第五話:赤き執行、魂の所有権
第五話:赤き執行、魂の所有権
南坂康生との激闘は、両者相打ちに近い形で幕を閉じた。龍雄の放った「不条理な熱」は、南坂が築き上げてきた論理の城を焼き払い、同時にその奥底に眠っていた「法を志した頃の情熱」を呼び覚ましていた。
数日後、龍雄の元に一通の書面が届く。差出人は裏組織『ガイアス帝国』。
内容は、龍雄が持つ『赤龍の盾槍』を窃盗品と断定し、即時返還を求める民事訴訟の通知だった。
「マブイ値『1』の者に、これほどの遺産を所有する資格はない。これは社会的な損失である」
強者が弱者から全てを奪うための、傲慢な法の暴力。
「河井さん。この訴訟、私が引き受けましょう」
窮地に立たされた龍雄の前に現れたのは、剣を置き、弁護士バッジを胸に掲げた南坂だった。
「あの日、あなたの不合理な一撃に、私の論理は敗北した。……今は、その『正解』を法廷で証明したくて堪らないのです」
物語は、厳粛な法廷での審理と、黄金剣闘会が仕掛けた「所有権確定試合」が同時並行で進んでいく。
法廷。南坂は壇上で、氷のように冷徹な相手検察官を前に、熱を帯びた声を響かせた。
「魂の継承とは、数値による売買ではない! 志を同じくする者同士の『意志の同調』によってのみ成立する聖域である!」
時を同じくして、コート上の龍雄は帝国の執行官と対峙していた。相手の攻撃は、龍雄の力を削ぎ落とすための事務的な連撃。だが、今の龍雄の耳には、南坂の授けた「戦術」が届いていた。
『河井さん。法も剣も、相手の正義が重すぎるなら、その重みを利用して倒せばいい』
執行官が放つ、数千マブイを込めた重力弾。龍雄はそれを盾で弾かず、あえて懐深くへと引き込んだ。南坂が法廷で相手の矛盾を引きずり出すように、敵のエネルギーを「法的な正当性」を持って自らの中へ受け入れていく。
「……ここが、判決の時だ」
法廷で南坂が「勝訴」の判決を勝ち取り、木槌が打ち鳴らされたその瞬間。
龍雄の中で臨界点に達したエネルギーが、槍の先から弾け飛んだ。
「エネルギーの所有権を、強制執行する」
一閃。赤い軌跡が執行官の胸部コアを正確に射抜き、沈黙させた。
「……計算、通りだ」
初めて口角をわずかに上げた龍雄。その表情には、かつての「持たざる者」の悲壮感ではなく、自らの居場所を勝ち取った者の誇りが宿っていた。
判決により、龍雄は法的にも武術的にも『赤龍』の正当な継承者として定義された。
氷野の「正義」、南坂の「理」。二人の強力な後ろ盾を得た龍雄は、搾取される弱者たちの希望として、さらなる巨大な影――『ガイアス帝国』の深部へと、その槍を向け直すのだった。




