壱
私立晴明女学院に入学したばかりの刹那は、クラスでも浮いた存在で在った。
生徒の大半は富裕層の令嬢で在る。
其の為か皆、プライドが高い。少しでも己よりも劣っていよう物ならば、相手よりも優位に立とうとする者ばかりだ。
己よりも裕福な家庭に恵まれた者には、媚び諂い顔色を伺う者もいた。皆、将来の為の人選をしている。少しでも自分を良く見せようと、己を衒い続ける。
そんな彼女達を、どうしても刹那は好きには成れなかった。其の為、クラスの空気に溶け込めずに、刹那は次第に孤立していった。別に友達なんて要らない。独りで居た方が、楽で良かった。
御法院家は古くから在る名家で、元々は大きな力を有していた。
其の裏には《禍人の血族》で在る事が関係している。
魔を払い滅する事が出来る御法院家は、莫大な富と権力を有している時期が在った。
現在でこそ廃れてはいるが、其の名声は未だに生きている。
刹那自身は何も聞かされていないし、興味も無かった。だが周囲の令嬢達は、其の名に肖りたいのか、刹那に群がっていた。羨望と妬み。自己顕示と策謀が、合い俟った感情。そう謂った人間は、一様に卑しく醜く思えた。
そんな彼女達を何処か、別世界の存在で在るかの様に刹那は眺めていた。
——傍観者。
学校での刹那を形容するならば、恐らくそんな処で在る。故に刹那には、気の許せる友達はいなかった。誰かと深く関わる事が苦手だったのだ。友達なんて要らない。自分は独りで良い。腹の探り合いをして、人よりも優位に立つ生き方なんてしたくは無かった。
——貴方、いつも一人で居るのね?
馬上萌が声を掛けて来たのは、入学して一月後の事だった。初めて声を掛けられて、刹那は驚きを隠せないでいた。他の者の様に、媚び諂った様子は窺えなかった。
萌は自分と同じ様に、周囲に溶け込めずにいる。萌の家は、お世辞にも裕福とは言えなかった。何故、彼女が此の学校に入学してきたのかは解らないが、彼女の身の丈には合っていない。周囲の人間が彼女に見向きもしないのは、当然の事では在った。
そんな彼女が声を掛けて来たのは、必然の事で在ったのかもしれない。
——あら。そう言う貴方も、いつも一人みたいね?
互いに視線を交える二人。
妙な沈黙が降りたかと思うと、どちらからとも無く二人は笑い出した。
——皆、人の顔色を窺ってばかりいて、馬鹿みたい。刹那も、そう思うでしょ?
大きな声で、萌が言った。当然の事ながら、周囲の者達にも聞こえている。間違い無くクラス中の反感を買う事に成る。自分ならば、絶対にしない——否、出来ない行為で在った。
皆、蔑む様な視線を萌に注いでいた。しかし当の萌は、気にしていない様子だった。そんな萌が誇らしげで、格好良く見えた。
——周りに、どう思われたって構わない。だって私は、私で居たいもの!
萌の其の言葉に、刹那は共感していた事を昨日の事の様に覚えている。
二人が互いに打ち解けるのに、然程の時は要らなかった。
刹那に取って萌は、生まれて初めての気が許せる友達と成っていた。




