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咎人の詩  作者: 81MONSTER(日本を代表する怪物)ポンコツ犬のタナトス
第二話【鬼子】

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「お嬢様、おはようございます」


 執事の比津地ひつじが、寝起きの史華ふみかに頭を下げる。の後ろにも、幾人いくにんもの召し使い達が控えている。


 天鵞絨ビロードのドレスに身を包んだ史華が、ゆったりとした動作で歩きながら、皆に微笑み掛けた。れだけで場に居る者の表情かおが、僅かに弛緩しかんするのが解った。静謐せいひつな空気が場を埋める中、一同の視線は史華へと注がれていた。皆が自分のとりこっている。男も女も、老いも若きも、史華に魅了されていた。


 史華は日本有数の大富豪、神峰財団の御令嬢でる。


 正真正銘のお嬢様でる。余り在る財と、恵まれた才。そして神も悪魔も区別なく魅了するだけの『美』を、自分は兼ね備えている。皆が魅了されて、うらやねたむのも無理はない。の世界は、自分の掌の上をまわるのだ。


御早おはよう、権座衛門ごんざえもん


 穏やかな笑顔を、比津地ひつじに向ける史華。の笑顔に、屈託くったくは無い。妖艶な微笑では無く、無垢なる少女の笑顔で在った。比津地は史華が幼い頃から仕えている。史華が心を許せる数少ない人間でった。故にの笑顔は自然な物で在ったし、温かで在った。もっとも史華自身は、の事に気付いていないのだろう。


「お嬢様、今日は一段と御美おうつくしゅう御座ございます」


 比津地ひつじの言葉には、嘘はなかった。


 いつだって、比津地は史華に対して真摯に向き合ってくれている。


 時には厳しく、自分を優しく気遣ってくれる比津地が、史華は大好きだった。


 忙しい両親に代わり、比津地が史華を育ててくれていた。


 故に史華に取って、比津地は家族も同然で在った。


 唯一、史華が人の子で在れる相手とっても、決して過言では無い。


「史華様。失礼、致します」


 専属のスタイリストの小池が、史華の髪の手入れをしようと頭を下げる。


 史華の身の周りの事は、召し使い達が全てしてくれていた。全ての道にけた者ばかりを、比津地に集めさせていた。比津地の采配に、史華は口出しする心算つもりは無かった。


 けれど史華は小池の事を、卑近ひきんな男だと軽蔑していた。話す言葉もヘアメイクの腕も、通俗的で面白味の欠片も感じられなかった。


 黙々と髪に櫛を入れる小池の指を見て、思わず嫉妬してしまった。


 男の癖に、美しい指をしていた。


 そう、自分よりも美しい指だった。史華にはれがどうしても、ゆるせなかった。


 妖艶な笑みを浮かべて、史華は小池に目線を送る。小池はれだけで、史華に魅了されてしまっていた。


 小池は召し使いとしては日も浅く、まだ若かった。二十代前半、と言ったところか。史華の美貌に掛かれば、小池程度の男をとりこにするのは容易たやすかった。


権座衛門ごんざえもん、食事の支度をしなさい」


かしこまりました」


 比津地ひつじは一礼すると、静かに退室した。


「他の者達も下がりなさい」


 言われるままに、小池を残して召し使い達は部屋を後にした。


「ねぇ、小池。貴方はもう、私に夢中でしょう?」


 立ち上がり、史華は衣服を脱ぎ捨てた。


 美しい肢体が、あらわになる。一糸纏いっしまとわぬ史華を見て、小池の目線と心は奪われていた。


 妖しくわらう史華。小池の息は、次第に荒くなる。


 ゆっくりと、史華へと手を伸ばす。


 柔らかで豊満な乳房に触れる寸前で、小池の手が止まる。


「貴方、ごときが……の私に触れる事は、ゆるさないわ」


「申し訳、御座いません……」


ひざまずきなさい」


 史華の言葉に従う小池。


「貴方の全てを、私に捧げなさい」


 史華の腹に、鏡が埋め込まれていた。


 の鏡に、小池の姿が映っている。


「私の全てを、史華様に捧げます」


 小池の体が、少しずつ鏡に吸い込まれていた。


 魔徒まとと成った史華に、喰われているのだ。


「私の美貌びぼうの前では、全ての者が無力だわ」


 史華は誰も居なくなった部屋で、わらっていた。



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