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第4話

「今日から放課後に補習を行う。夏休み明けで気が抜けているバカ共と先生の教える授業に来たいと思う女子生徒は放課後3時半から始めるから席に着いておいてくれ!」

 工藤先生の言動には少しばかり落胆させられてしまう···。こうも清々しいほどに男子生徒と女子生徒の扱い方が雲泥の差にする先生は近頃、中々見つからない。いや、探すのにも一苦労するだろう。

 僕はろくでもない工藤先生の話を右から左へ流しながら、1限目の授業の準備をし始めた。

 うちの学校は県内でも特殊な部類に入る学校だろう。何故ならば、この学校のカリキュラムは生徒自身が自由に決められるバイキング制だ。だから、教室の遠い授業を取ってしまえば朝会のうちに準備しなければ間に合わない。現に僕と同じ授業を取っている生徒は工藤先生の話を聞かずに授業の準備に取り掛かっている。

 朝会を終えると僕たちは廊下に群がる生徒たちを掻き分けて、学校の端から端へ走り抜ける。

━━━キーンコーンカーンコーン!!

 指定席に座り、テーブルの上に教材を置く。

━━━5分後···。

 授業が始まってから5分が経とうというのに肝心の先生が不在だ。そんなことを考えていると扉の向こう側から息を切らしたキュッボンキュッな老けた男教師が教室の中に入ってきた。

「プフ、遅刻だ〜。今すぐ始めるから待っておくれ~」

 先生は抱えていた教材やタブレット機器を教卓に置き、黒板のモニターをつける。黒板モニターには何やら座席表のようなスライドが写されていた。

「授業に入りたいところなんだけど、まずはこの座席表と同じ席に座って下さい」

 うわ!僕の席、窓際の一番前じゃん······。黒板は見えにくいし、陽が眩しく授業に支障が出る。その上スマホもいじれないじゃん···。

 三崎は中央後方の席から窓側前方の席に座り直す。やはり窓側は日差しが強く、黒板の字も見にくい。それに加え、先生が換気という理屈で窓を開けるため、日差しを隠せるカーテンを閉めることが出来ない。

 今日から半年はこの座席で授業を受けないといけないと思うと嫌気が差す。

 嫌がりながらも先生が記述する文字を筆写する。

 ·········あっ!文字間違えちゃった。消しゴム、消しゴムっと···?あれ、無い。筆箱に入れていたはずなんだけど······やっぱり無い。

 消しゴムを探すのを止め、筆写をしようと前を向こうとすると隣の席に座る学生が左手に消しゴムをのせて差し出してきた。

「消しゴム、使いますか?」

「あっ、·········」

「消しゴムが無くて困っていそうでしたので·········」

「あぁ、でも······」

「私は予備の消しゴムを使いますから、気にしないで良いですよ」

「ありがとう」

 僕は差し出された消しゴムを受け取り、誤字を消す。

━━━キーンコーンカーンコーン。

 授業が終わりテーブルに広げていた教材をしまっていると隣の席の学生から借りた消しゴムがテーブルにぽつんと置かれていた。

「あっ、ありが···と······あれ、もう居なくなってる······。あっ、返すの忘れちゃった!?」

 とりあえず、借りた消しゴムを筆箱にしまい、教室を出た。


 2時限目が終わり、昼食を摂るためにクラスの教室へ入ると三崎の座席は既に桃瀬たちのグループが独占していた。

「今日は屋上にでも行くか·········」

 三崎は自分の座席で食べるのを諦め、屋上へ向かうことにした━━━。

 あれ?今、一瞬だけ三崎くんが通りかかったような······。

 屋上へ向かうことにした三崎。屋上には3つのベンチと2つのテーブルが設置されている。普段は誰も訪れない静かな場所だが今日は1人の女子高生が1人で持ち込んだ弁当を食べていた。しかもその学生のことを三崎は知っていた。

「さっきは消しゴム貸してくれてありがとう!」

 お弁当を食べていた学生は突然、目の前に立たれたことに驚いたようで口に運んだ米を噴き出した。

「ケホッケホッケホッ!!ごめんなさい、ケホッケホッ!」

「逆にごめんね、食べている途中に話しかけちゃって···」

 ベンチに座り込んだ学生はティッシュで口を拭き、息を整えた。

「それで私に何のようですか?」

「1時限目に貸してくれた消しゴムを返したくて······」

「3時限目もあるのに良いんですか?」

「3時限目は体育出し、借りてる手前早く返すべきかと思って···」

「それならありがとう······」

 三崎は昼食を摂るために学生のいないベンチに座り、通学バックからお弁当を取り出す。中にはキチキチに詰められたご飯と隙間にきっちりはまる卵焼き、そしてジューシーそうな唐揚げが詰められている。

 ━━━パク。

「美味しい~·········」

 登校前に自分で作っておいたからなのか、やはり誰かに作ってもらうより、美味しく感じる。

 ふと三崎が学生の方を向くと女子高生はじっとこちらを見つめる。

「···、何かおかしいですかね······?」

「いや、私と同じように屋上で昼食を摂る人なんて初めて見たから······」

「僕だって、唯一の心地よい穴場を君が知っていたことには驚いたよ」

「見た感じ驚いているようには見えないけど······」

 僕の表情はそんなにも変わらないのだろうか?

「驚いていますよ。だから、こうして邪魔しないように距離を取って昼ごはんを食べているんですよ」

 ベンチに座る学生は何一つ表情を浮かべずに手に持っていた本を読み始めたのだった。

 案外、最近の女子高生は感情が入れ替わりやすいのかもしれない。

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