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咎人の詩  作者: 81MONSTER(日本を代表する怪物)ポンコツ犬のタナトス
第十ニ話【傀儡】(後編)

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 竟は静かに、呼吸を整えた。


 互いに対峙する二人。


 自分が最強と呼ばれる以前まで、『最強』の名を欲しい儘にしている男が居た。靡隕羅は其の男を常に目の敵にして、最強の名を狙っていた。竟は闇に墜ちた其の男を倒して、後に『最強』の称号を得た。


 靡隕螺は所謂いわゆる、戦闘狂で在った。


 只、強い者と闘えれば其れで良かった。


 竟は靡隕螺の性質を、良く知っていた。自分の事を常に、敵視している事もっている。


 『最強』の称号を、自分が奪ったのだから当然だ。


 荒れ狂う怒りが、靡隕螺の力の根源で在る。そして、其の怒りは灼熱の炎として其のに宿る。


 其れが、【灼熱の靡隕螺】と呼ばれる由来だ。


 そして靡隕螺は自分への怒りと共に、闇に墜ちた。自分と闘う為だけに、闇に墜ちたのだ。


 闇に墜ちた者は、此の【金獅子】が斬る定めに在る。曾て靡隕羅を斬って、【闇の牢獄】へ投獄したのも自分だ。其の時には矢紅の協力が在った為、事なきを得れた。真面に相対すれば、無事では済まされない。


 【闇の牢獄】が破られたと聞いて、靡隕螺と相対する事は理解わかっていた。既に覚悟は出来てはいる。


「滾る右手に炎。怒れる左手にも炎ぉ……燃やすぜぇッ……灼熱の——炎ぉ〜ッ!!」


 相変わらず暑苦しく叫びながら、靡隕螺は突進して来る。靡隕羅の炎は、感情が昂れば昂る程に、熱く為る。故に激高すれば、かなり不味い事に為る。


 全身を業火に染め上げて、拳を繰り出して来る。


 ——獣化喚装を維持して要られる時間は後、三秒と言った処だろうか。


 其れ迄に、靡隕螺をたおさなければ成らない。


 靡隕螺の炎を、左腕部のブレードで払う。其の炎の熱量は、霊石で出来た戦騎ですら溶かしてしまう程だ。絶対に直撃だけは、避けなければ成らない。


 尤も当の靡隕螺ですら、己の炎に焼かれている為、僅かな時間しか纏う事は出来ない。


 溶ける左腕部のブレード。何とか左腕で靡隕螺の拳をなしながら、身体の重心を移動させる。


 大剣で比較的に温度の低い背を、縦に斬り附ける。


 鋼よりも堅く鍛え上げられた靡隕螺の筋肉が、刃を遮るが構わず全体重を、大剣に掛ける。


 ——残り二秒。


 背を斬られながらも、靡隕螺は反撃をする。吹き出る靡隕螺の血は、マグマの様に熱を放つ。油断していると其の血液だけで、焼き殺されてしまう。


 灼熱の炎を纏った廻し蹴りが、竟の側頭部を襲った。


 獅子の持つ動体視力ですら、其の動きを捉えるのは艱難かんなんで在ったが、何とか肩で防御した。だが、触れる事ですら命取りと為る。


「……糞ッ!!」


 激痛にも似た熱を感じる。戦騎の肩部が、溶けている。既に靡隕羅の肉体は、千度を超える熱を放っている。肩が解けなかったのが、奇跡に近い。


「貰ったぁッ!!」


 追い討ちを掛ける様にして、靡隕螺の灼熱の拳が竟の胸部を捉え様としていた。


 逃れる術は無い。喰らえば、下手をすれば即死だ。


 竟の脳裏を、過去がよぎった。



   ●



「お前が、羅漢を斬った男か?」


 【皇渦陸仙】に成り立ての竟に、靡隕螺は開口一番に問い掛けた。


 羅漢とは自分の前任の【皇渦陸仙】で、闇に墜ちた戦騎騎士だった。


 本当に強い男で在った。自分が勝てたのも、相当な幸運に恵まれた事が大きい。


「奴は俺に取って、掛け替えの無い友で在った」


 羅漢は真っ直ぐに、自分を見据えていた。


 其の瞳の奥に宿る感情までは、読み取れない。


「お前に対して、怒りを抱いている訳じゃない。寧ろ感謝してるくらいだ。友を、闇から救ってくれたんだ」


 其の言葉に、偽りは無い様に思えた。


 向けられた真摯な眼差しが、そう物語っている。


 羅漢の討伐は、自分が【皇渦陸仙】に任命されて初めての司令で在った。


「俺が憤っているのは、寧ろ不甲斐ない自分に対してだ。出来る事ならば、此の俺の手で、アイツに引導を渡して遣りたかったッ!!」


 周囲の空気が、熱を帯びているのを肌で感じていた。尋常では無い熱さで在った。立って居るだけで、焼け死んでしまいそうで在った。


 熱の発信源が、靡隕螺だと直ぐに解った。


「己の内側に宿る炎を、完全には抑えられなく成っちまってる。お前にこんな事を言うのも何だが、頼みが在るッ!!」


 灼熱の殺意が、靡隕螺の内側から静かに溢れ出している。真面に闘って、勝てる相手では無い。闘うには、覚悟の要る相手で在る。


 思わず腰に挿した短剣に、手を掛けていた。殺意と悪意が混同してしまえば、止まらなく為る。自分には、靡隕羅を斬る理由が無い。靡隕羅に其の気が在れば別だが、出来るだけ闘いは避けたかった。


「俺はいずれ、闇に墜ちる事になるだろう。そう成った時は、お前が俺を斬ってくれッ……頼む!!」


 其の懇願は、心の奥底から来る感情に依る物だ。感情のコントロールが出来兼ねている。靡隕羅の心は、危険な処に在るのかも知れない。


 此の男とは、何れまみえる定めと成る事を、竟は直感的に理解した。


「解った。アンタが闇に墜ちた時は、俺が必ず斬る」


 真摯に靡隕螺を見据えて応えた。


「ありがとう……。此れでお前は、今日から俺の友だッ!!」


 緩やかに、靡隕螺の熱が下がるのが解った。


 ——必ず、靡隕螺を救ってみせよう。


 竟は人知れずに、友に誓っていた。



   ●



 全く我ながら、無茶な約束をした物だ。


 愚かにも、程が在る。


 だが、自分には騎士としての使命が在る。


 友と交わした約束が在る。


 其の誓いも、使命も、等しく抱いて【最強】の称号を受け継いだ。


 覚悟ならば、うに出来ている。


 だが、だ死ぬ訳には往かない。だからこそ今、此処で更なる覚悟が必要だった。


 ——残り一秒。


 獣化喚装に依りレオンと同化している為、互いに意志が通じ合っている。


 鎧の刻印が、耀きを増して戦騎が最終形態へと変貌する。


 秘中の奥の手を使うのは、羅漢との闘い以来、初めてで在った。其れ程迄に、靡隕螺は強い。自分以外で靡隕羅に対抗しるのは、矢紅ぐらいだろう。其れ程の戦力が、敵側に廻っている。天界の最高戦力で在る皇渦陸仙——其の半数が、闇に墜ちているのだ。此れ程に滑稽な事は無い。既に肚は決まっているが、文句の一つでも謂いたい処だ。


 全身を纏う鎧が、獅子の体を象っていく。金色の体毛が生え、炎の鬣も映える。


 竟は自ら前に出て、靡隕螺の灼熱の拳を受けた。戦騎が溶け出して、熱と衝撃が胸を貫いて往く。明らかな致命傷で在った。


 ——零秒。


 気高き獅子の咆哮が、轟いた。


 獣化喚装には、次なるステージが存在する。此の事実は恐らく、戦騎を産み出した鉈梛九しゃなくですら知り得ない。


 浄化させたとは言え戦騎には、魔徒の魂が宿っている。自分は其の魔徒の力を使って、戦騎を人為的に鬼神化させる事が出来た。


 羅漢との闘いで、偶発的に見付けたすべで在る。


 尤も、ほんの一瞬の間だけだ。生死を分ける極限の状況下でのみ、其れは可能と成っている。此の境地に至るのは、此れで二度目で在る。


 当然ながら、相当なリスクを孕んでいる。


 下手をすれば此の儘、魔徒に成り下がるかも知れない。もしかしたら、死ぬかも知れない。或いは、闇に墜ちてしまうかも知れない。


 其れでも、鬼神化する道を選んでいた。其れ以外に道が無い。


 覚悟なら、既に出来ている。



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