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3. 捨てられない記憶は、何ですか?

 妹の声が消えてから、街は少しずつ崩れ始めた。《ノモリア》の建物は歪み、

 壁に染み込んでいた記憶の声がノイズに変わっていく。誰かの「ごめんね」も、

「またね」も、「だいすき」も——全部、読めなくなっていた。


 僕は、モモを抱いたまま歩いていた。

 ぬいぐるみのタグは、もう白紙になっていた。それでも、

 手のひらに残る温度だけは、まだ消えていなかった。


 風が吹いていないのに、髪飾りが空から舞い降りてきた。それは、

 妹がつけていたものに似ていた。

 でも、色が褪せていて、記憶の中のそれとは違っていた。


 僕は拾い上げた。銀色の鎖が編み込まれていて、冷たいはずなのに、

 胸の奥が熱くなった。


 そのとき、声が届いた。


「名前ってね、呼ばれると、心があったかくなるんだよ。」


 妹の声だった。遠くて、柔らかくて、少し泣いていた。


 僕は、髪飾りを握りしめた。それは、記憶の象徴だった。

 誰かを忘れないために、誰かの名前を守るために。

 僕は、これを捨てたくなかった。


 街の空が、少しだけ明るくなった気がした。

 でも、それは気のせいかもしれない。

 記憶は、いつも揺らいでいる。


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