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咎人の詩  作者: 81MONSTER(日本を代表する怪物)ポンコツ犬のタナトス
第十一話【傀儡】(前編)

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 出狗は遥か前方を見据えていた。


 空間の歪みを、感知したからだ。何者かが、結界を抉じ開け様としている。


 其の主に心辺りが在る。先日、自分を追い込んだの男だ。胸裏を撫でる苛立ちに、出狗は歯噛みしていた。


 夷蕗竟いぶききょう


 《金獅子》と呼ばれる最強の戦騎騎士。


 ——借りを返してやる。


 出狗は二刀の短刀を引き抜いていた。


 だが、背後に邪魔な奴が居る様だ。魔徒の気配を携えている。並の手練れでは無いのは、気配からして解っていた。闘ってみたいと謂う気持ちは在ったが、今は其れ処では無かった。金獅子を相手取るのに、魔徒を相手にしている余裕は無い。


 出狗は振り返りもせずに、戦騎獣を召喚してしていた。


 魔徒の相手は、魔徒に任せるとしよう。


 戦騎獣の群れが、後方から出現した。


 獣の唸りの様な叫び声と共に、激しい金属音が鳴り響いた。


 空気が瞬時にして、氷附いた。肌を焼く緊迫した冷気が、出狗の身体を身構えさせる。戦場独特の死の匂い。曾て幾度となく味わった感覚には、懐かしいなどと謂った生易しい感傷は一切も無い。


 在るのは、獣の飢えだけだ。幼い頃からずっと、強さに焦がれ飢え続けていた。其の『強さ』の象徴を纏った男が、自分を標的として定めている。何としても、此の手で仕留めたい。強者を喰らえば、更なる力が手に入る。出狗の心は、静かにぜていた。


「奴が、来るぞ。ガルム……喚装だ!」


 前傾姿勢に構えながら、戦騎を纏った。焦り猛る心は、逸り駆ける刃と共に唸る。獣の心は常に、刃と共に在る。修羅と成り、獣の道を辿った時から、出狗は人外の存在と成った。


 出狗の生まれ育った家は、古くから剣術の道場を開いていた。流派の名は、戌咬弐天流。出狗は僅か十歳の頃に、皆伝に到達している。生まれながらに、天から才を授かっていた。だが、其れでも勝てぬ者が居る事を、幼いながらに識った。其の事が出狗の運命を、大きく狂わせた。出狗は常に、力を求めていた。修羅と成って迄、力を欲し続けた。


 罪人と成り、札付きと成った。後悔は無い訳では無かったが、其の感情は既に失われている。今更、後には退けない。前に進む以外には、道は在りはしない。人外の道に足を踏み入れ、罪と共に獣の道を歩んできた。刃は常に人を殺め続けた。奪い、殺し、其れでも尚、飢えは増して往った。満たされぬ想いを抱きながら、地を這い続けた。


 流転の旅をしながら、出狗は強さを求めた。其の過程で身に付けた構えが在った。此の構えを、出狗は獣刃と名付けた。


 前傾姿勢で地を這う獣の様に、短刀二刀を構えていた。


 獣が息を潜めて獲物を狙う様に、夷蕗竟が顕れる瞬間を窺った。時だけが、静かに流れている。丹田を意識して、ゆっくりと呼吸を整える。冷たい風が、肌を撫で附ける。もう間も無く、現われるだろう。


 出狗は奇襲を、卑怯だとは思わなかった。相手の意を欠く立派な戦術で在る。命の遣り取りに、卑怯も糞も無い。死に逝く者の謂い分など、通る訳も無い。敗者の道理は、決して通りはしないのだ。


 ——そう。だからこそ、負けれぬのだ。勝つ為には、手段を選んでいられない。


 多勢に無勢も又、同様で在った。


 背後の魔徒に戦騎獣の大半をつかったが、残る十数体は未だ温存している。


 空間が陽炎かぎろいの様に、歪み始めた。


 ——刹那、出狗は動いていた。


 顕れた夷蕗竟に、左右の連撃を放つ。其の動きと俊敏はやさは、正に獣の様で在った。


「随分と手厚い歓迎だな、小僧?」


 余裕の笑みを張り付けながら、大剣で剣撃を受ける竟。出狗の胸中を、苛立ちが増して往く。遠くから風に乗って、うたが耳を掠めている。どうやら苛立ちの原因は、うたの様で在った。


 思い出さなくても良い事を、思い出していた。


 ——怖い子やなぁ。殺してしまおかな?


 脳裏にの男の声が蘇る。忌々しい記憶の糸が、ゆっくりとほどけて往く。苛立ちを払拭するかの様に、出狗は叫んでいた。


 からだを縦に旋回させて、上段斬りを放った。


 夷蕗竟はからだを半歩、翻して躱し、廻し蹴りを放った。後頭部に鋭い衝撃を受けて、出狗は地に伏せた。


 大剣を撃ち降ろす夷蕗竟。何とかを捻って、逃れるが追撃が迫り来る。残る戦騎獣を全て、召喚して夷蕗竟を襲わせた。


「随分と面白い玩具だな?」


 後方に飛んで、戦騎を喚装させる夷蕗竟。


 炎を召喚させて、大剣を大きく旋回させていた。炎が渦を巻いている。金色の炎が、獅子の姿を形作る。


 夷蕗竟の活と共に、炎の獅子が解き放たれる。


 瞬く間に全ての戦騎獣が、炎に飲み込まれて消滅した。滅茶苦茶だった。化物じみている。理屈も糞も無い。夷蕗竟は強過ぎる。果ての無い其の強さは、初めて対峙した時から痛感していたが、其れでも退く訳には往かない。勝てぬからと謂って、逃げる訳には往かない。逃げ恥を掻きたくないと謂うのとも違うが、出狗には逃げる事が出来なかった。心の奥底に燻っている純粋な憎悪の念が、逃げる事を赦さないのだ。


 其の感情が、何処から来るのかも識っている。けれど、其れを認めたく無かった。認めれば、全てが終わる。取り返しの附かない程の絶望的な感情が、一気に己を焼いてしまう。だからこそ、逃げる事は出来ない。闇雲に力を求めて只々、喰い荒らすだけの獣。そんな自分と違って、夷蕗竟は気高き獅子の様に思えた。


 余りにも絶望的な実力差に、出狗の苛立ちが頂点に達していた。歯噛みした奥歯が、軋みと共に悲鳴を上げている。全てが気に喰わない。怒りの感情が、辛うじて出狗の心を支えている。


 ——純粋な怒り。其の根底は、過去の記憶が少なからず影響している。


 弱い自分が、どうしようもなく赦せなかった。幼かった妹の存在が、脳裏を掠める。必死に其れを振り払う様に、出狗は剣を振るった。狂言綺語を並び立てる心算は無いが、逃げて生き永らえる様な無様な真似だけはしたくなかった。死して尚、強さを欲した。闇の中で只、機を窺い新たな生を手に入れた。果たすべき事が在る。其れまでは、死ねない。だが、死んでも逃げる訳には往かない。


 退けば、心が死ぬ。


 其れだけは、出来ない。


「出狗よ……悪い事は言わん。全力で逃げろ」


「黙れ、ガルムッ!」


 間合いを取り直し短刀二刀を構え直して、出狗は叫んでいた。


 ——どいつも、こいつも嘗めやがって。


 獣の様な唸りを上げて、出狗は飛び掛かっていた。


「終わりだ……小僧ッ!」


 大剣の突き抜ける様な衝撃を受けて、出狗の戦騎は解けていた。



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