弐
「レオン……獣化喚装だ!」
其の言葉と共に、戦騎が喚装される。既に疲弊が激しかった。本来、戦騎の喚装には制限が在る。通常喚装だけでも、連続して喚装していられるのは日に五回が限度で在る。既に自分は二度、喚装している。加えて、深手を負ってしまっている。
獣化喚装は体力の消耗が著しく、制限を超えて使用すれば闇に墜ちてしまう。何処からが制限を超えるのか、其の線引きは明確では無い。自分の場合の目安で謂えば、今回の獣化喚装で制限を少し超えてしまうだろう。リスクを背負う事に為るが、其れだけ得られる物も大きい。
全身の筋力が増加されて、竟の身体は膨れ上がっていた。喚装された戦騎には、金色に赫く刻印が浮かび上がっている。
通常の喚装時にも、身体能力の増加は在る。だが獣化喚装時の其れは、通常の喚装よりも遥かに強大だった。
ほんの僅かな出狗の変化を、竟は敏感に嗅ぎ取っていた。
獣化喚装により受ける恩恵は、筋力増加だけでは無い。獣の持つ嗅覚や聴覚が、竟の感覚を引き立たせている。
金獅子戦騎レオンは、ライオンの戦騎。今の竟は、戦騎と一体になっている。故にライオンの持つ力を有していた。
手負いの身体で、獣化喚装して要られるのは、恐らく十秒が限界だろう。其れを越えれば、鎧に身体を喰われてしまう。
「小僧。悪いが、手加減は出来んぞ……」
言い終わるや否や、竟は動いていた。残像を残す程の速度で在る。
出狗に目掛けて、物凄い勢いで突進していた。
——ライオンの走る速度は一般的に、時速五十八キロに達すると言われている。加えて獣化喚装に依って、竟の身体は大きく成っている。纏う戦騎の硬度も、極めて高い。
言うならば其の衝撃は、大型トラックに正面から撥ねられている様な物だ。生身の身体ならば、即死している。戦騎を纏っていようとも、受けるダメージは多大な物で在る事は間違い無い。
竟のタックルを真面に受けて、出狗は吹き飛ばされていた。
追い討ちを掛ける様にして、竟は大剣を力一杯、ぶん投げた。
其の大剣には、極界の炎が宿っている。真面に喰らえば、命は無いだろう。
並々成らぬ衝撃が、校舎を揺るがしていた。
舞い上がる砂煙りを割って、見慣れた男の姿を見て竟は嘆息した。
——矢張り、潜んでいたか。
男の繰り出す拳を、左手で往なして廻し蹴りを放った。
右足の爪先が頭部に触れる寸前で、男は身体を回転させていた。男の後ろ廻し蹴りのカウンターが、綺麗に決まった。
鈍い衝撃を頭部に受けて、僅かにだが竟の意識が振れる。
後方に倒れそうに成るのを、何とか踏み留まった。
男は軸足だけで器用にステップを取り、前蹴りを放っている。
——此れ以上のダメージは、不味い。
身体を逸らして、何とか躱した。だが其の隙を衝いて、出狗が斬り込んで来ている。どうやら、追撃を躱していた様だ。完全に虚を突いた出狗の奇襲が、竟の喉を撃ち貫こうとしている。
「舐めるなぁッ!」
獅子の咆哮と共に、炎の鬣が出現した。
戦騎に施された刻印が、赫きを増して往く。
戦騎の両腕部から、刃が出現している。
左手の刃で出狗の太刀を受けて、右腕で斬り衝ける。金属が擦れる音と共に、火花が舞い散る。
離れた位置に在る大剣に、念を送り込んだ。出狗を目掛けて、大剣が舞い戻る。
再び舞い上がる火花と金属音。おもい切り出狗を殴り衝けて、大剣の柄を手に取った。
意識を失ったのか、地に伏す出狗。戦騎の喚装も解けている。流石にもう、起き上がって来る事も無いだろう。そう在って欲しい。曇り掛けた意識の中、男に向き直る。丹田を意識しながら、呼吸を整える。
「何故、襲って来なかった?」
——今の攻防の最中、其の機会は幾らでも在っただろう。出狗と一緒に為って襲って来られれば、一溜まりも無かった。
しかし男は、佇んだ儘で在った。
「正々堂々と勝たねば、此の俺の最強は証明、出来んだろうがッ!」
相変わらず忙しない男だ。
獣化喚装をして、既に六秒が経過していた。
「どちらが最強か、今日こそ決めさせて貰うぞッ!!」
猛る男は【皇渦陸仙】が一角。【灼熱の靡隕螺】で在る。五体満足で闘っても、勝つのは困難な相手で在った。




