第4話 ボクはクロミヤさんの愛情を知る
結局、ボクも接合を手伝い、男たちはほぼ元通りになった。
「ちゃんと元通りだな――って、おい?」
彼らは自身の足元に視線を落とし、青ざめる。
「足が……ねえ!!?」
そこでようやく、彼はクロミヤさんが自分たちの足先を――人質ならぬ足質にしている状況に気付く。
足がなければまともに歩くことも出来ない。
「か、返してくれ!」
泣きつく男たちへ、クロミヤさんは穏やかに微笑む。
「では約束してください。わたしはどんなにイジメられても構いません。でも、わたし以外の人……アマノくんには絶対手を出さないと」
必死に頷く男たち。
彼女は足先を投げ渡した。
「もしも破ったそのときは――愛ある制裁として、貴方がたの大事な玉を永遠に切り取りますから」
にっこり笑うその顔は、天使というより悪魔に見えたようで。
男たちは思い思いの“玉”を押さえながら、顔面蒼白していた。
「ひいっ……!」
「一旦引き上げだ! 覚えてろよ!!」
男たちは情けない捨て台詞を残し、さっさと退散した。
一難去った安堵から、ボクは川辺に上がるなり、その場にへたり込む。
「はあ……一時はどうなるかと思ったよ」
クロミヤさんは穏やかな笑顔で手を差し出す。
「わたしも、ドキドキしたわ」
……絶対そんなことなさそう。
彼女の手を借りて立ち上がりつつ、ふと、さっきの球体が気になった。
「そういや、さっきの球体って……魂で、あってる?」
「ええ。そういえば説明不足だったわね。実はわたしにもスキルが備わってたみたいでね。それが“魂使い”ってものなの」
すると突如、ボクの視界に情報が浮かんだ。
+
【名前:黒宮 ろまん
スキル名:魂使い
(死んだ生徒・先生の魂を、無機物へ憑依・解除できる)】
+
何気にボクたちのことを”死んだ”と明記していて、それが少しショックだった。
「それでさっきはね、カタギリくんの魂——ガチャ魂をカッターに憑依させたのよ」
「……うん。なんとなく、わかってきたよ」
つまり、ガチャ魂のスキルは、物体に憑依させることで発動できるようになる。
いわばボクたちは、クロミヤさんのための”スキルガチャ”と言ったところなのだろう。
「ちなみに、この眼鏡も先生のガチャ魂を憑依させているのよ」
「それ先生だったの!?」
笑顔を向けるクロミヤさん。
それに反して、ボクはおもむろに俯く。
「……それにしてもさ。クロミヤさんって、意外と強いんだね」
「意外……?」
「あ、ごめん。クロミヤさんてイジメられて不登校だったっていうのに、その……それなのに肝が据わってて凄いなって。比べてボクなんか、役立たずでゴメンね」
ボクがそう苦笑すると、今度はクロミヤさんが俯いた。
そして、ぽろぽろと涙を零した。
「ご、ごめん! 嫌なこと言っちゃった……?」
「違う。アマノくんが役立たずなんてことないのよ……だって、わたしだけだったら、ここまでできなかったから」
クロミヤさんがボクの手を握る。
「この世界に来た当初、何もわからなくて孤独だったわたしを、このエルフさんが親切に助けてくれていたの。でも、あの男たちにやられちゃって……」
……それで、この致命傷なのか。
この女エルフがどれだけクロミヤさんを守ろうとし、そして無念に散ったのか。今になってようやく伝わってくる。
「それで寂しくて、アマノくんを憑依させたの。……さっきのわたしはね、君を守りたいって思ったから、無我夢中で動けただけなのよ」
彼女の濡れた瞳と微笑に、今まで一番、ドキドキした。
……ああ、ボクって案外チョロいんだな。
いや、女子に手を握られたのだって初めてだし、そりゃ緊張もする。
ボクは首を振って言った。
「それでもやっぱりクロミヤさんは凄いよ! ボクだって……今度は君を守るから! だからもう、寂しくしないから!」
クロミヤさんは一瞬驚いていたが、直ぐに微笑んで、何か呟いた。
「……やっぱり物知りで真面目で、優しいのよね。アマノくんは」
「なに?」
「……ううん。お互いに頑張ろうね」
そう言うと彼女はそっと手を離し、歩き出した。
「ちょっと、どこに行くの?」
ワズマくんのせいで、ボクたちには隠遁生活くらいしかないってのに。
クロミヤさんは笑顔で答えた。
「決まってるでしょ。ワズマくんに会って話し合うの」
「……は!? 危険だって!」
目を丸くするボクを尻目に、クロミヤさんは言う。
「だって、ただ嫌がらせしたいなら、わたしを虫にでも転生すればいい。けどそうはしないで、クラスの皆まで巻き込んでこんなことして……きっと何か深い事情があるのよ。だって、本当の彼はとても寂しがりやなんだから」
「え、でも、クロミヤさん、彼にイジメられてたんでしょ?」
「……ええ。とてもとても、ひどいものだったわ」
「だったら、そんな奴! 無視すればいい。それかせめて復讐するとかさ……なのに、なんでそう思わないんだよ?」
――すると、クロミヤさんはまるで聖母のような微笑みで答えた。
「それでもわたしはね、イジメたクラスの皆を――ワズマくんを、許してる。今でも、愛してるのよ」
彼女の真っ直ぐな瞳がボクを見る。
……彼女、本気でそう言ってる。
ボクは息をのんだ。
さっきの男たちにもそうだったが、ひどいイジメをした相手を許して、ましてや“愛してる”だなんて……そう簡単には言えない。
言える人がいるとしたら、それは――愛情表現を壮大に勘違いしてるか、根っからのマゾくらいだ。
それとも、それが彼女なりの正義や愛情とでも言うのだろうか。
「目的も決まったし、まずは町に行きましょう?」
「えっ!? もし、さっきの男たちが町で待ち伏せでもしてたら……」
「大丈夫。もうアマノくんには手を出さないんだし」
「けど、クロミヤさんはイジメられる可能性があるんだけど……」
不安は残る。
けれど、楽しそうなクロミヤさんを前にしては、強く反対なんて出来なくて。
それに――。
不登校生活からようやく解放されたクロミヤさんが、今この瞬間を楽しんでいるというのなら。
魂にできることは、彼女を見守ってあげることくらいなのかもしれない。
……まあ、あの男たちを瞬殺したクロミヤさんなら、また襲われても返り討ちにできるだろうし。
「って、ちょっと待ってってば! クロミヤさん!」
いつの間にか歩き出していた彼女の後ろ姿を、ボクは慌てて着替えて追いかけた。




