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女神の帰還  作者: 甲斐 つかさ


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女神の帰還 11


 リ・クィア・マクドカルと、呼ばれたとき顔をあげた。それが名前だと知っていたのではない。唯単に、呼び掛ける響を其処に感じただけのことだ。

 氷柱に囲まれた神殿を歩きながら、リ・クィア・マクドカル、帝国旗艦藍氷艦長であり帝国軍少将と、いまは封印された身分を持つ己のことを考えていた。

 皮肉な笑みが浮かぶ。

 裏切り者というなら、そうなのだろう。

 この辺境にある惑星で、育ったと教えられた。そして、その母惑星が、帝国の膝下に落ちたことも、―――いってしまえば、それまで独立し帝国に加盟してはいなかったのを、力によって支配されたのだと、教えられた。

 よくも正直に其処まで教えたものだと思う。それから、選択肢を与えられたのだ。初めて学ぶのか、それとも以前にも知っていたのか判別のつかない帝国史と政治、各星域の惑星母体を中心とする政治形態や経済と人の動きを教えられた。無論帝国に敵対する勢力も、そして母惑星のように、支配されることとなった星域も多いということを。

 艦というものが気を引いた。どうしてかは判らない。唯、同じ生きていくなら、母惑星、惑星上に留まるという選択肢を選びたくは無かった。如何してかは知らないが、宇宙に暮らしたかった。それに、艦に乗船する帝国軍人というのは実に魅力的な選択肢として眼前にあった。

 それから、出来ることをしてきたら、いつのまにか此処に居た。帝国軍将軍というのは、確かに以前の身分を考えれば、裏切り者といわれて仕方の無い身分だと納得出来る。

 以前、この辺境惑星、――形式型番でのみ呼ばれる惑星名は、確か一一七八に星域ナンバーが付くものだったが――は確かに固有の名称を持っていた。

 美しい名を持っていた。氷華、という。

 支配する皇族の名を、マクドカルと云った。

 いまは抹消されている事実だ。

 アクセス権限が帝都中枢でも限られたものにしかあたえられない情報を、リ・クィアは或る存在から得ていた。

 ――此れは君の選択肢だから、といって。

まったくどうして、それを知ってなお、帝国籍であることを選んだのだろうと自分でも呆れる。帝国は、母惑星の名前を奪い、その皇国を支配していた一族の名を表にすることすら禁じ、何もかも十年前の出来事は闇に葬られたのだ。其処までした相手の。

「確かに、お先棒を担いでいる。」

うまいこというな、と感心して呟く。先に悠然と待つエンゲスの姿。後ろで唸っている――恐いからやめとけ、といってやりたいが、―――リゲルの姿が目に見えるようで少し笑った。

 エンゲスの前に立つ。

「武装解除して頂きましょうか。」

「尤もだ。」

微笑んで、シールド制御装置に手を掛ける。背後から、焦った声が背を叩いた。

「艦長!いけません!」

リゲルの云う事が尤もだと思う。帝国軍人の、特に将官の武装解除は、本人の意志が無ければ事実上不可能であった。エンゲスも無論それを知るから、これまで銃口一つ向けては来なかった。実際、無駄なことはしないものだ。銃撃処か至近距離での爆破さえ無効にしてしまうシールド制御装置を各人が携帯している。武器弾薬の類に至っては、本人の意志以外でその身から離そうとすれば、自動的に相手を攻撃する代物になっている。半生命体制御の装置類に護られているのだが、実際の処、少々過保護だ、とおもっているリ・クィアである。

 シールド制御装置をまず外す。床に落ちたそれにリゲルが蒼醒めるのが判る。まずこれを外さなければ、意識を失っている時に攻撃しても、シールドが本人にお構いなく自動展開して小規模な砲撃からなら身を護るという剣呑な代物である。序でにいうと、下手に攻撃して暴発が起これば、引き起こした爆発で周囲十カラン一円が吹き飛ぶおまけもついていた。十カランは大体、人が昔歩いて一時で辿り着けた距離だというが、いまでいうなら小さな規模の街一円が入る位の小距離である。宇宙での単位に慣れた艦長には実感しにくい距離だったが、寝室で爆発すれば艦橋まで爆破される、と聞いたときには心底迷惑な装置だと思った。外したいといったが、義務です、といって装備させられていた代物である。

 外すと、次は麻痺銃を落す。銃の類は、これはどういう訳か攻撃力としては弱い、相手を麻痺させることしか出来ないこの銃しか装備は許されていない。まあ実際、これ以外のもので、――つまりは、相手を本当に殺傷してしまう武器でということだが―――防御などしなくてはいけなくなった暁には、艦としては終ってるな、と軽装の装備を受け入れている艦長である。

 実際、宇宙という空間で臨戦している艦内では、過剰といえる防御は必要でも、攻撃を個人が行う装備など必要とはされていなかった。小さな流れ弾でも、艦の外装を偶発的に吹き飛ばす可能性は常にあるのだが、その際に身を護るシールドが必要でも、攻撃とは砲撃でしか有得ない艦戦で、個人を殺傷出来る銃などあっても邪魔なだけである。

 これも気軽に、艦長は麻痺銃を床に落とした。

 見ている副官が何となく気の毒だな、と思う艦長である。尤も、あれ以上禿げることは出来ないからいいのか、と思う艦長を知ったら、猛然と抗議をしそうだが。

「あとは、これか。」

飾の、使った事も無い懐剣を――とても優雅な、金銀に紋様が彫り込まれ真紅の鞘地に浮き上がる見事なものだが、―――これも無造作に地に落す。帝国将軍として、帝より頂く名誉を現す剣である。本物は二の腕に渡る程に長い剣だが、身分と名誉を現す品として、携帯用に頂く分である。使わないのも勿体無いから、ペーパーナイフとして使おうとしたら、副官以外にも止められて、必要の無いお飾りだなあ、と艦長の慨嘆を誘った代物でもある。使えないなら意味は無いじゃないか、と思う艦長だが、他の者の意見は違うらしい。

「結構さっぱりするな。これで大丈夫、何時銃撃しても、或いは素手でも、私をちゃんと殺せるぞ?」

にこやかに云う艦長に、背後でリゲルが息を飲む気配がする。

 いや。

息をリゲルが呑んだ。

 無言で振り向く瞳が在る。

エンゲスの影から現れた、―――それが何時、現れたのか正確に艦長さえいうことが出来なかった――姿。背を向けて、立ち尽くしていた細い姿が、無言で振り向く。

 緑に輝く、―――煌く瞳。金の髪が渦を巻いて流れ落ち、細い肩を被う少女。

 白麻のローブ、式服を身に纏い、―――。

 手に氷柱を思わせる輝きを放つ杖を手にしている。

 何故息を呑んだのかわからないままリゲルが乙女を見返す。

得意気に響いた紹介を、殆どリゲルもリ・クィアも聞いてはいなかった。

「彼女がリ・ティア・マクドカル様。十年前、帝国に滅ぼされた皇国を継ぐ正統な血筋を持つ御方。だが、その皇位を継承する為に必要なことがありましてな。」

氷の神殿に声が朗々と響く。実際、得意の心持で居たに違い無い。エンゲスの声は、神殿の隅々まで響いていた。

 流れるように朗々と神殿を満たす声を聞きながら、そうか、これが貴様の整えていた舞台かと思っていた。

「―――先の巫女であるリ・クィア・マクドカル様の血が、裏切り者である巫女であり皇女の血を流すことが、皇国の復活には必要でしてな。―――…皇女。お連れしましたぞ、貴女の姉君、帝国に皇国マクドカルを売り渡した裏切り者の血で、皇国の未来を贖うてくださりませ。」

艦長の、リ・クィアの前に在る舞台。エンゲスが整えた、その舞台に乗る最後の登場人物はこうして、此処に居たのだ。

 艦長が見詰める先に、少女が居る。

慇懃に云うエンゲスを冷たい瞳で見返し、少女が艦長達を見る。

艦長、―――リ・クィア・マクドカルを。

 白髪に、白い眉、藍色の瞳に、現れた少女を凝視するその姿を。

 何を知っているのか、なにも知らないでいるのか。

訊ねたいと思いながら、リ・クィアは少女を見詰めていた。妹だと、エンゲスの紹介するその少女を。得意げに神殿という舞台に乗せる、まだ幼さの残る少女を。

「―――失礼だが、貴女は艦長の妹御…?何故、帝国に接収後も、この惑星に留まっていたのです?」

リゲルが唐突に鋭く発した疑問に、艦長が眉を寄せる。神殿に満ちる力に呑まれて行きそうな心を、強引に引き戻すような声が響く。

「言葉がわかりますか?いま話しているのは帝国標準語だが。」

「――――何をいっているのです?この男は。」

冷たい瞳に見据えたまま、リ・ティアがいうのを聞き取り、リゲルが云う。

「通訳が必要ですか。―――帝国圏の教育は受けてこられなかったということですな。エンゲス殿にお聞きしたいが。」

「何かな。」

短い応答に、眉を寄せリゲルが問う。

「これは純粋な疑問として訊くのですがな。…貴君の云う通り帝国侵攻時に艦長が要職にあり、その裏切りで負けたというのなら、その家族は保護、つまりは接収対象になったはずですが。それを、どうして、辺境とはいえ、帝国に引き渡さずに済んだのです?隠し遂せるのは難しいと思うが。手腕としては中々のものですな。しかし、どうやって?」

言葉を切る。

「彼女は、本当に艦長の妹御かと、お聞きしたい。」

疑問を叩き付けるリゲルに、エンゲスが暫し沈黙する。問われた内容が本当に解っていないのか、冷徹な光を乗せた若草色の瞳は唯艦長とリゲルを見比べる。

 舞台の予定にあった質問だろうか。暫らくして滑らかにエンゲスが答えていた。

「簡単な事だ。――君は知らないからそういった疑問がもてる。あのとき、あの破壊と本星が滅びるかもしれない変動の中で、五才の子供を、いつまでも帝国とて探している訳にはいかなかったのだろうよ。かれらが地下に避難し、生き延びていた処を我々が保護したのだ。天佑だよ。天の助けというものだ。かれらは、幸運だったのだよ。」

「―――地下に避難していた処を、貴方がたが助けた―――?つまり、貴君は、この皇国の方では無かったのかね?先には、艦長を責めていたようだが。あれは貴君の戦いではなかったのか?」

疑問を追及しようというリゲルにはもう答えず、エンゲスがリ・ティアの前に膝を就く。

氷の磨かれた床に映る、美しい金髪の少女を押し頂くようにして。

「皇女。彼女こそが裏切り者。十年前、皇国を売り渡しながら、己は帝国の手先となり生き延びた恥知らず。貴女が正統に玉座を負う為には、この血を流すことが必要なのです。裏切り者の血を流し、その決意のほどを貴女の治める民にお知らせくださいませ。」

額をエンゲスが氷床に着けたとき、それは起こった。

 円柱の中央が割れ、左右に開く。

 轟く音に従って現れたのは、長い擂鉢状に落ち込む広場。

 神殿から広場にと続いていく長い階段。

 その途上に置かれた段にあるあれは、―――設えられたあれは、玉座だろうか。

 そして。

 広場に集まる群衆。総て武器を持った。確かに、満を持してというものだろう。エンゲスも、よく整えたものだと思いながら艦長はかれらを見渡していた。集められた群衆は、何処まで理解してこの劇に参加しているのか。シナリオを書いたエンゲスの思惑に、どれだけが唯乗せられていると理解しているのか。

「…―――彼らが、私が裏切った民か。」

薄く笑み、リ・クィアが云う。

「随分と、立派な舞台だ。」

 ――如何見えているだろう、とおもう。

神殿に、元巫女であったという裏切りを犯した自分と、正統な血を継ぐ為に、血でその玉座を贖おうという妹。演出した基地司令は、この瞬間を迎える為にどれだけ心を砕いたかと思うと苦笑が漏れる。

 微笑を刷き、佇む。ゆっくりと髪を留めた細工をほどき、放り投げていた。

 白髪が、一気に広がる。

 腰まで流れる白髪に頭を振り、一度瞳を閉じて艦長は改めて眼下に集う民と、控えるエンゲスを眺め、そして。

 妹だという少女を、見返していた。

 整えられた舞台に乗る、少女を。

 残念だが、まるで見覚えが無い。それは確かに、十年前にこの少女はおそらく、先にリゲルの質問に答えた通り、五つかほどであろうから、面影はあっても、随分見違えるくらいに大きくはなったのだろうが。

 少女が、何を思って舞台に乗るのか。何も知らないのか。エンゲスの思惑に乗せられていることすら知らないでいるのか、いまのリ・クィアにはわからなかった。

 そしてわからないことがある。

 リ・クィアの眸が、歪んでいた。藍色に、涙が乗る。

 ほろ苦く、笑んでいた。

 無表情に、彼女を見返す少女を、見て。

「そうか、…そうだな、」

リ・ティア・マクドカル様、と。神殿と広場に良く響くエンゲスの声が、促している。この血を、贖罪の犠にしろと。涙が頬を流れていた。

 声が促している。

 向き合ったリ・クィア・マクドカルに、静かに向けられた若草色の瞳は、冷徹に感情の伺えない色をして振り仰いでいた。

 金の巻毛を無造作に肩から流し式服の白麻に散らし、煌く若草の瞳で見返す少女を、艦長は見詰めていた。

「…おまえは、私の妹なのか。」

問う微笑を、何と思うだろうか。

 リ・ティアが静かに口を開く。

「わたしは、十年前、五才の時に、この惑星に残りました。この神殿で、私はあなたと別れた。」

いう言葉は、帝国標準語ではなく、何とか聞き取れないことも無い、――辺境には多い、帝国古代語の系統にある言語の一つに似ていた。

 これは、おそらく階下に集う民衆達の為に行われている演出だろう。はっきりとさせようというのだ。誰が、誰を殺そうとしているか。

 誰の血で、何を贖うかを。

澄んだ声が、内容さえ忘れれば、聞き惚れても良いような声が聞こえてくる。

「戦の当時、私は幼かった。何も出来なかった。唯生き延びました。教えられていることがある。―――それは、先の戦で、皇国が失われ、帝国にこの惑星が支配されるようになった原因が、私の姉の裏切りにあるということです。」

無表情に、ゆっくりと告げる手に、氷の杖は最早無かった。姿を変えるのだろう、氷の杖は剣に変じ、いまだ細く幼さの残る手に握られていた。

「姉は、神殿に仕える巫女でした。皇位には神の護りが必要です。…裏切った巫女を、神に捧げる必要があります。」

鮮やかな緑の瞳が、無心に見あげている。

「――――わたしの、命が、いるのか。」

微笑していう艦長の言葉は、何れにしても理解されないだろう。帝国古代語の系統を、聞き取ることは出来ても話すことまでは艦長には出来なかった。いや、その上に。

 同じ言葉を話せた処で、同じ処にいられるわけではない。

 言葉が通じても、意味の無いことがある。

「艦長…!」

叫ぶリゲルの声を、邪魔するなよ、と思いながら聞いていた。

「神に、捧げます。」

細い声が告げ、細い手が、握る剣を腹に刺し貫くときも、そんなものだとおもって眺めていた。

―――構わない。

眸を閉じる。

「別にいいんだ、…―――。」

「艦長!」

リゲルが、強引に艦長の身を少女から離すのを、感じていた。

 ちゃんと刺せただろうか、と。

 そんなことばかりが気に掛かった。

「ちゃんと、…刺せた、か?」

「何をばかなこといってるんです…!黙って刺されるばかがありますか!あなたは、――――!」

叫ぶ副官に、小さくいう。

「怒るな、リゲル。」

「何をいってるんですか!そっちも手を離して!抜かないでください!畜生っ、」

倒れる艦長に、反射的に引いた剣先が血を纏い抜けるのにリゲルが怒鳴る。

 血が腹から溢れる。

「結構出るな。」

「喋らないでください!怪我人は!何て非常識な真似をしてくださるんですか!帝国軍人が剣で刺されるですと?何を考えてるんですか!」

「…見逃したろう、」

「それは、本当に刺されるなんてばかな真似をなさるとは思ってなかったからです!シールドを外すなど前代未聞です!何考えてるんですか、あなたは本当に馬鹿ですか、艦長!」

怒鳴りながら手で腹を抑え、手当てを始める副官に情けない顔をする。

「…ばかはひどい。…」

「事実です。」

憤然と血止めをし、応急処置をするリゲルに困ったな、と思う。

「怒らせるつもりは、なかったんだが。」

「あなたはいつもそうおっしゃいますな!」

怒りながら手当てをしている手を、―――留めた。

「…艦長?」

リゲルが、目を見開く。

 氷青の眸が、凝然と見る。

「…艦長、彼女は、」

冷静に剣を構えなおす、若草の瞳。

「…おまえは逃げろ。大丈夫だ、おまえの装備はエンゲスだって手は出せない――いいからいけ、」

現実感がありすぎる副官と話しているとつい忘れるが。舞台は途中だということを、冷徹な若草の瞳が告げていた。立とうとする艦長をリゲルが咎める。

「―――余程あなたは人に怒られたいようですな?」

「手を出すな、」

「――――怒られたいんですか!あなたは!」

怒鳴るリゲルに、笑う。

「…もう怒ってるだろうが。」

「動かないでください、表面は止血しましたが、傷は腹の中までいってるんですよ、―――死ぬ気ですか!」

身を起こして、リゲルを見て、―――艦長が微笑った。

 手で腹を押え、確かに痛いな、と蒼い顔で。

 微笑して、身を起こす。観衆は見ている。舞台は続いている。ならば、最後まで踊るしかないというものだと、そして。

 できれば最後まで。

「けどな、…――わたしは幸運なんだから、このまま希望通りにさせてやってくれないか。」

「…艦長?何が、幸運です?」

リゲルの支えを離れ、若草の瞳に向かって微笑み掛ける。

「だって、幸運じゃないか。妹なんだろう?憶えていないのに、…―――憶えてもいないのに、」

藍色の眸に、柔らかな炯が射す。微笑と共に、一滴の涙が落ちる。

 どうしたって見覚えが無い。憶えていない。

最後まで、演じ通しておきたかった。この幸運が持続するうちに。

「だって、幸運だ。おまえを、わたしは殺すことが無い。―――帝国軍に身を置いて、いつ敵対してもおかしくないと思っていた。いつおまえがわたしの前に来ても、と。だのに、――うらんでいるだろうとおもっていた、だからいつか、出会うかもしれないと、―――リゲル、…邪魔を、しないでくれ。」

肩を支える腕に、リゲルの腕に頭を預け、眉を寄せる。

「痛いな、…。」

「当り前です、―――痛くて当り前でしょう…!」

透明な若草に見詰められて、何とか微笑もうと努力する。

「結構効いた一撃だったようだ。…ティア。」

手を伸べる。無表情な頬へ。

「わたしには、ずっと望みがあった。…贅沢な望みだ、でも、叶うんだな。」

眸を閉じる。随分と良い舞台を整えてくれたと、感謝する。御陰で、たすかったと。

「おまえを、――…殺さないで、すんだ、―――。」

微笑して、そのまま。

「――…艦長?―――っ、…。」

意識を喪う肩を、リゲルが支える。

「残念ながら、私は艦長と意見が違いましてな!」

無表情に向かってくる剣を、シールドで刃を留め、リゲルが片手で掴む。力任せにリゲルが剣を横薙ぎに弾く。

 白麻の式服が広がり、金髪が広がってリ・ティアが床に落ちる。


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