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第1話 ボクは目覚めたら女エルフだった


「――あれ?」


 目を開けると、ボクは知らない森の中にいた。

 見たことのない草木が生い茂り、ギャアギャアとうるさい鳥の声が響く。


 確か、六時間目が終わって。

 ホームルームが始まるところで――意識が切れたんだっけ。


「それで、なんで森? 夢……なのか?」


 ボクは不安をごまかすように声を出しながら、周囲を見回していたら。

 ふと気付いた。()()そのものに起こっている異変に。


「な、なんだこりゃあっ!!?」


 声が妙に高い。肌ツヤもいい。いや、それどころじゃない。

 着ているのは学ランではなく、カジュアルな民族衣装っぽい服になっていた。


 そして――胸には、豊満な乳房が二つ。

 代わりに、股間には何も……ない。


「こ、これって……まさか……」


 ボクはすぐにでも顔を確認したくて、鏡でもガラスでもいいから辺りを探して走り回る。

 が、森の中に当然そんなものはなく、水場すらない。


「や、やっぱ夢? それとも……これが”異世界転生”ってやつか? いや、死んだ覚えなんてないし――」


 だとしたら”転生”じゃなくて”転移”?

 ダメだ、考えがまとまらない。


 ……とにかく、まずはひとつずつ確認するしかない。

 ボクはとりあえず、自分の胸を触ってみようとした――そのときだった。


「……アマノくん」


「のわっほおおっ!!?」


 今まで出したこともないような声が出た。

 振り向くと、そこにはボクの高校と同じセーラー服を着た女子が立っていた。

 ようやく見覚えのある衣装に、ボクは少しばかり安堵する。


 けれど、その眼鏡の女子生徒は全く覚えがない。

 違うクラスなのかと、ボクは無意識に頭を下げた。


「あ、っと、その……どなたでしょうか?」

「わたし、黒宮(くろみや) ろまん。一応、同じクラスなんだけど……」


 高校二年になって早六カ月。流石にクラスメイトの顔と名前は覚えてるんだけど……。

 と、ボクは“あること”を思い出す。


「もしかして……不登校の?」



 ボクのクラスには一人、不登校の生徒がいた。

 高二のクラス替えで一緒の組になったけど、高一のときにイジメを受けたとかで、ほとんど教室に来てなくて。顔も知らない。

 だがその子の名前が確かそうだった。


「ええ、そうよ」


 “不登校”という言葉にも動じず、クロミヤさんは穏やかに微笑む。


「ちょ、ちょっと待って……ボクが天野(あまの) (ひろし)だって、わかるの?」


 学ランでもないし、巨乳だし、どう見ても別人なのに。


「だって、アマノくんの魂をこのエルフさんに移したのは――わたしだから」

「…………魂?」

 

 ただでさえここが何処かもわからないのに、さらに意味のわからないワード。

 ボクは理解できず、頭を抱える。


 するとクロミヤさんは首を傾け、困った顔を浮かべた。


「実はわたしも全部はわかってなくて。ワズマくんから聞いたのはいいんだけどね」

「ワズマって……我妻(わずま) 雄大(ゆうだい)?」


 ワズマくんとは、二カ月ほど前に突如行方不明になったクラスメイトだ。

 サッカー部のエースで、人気者だった彼が消えた理由は誰にもわからず。

 今も事件・事故の両面で捜索中だと聞いた。

 

 そのワズマくんが、どうしてここに?


「説明するより見てもらった方が早いわ」


 そう言うとクロミヤさんは眼鏡を外し、強引にボクにかけさせた。



『よお、クロミヤ。二カ月ぶりになるのか?』



 すると突如、眼鏡の向こうでホログラムのような光に包まれた男性が現れた。


「えっ……誰!!?」


 思わず外そうとしたが、クロミヤさんが止める。

 よく見ると、その二十代後半くらいの男には、見覚えのある面影があった。


「もしかして……ワズマくん、か?」



『けど、オレの時間だと十年ぶりくらいになんだがな』



 男はボクの疑問を置き去りにして、淡々と話を進めていく。

 どうやらこれは、クロミヤさんが見聞きした映像の再現らしい。

 映像のワズマくんらしき人が言う。



『オレはさ、気付いたらこの“ジルヴァラ”って異世界にいて……なんか勇者として召喚されたとかでな。マジ意味わかんなかった』



 大人になったワズマくんは、外見的には似ていても、どこか別人のようだった。

 クラスで見ていたあの陽気さはなく、ただ怖かった。



『言われるがまま十年もかけて魔王は倒したさ。だが、最期に”呪い”ってのをかけられた……オレはいずれ”魔王”になっちまうんだとよ』

『ワズマくん、よくわからない……』


『いいから黙って聞けッ!!』



 怒鳴り声とともに映像が乱れ、ボクも思わず腰を抜かした。



『苦労した結末が、魔王エンドとか……ふざけんなって。だから、()()()()()()()()()()()()、お前に“嫌がらせ”したくてな』

『嫌がらせ……?』


『クロミヤ。高一のとき、オレらにたっぷりイジメられただろ? あの“楽しかった日々”を、この世界でも味わわせてやろうと思ってな』



 映像のワズマくんは、不気味に笑った。



『まあ一人で異世界は可哀想だから、特別にクラスメイトと担任も連れてきてやった。“魂”だけだけどな』

『たま、しい?』


『そのカバンに入ってるガチャ玉みたいなのに、皆の“魂”が入ってる。で、お前はその“魂”どもを自由に扱っていいぜ』

『ど、どういうこと?』

『ハハッ、これ以上教えるかよ。あとは自分でやれ』



 そう言うと、ワズマくんの映像は徐々に消えかけていった。



『待って……元の世界に帰らせて……!』



 けれど、ワズマくんは何も答えないまま。

 映像は、そこで途切れた。





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