表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/5

第4話 ボクはクロミヤさんの愛情を知る




 結局、ボクも接合を手伝い、男たちはほぼ元通りになった。


「ちゃんと元通りだな――って、おい?」


 彼らは自身の足元に視線を落とし、青ざめる。


「足が……ねえ!!?」


 そこでようやく、彼はクロミヤさんが自分たちの足先を――人質ならぬ()()にしている状況に気付く。

 足がなければまともに歩くことも出来ない。


「か、返してくれ!」


 泣きつく男たちへ、クロミヤさんは穏やかに微笑む。


「では約束してください。わたしはどんなにイジメられても構いません。でも、わたし以外の人……アマノくん(この子)には絶対手を出さないと」


 必死に頷く男たち。

 彼女は足先を投げ渡した。


「もしも破ったそのときは――愛ある制裁として、貴方がたの()()()()を永遠に切り取りますから」


 にっこり笑うその顔は、天使というより悪魔に見えたようで。

 男たちは思い思いの“玉”を押さえながら、顔面蒼白していた。




「ひいっ……!」

「一旦引き上げだ! 覚えてろよ!!」


 男たちは情けない捨て台詞を残し、さっさと退散した。

 一難去った安堵から、ボクは川辺に上がるなり、その場にへたり込む。


「はあ……一時はどうなるかと思ったよ」


 クロミヤさんは穏やかな笑顔で手を差し出す。


「わたしも、ドキドキしたわ」


 ……絶対そんなことなさそう。

 彼女の手を借りて立ち上がりつつ、ふと、さっきの球体が気になった。


「そういや、さっきの球体って……魂で、あってる?」

「ええ。そういえば説明不足だったわね。実はわたしにもスキルが備わってたみたいでね。それが“魂使い”ってものなの」


 すると突如、ボクの視界に情報が浮かんだ。

 

  +


【名前:黒宮(くろみや) ろまん

 スキル名:魂使い

(死んだ生徒・先生の魂を、無機物へ憑依・解除できる)】


  +


 何気にボクたちのことを”死んだ”と明記していて、それが少しショックだった。


「それでさっきはね、カタギリくんの魂——ガチャ魂をカッターに憑依させたのよ」

「……うん。なんとなく、わかってきたよ」



 つまり、ガチャ魂(ボクたち)のスキルは、物体に憑依させることで発動できるようになる。

 いわばボクたちは、クロミヤさんのための”スキルガチャ”と言ったところなのだろう。



「ちなみに、この眼鏡も先生のガチャ魂を憑依させているのよ」

「それ先生だったの!?」


 笑顔を向けるクロミヤさん。

 それに反して、ボクはおもむろに俯く。



「……それにしてもさ。クロミヤさんって、意外と強いんだね」

「意外……?」


「あ、ごめん。クロミヤさんてイジメられて不登校だったっていうのに、その……それなのに肝が据わってて凄いなって。比べてボクなんか、役立たずでゴメンね」


 ボクがそう苦笑すると、今度はクロミヤさんが俯いた。

 そして、ぽろぽろと涙を零した。


「ご、ごめん! 嫌なこと言っちゃった……?」

「違う。アマノくんが役立たずなんてことないのよ……だって、わたしだけだったら、ここまでできなかったから」


 クロミヤさんがボクの手を握る。


「この世界に来た当初、何もわからなくて孤独だったわたしを、このエルフさんが親切に助けてくれていたの。でも、あの男たちにやられちゃって……」



 ……それで、この致命傷なのか。

 この女エルフがどれだけクロミヤさんを守ろうとし、そして無念に散ったのか。今になってようやく伝わってくる。



「それで寂しくて、アマノくんを憑依させたの。……さっきのわたしはね、君を守りたいって思ったから、無我夢中で動けただけなのよ」


 彼女の濡れた瞳と微笑に、今まで一番、ドキドキした。

 ……ああ、ボクって案外チョロいんだな。

 いや、女子に手を握られたのだって初めてだし、そりゃ緊張もする。


 ボクは首を振って言った。


「それでもやっぱりクロミヤさんは凄いよ! ボクだって……今度は君を守るから! だからもう、寂しくしないから!」


 クロミヤさんは一瞬驚いていたが、直ぐに微笑んで、何か呟いた。


「……やっぱり物知りで真面目で、優しいのよね。アマノくんは」


「なに?」

「……ううん。お互いに頑張ろうね」


 そう言うと彼女はそっと手を離し、歩き出した。




「ちょっと、どこに行くの?」


 ワズマくんのせいで、ボクたちには隠遁生活くらいしかないってのに。

 クロミヤさんは笑顔で答えた。


「決まってるでしょ。ワズマくんに会って話し合うの」

「……は!? 危険だって!」


 目を丸くするボクを尻目に、クロミヤさんは言う。


「だって、ただ嫌がらせしたいなら、わたしを虫にでも転生すればいい。けどそうはしないで、クラスの皆まで巻き込んでこんなことして……きっと何か深い事情があるのよ。だって、本当の彼はとても寂しがりやなんだから」


「え、でも、クロミヤさん、彼にイジメられてたんでしょ?」

「……ええ。とてもとても、ひどいものだったわ」

「だったら、そんな奴! 無視すればいい。それかせめて復讐するとかさ……なのに、なんでそう思わないんだよ?」



 ――すると、クロミヤさんはまるで聖母のような微笑みで答えた。


「それでもわたしはね、イジメたクラスの皆を――ワズマくんを、許してる。今でも、愛してるのよ」


 彼女の真っ直ぐな瞳がボクを見る。

 ……彼女、本気でそう言ってる。


 ボクは息をのんだ。

 さっきの男たちにもそうだったが、ひどいイジメをした相手を許して、ましてや“愛してる”だなんて……そう簡単には言えない。

 言える人がいるとしたら、それは――愛情表現を壮大に勘違いしてるか、根っからのマゾくらいだ。

 それとも、それが彼女なりの正義や愛情とでも言うのだろうか。




「目的も決まったし、まずは町に行きましょう?」


「えっ!? もし、さっきの男たちが町で待ち伏せでもしてたら……」

「大丈夫。もうアマノくんには手を出さないんだし」

「けど、クロミヤさんはイジメられる可能性があるんだけど……」


 不安は残る。

 けれど、楽しそうなクロミヤさんを前にしては、強く反対なんて出来なくて。


 それに――。

 不登校生活からようやく解放されたクロミヤさんが、()この瞬間を楽しんでいるというのなら。

 (ボク)にできることは、彼女を見守ってあげることくらいなのかもしれない。


 ……まあ、あの男たちを瞬殺したクロミヤさんなら、また襲われても返り討ちにできるだろうし。


「って、ちょっと待ってってば! クロミヤさん!」


 いつの間にか歩き出していた彼女の後ろ姿を、ボクは慌てて着替えて追いかけた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ