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6. 名を喰らう神は、誰の名前を残すのか
世界は静かだった。
《ノモリア》の街は崩れ、空は裂け、記憶の断片が灰のように舞っていた。
誰も僕を呼ばなかった。
名前を喰らう神として、僕は夢界の底に沈んでいた。
胸の奥に、神鎖の紋章が焼きついていた。
それは、誰かの名前を守る代わりに、自分の名前を捨てた証だった。
白紙の本が、ひとりでに開いた。
最後のページにだけ、幼い筆跡が残っていた。
【ナオ兄だいすき】
その文字は、滲まずに残っていた。それだけが、僕の存在の証だった。
空から、記憶の光が降りてきた。
それは、誰にも呼ばれなかった名前たち。
忘れられた声、捨てられた記憶、消えかけた存在——すべてが
僕の中に流れ込んだ。
僕は、誰でもない存在になった。
でも、妹の名前だけは、胸の奥に残っていた。
『ナオ兄』
夢の底から、声が届いた。遠くて、柔らかくて、少し泣いていた。
でも、その声だけが、僕を“僕”に戻してくれた。
僕は、神になった。名前を喰らう神。
でも、最後の一つだけは、喰わなかった。
妹の名前。
それだけは、僕の中で灯り続けていた。




