第十一話:虚無の球場(スタジアム)、絶望へのカウントダウン
ゼノが手にした黒いバットから、墨を流したような「虚」の波動が溢れ出しました。それはスタジアムの照明を、観客の声を、そして空の色さえも飲み込み、周囲を完全な暗黒へと変えていきます。
1. 閉ざされた異空間
「これが帝国の真価だ。……全てを『無』へ。君たちの熱も、絆も、初めから存在しなかったことにしよう」
ゼノがバットを地面に突き立てると、スタジアムそのものが現実世界から切り離され、異空間へと引きずり込まれました。
アルバートの植物は枯れ始め、武のサイボーグボディも供給源を断たれたように火花を散らして機能が低下していきます。
「っ……、マブイの供給が止まったデス! 大地のエネルギーが、届かない……!」
アルバートの叫びが響きます。龍雄の盾から伸びていた「根」も、異空間の壁に阻まれ、枯れ木のように力なく垂れ下がりました。
2. 絶体絶命の守備
ゼノは不敵な笑みを浮かべ、打席に立ちました。
「さあ、最終イニングだ。この一球で、全てを終わらせる」
ゼノが放った打球は、物質としての質量を持たない「虚無の衝撃波」でした。それは龍雄の赤い盾を透過し、彼の肉体を直接消滅させようと迫ります。
龍雄は歯を食いしばり、盾を構え直します。
しかし、大地の助けがない今の彼には、立ち向かう術がありません。腕の傷跡が激しく疼き、意識が遠のきそうになります。
3. マブイネービラの「気」
「――諦めるな! 龍雄!」
その時、ベンチから生身の人間たちが飛び出してきました。
それは、からくりを持たない**「マブイネービラ」**の選手たちや、かつて龍雄が救った一ノ瀬、そして広島から駆けつけたかつての仲間たちでした。
「俺たちにはマブイなんて最初からない! だから、奪われるものもないんだよ!」
「機械が動かないなら、俺たちの『気合』を食らえ!」
マブイを持たない彼らは、ゼノの「虚」の波動を物理的にすり抜け、龍雄の背中に次々と手を置きました。
彼らが注ぎ込んだのは、数値化できない純粋な**「精神力」**。
4. 武神、真の覚醒
「……熱い。マブイじゃない……これは、『命』の音か」
龍雄の腕の傷跡が、緋色を通り越して真っ白に発光しました。
マブイ量「1」。しかし、背負った仲間の数は「無限」。
龍雄の盾が、異空間の法則を無視して再び赤く輝き始めました。それは大地の力ではなく、今ここに生きている人間たちの**「存在の証明」**。
「ゼノ……あんたは知らないだろうな。……何もない奴が、一番強いってことを」
龍雄は槍を真っ直ぐに突き出しました。
その先には、もはや植物の蔓ではなく、龍の姿をした純粋な精神エネルギーが渦巻いていました。
5. 逆転のフルスイング
「馬鹿な……!? 数値ゼロの塵芥どもが集まったところで、何が変わる!」
ゼノが逆上し、虚無の力を最大まで引き出したスイングを繰り出します。
しかし、龍雄の「武神」としての目が、その黒い闇の中に一点だけ存在する「核」を見抜きました。
龍雄は武の肩を借りて跳躍し、空中で槍を一閃。
「――武神流、赤龍穿!!」
精神力(気)を一点に集中させた槍が、ゼノの黒いバットを真っ二つに叩き割り、その胸の中央にある「虚」の発生源を貫きました。




