……ふふふ……」


 小太刀で胸を刺し貫かれて、龍脈の奔流に晒されているのに意に介していない。意味が解らなかった。完全に理解の外側に居る。何故、死なないのだ。不意に怪しい気配を感じた。何時の間にか、東山昭久の手にはナイフが握られている。此の儘、組み付いているのは不味い。離れなければ為らない。


 後方に飛んで間合いを取る香流羅に、東山昭久はナイフを投げていた。其れを小太刀で払った刹那、全身を何かで切り刻まれた。


「ほう……。今ので、死なないのか。思ったより、やるじゃあないか」


 完全に相手は、此方を格下に見ている様だった。


 余裕の表情を携えて、此方を見ている。


「……おや。貴様の右腕に付けている数珠。もしや、在の《金獅子》に斬られたガイア君じゃあ、ないのかね?」


此奴こいつの事を、知ってるのか?」


ああ、知っているさ。言っておくが私達は、そんな若僧よりも遥かに強いぞ!」


 東山昭久は、強烈な邪気を解き放つ。


 香流羅は其の背後に、魔獣の幻影ビジョンを見ていた。悍ましくて、歪で醜悪な姿の獣。


 異様な重圧を感じて、全身の毛が逆立っていた。


「我が名はタタラ。風を司る魔獣」


 不意に、声が聴こえた。東山昭久の声では無い。低い男の声だ。


 背後に魔獣の気配を感じる。


 慌てて振り返るが、其の姿は見えなかった。


 だが、確かに存在している。


「おいおい……。タタラの話を、聞いてなかったのか。風を司る魔獣だって、言っただろう?」


 小馬鹿にした口調で、東山昭久が訝る。


 どうやら、東山昭久とタタラは別々に行動、出来る様だった。おまけにタタラの姿は見えない。実体が無いので、斬る事も艱難だ。此の上無く厄介な相手で在る。今の自分に勝てる相手では無い。だが、死ぬ訳には往かない。赤丸と青丸を召喚して、香流羅は前に飛び出した。


 小太刀で東山昭久に斬り掛かりながら、赤丸を憑依させる。全身を赤い光の粒子が纏わり着いて、鎧と化していた。


 東山昭久はナイフで斬撃を受けながら、不敵な笑みを浮かべていた。


「何が可笑しい?」


「嫌だ、嫌だ。……禍人風情が、此の東山昭久に勝てると思っているのか?」


 東山昭久の握るナイフが、剣へと姿を変えていた。


 背後から迫り来る気配。


 タタラの姿は見えないが、龍脈の歪みを通して感じる事は出来た。


 禍々しい其の気配は、触れるだけであらゆる物を斬り裂く力を秘めている。触れるだけで、命取りだった。


「本当は、怯えているんじゃあないのか?」


 身体を捻り、タタラに術をぶつける。


 ——爆発。全く、手応えが無い。


 東山昭久が斬り掛かって来ている。小太刀で受けて、青丸に龍脈の氣を取り込ませる。


 巨大化する青丸が、東山昭久を目掛けて飛来する。


 並の魔徒ならば、跡形も無く消し飛ぶ威力で在る。其れを真面まともに受けるが、東山昭久は意に介していない。


「随分と滑稽だな!」


「黙れ!」


 転身の術で、姿を眩ませる。


 分が悪過ぎる。此のままでは、勝てない。


 いつの間にか、全身を切り刻まれていた。致命傷には至らないが、出血が酷い。


「其処だ!」


 東山昭久が、此方に向かってナイフを投げ付けて来る。小太刀で払い退けた。


 何とかして、逃げなくては成らない。自分は未だ、こんな所では死ねない。


「気を付け給え。タタラが行ったぞ……ふふふ」


 余裕の表情の東山昭久。


 迫り来る邪悪な気配。


 次第に酷く成る出血。


 既に霊獣の憑依は解けていた。


 絶望的な実力差。


 逃げなくては成らない。


 ——未だ、死ねない。


「そうそう。言っておくが、もう一体、魔徒が居るぞ……ふふふ。さっき、殺した時に憎悪を植え付けておいたからな」


 東山昭久の言葉に呼応する様に、警察官の骸の一つが起き上がる。


「悪は許さん……」


 虚ろな瞳で、此方を見ていた。


 拳銃を此方に向けて、発砲した。


 完全に不意を突かれた為に反応、出来なかった。


 香流羅の脳裏を、死のイメージが過ぎっていた。



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