漆
胸部に鋭い痛みを憶えて、竟は蹌踉めいた。胸を刺されたと理解するのに、数瞬の時を要した。気付くと戦騎の喚装が、解けている。致命傷には至らないが、早く手当てをしなければ成らない。
大剣の一撃を放つ際に、出狗の一撃を受けてしまっていたのだ。だが何故、戦騎の装甲を刃が通ったのだろうか。少なくともレオンの強度は、戦騎の中でも五指に入る程だ。短刀では刃を通す事は、至極艱難な筈だ。
倒れる出狗に目を遣る。
どうやら出狗は、意識を失っている様だ。無防備な姿を晒している。
二対の短刀。其の片方には、反りが無い。
——成る程。鎧通しを使用していたか。
鎧通しとは、其の名の通りに、鎧の隙間を通して刺す為の刀だ。
身幅が狭くて、元重ねが極端に厚いのが特徴で有った。先重ねが薄く頑丈な造りに成っている。
短刀二刀流には、持って来いの武器と言う訳だ。
「あの糞爺が。対戦騎用の武器なんざ、造ってやがったか……」
出狗の衣服の下から、ちらりと鎖帷子が見えた。良く良く見ると全身に、充分な具足を纏っている。
どうやら初めから、一撃を貰うつもりで放った刺突で在った様だ。見事な覚悟と当身技で在った。お陰で多大な傷を被った。
受けたダメージは、自分の方が大きい。
だが、意識が在るのは自分の方だ。
目覚める前に、止めを刺させて貰うとしよう。
喚装が解けた為に、大剣は短剣に姿を変えている。尤も止めを刺すだけならば、充分で在る。
「悪く思うなよ、小僧ッ……!」
勢い良く短剣を振り降ろした。




