童貞メガネ
童貞メガネ
プロローグ:冴えない僕と、怪しい通販
俺の名前は田中誠。しがない高校二年生だ。クラスでは「タナメガネ」と揶揄される、ブサメンオブブサメン。俺の人生は、生まれた時から**「モテ」とは無縁だった。告白すれば「ごめんなさい、友達としてなら……」とやんわり断られ、気づけばいつも男友達の隣が定位置。両親は二人揃って「なぜか憎めない顔立ち」をしているが、その遺伝子を完璧に受け継いだ俺は、当然のごとく異性に恵まれない。このまま、誰にも愛されないまま孤独な人生を送るのか。そんな絶望的な未来**が、俺の頭を支配していた。
そんなある日、俺のメールボックスに**「童貞諸君、現実を見よ! ~童貞メガネ~」**という、いかにも怪しさ満点のメールが届いた。藁にもすがる思いでクリックしてしまった俺の目に飛び込んできたのは、こう書かれた商品説明だった。
『装着すれば、人の頭上に**「経験値」**が表示される。ただし、一日五回まで!』
「経験値…?何の経験値だよ」
半信半疑だったが、俺は衝動的にポチってしまった。これが、俺の人生を、いや、俺の視界を大きく変えることになる、運命の買い物だった。
第一章:覚醒、そして数字の謎
童貞メガネは、注文からわずか二日で届いた。段ボール箱には「割れ物注意!中身は夢と希望です!」と手書きで書かれており、怪しさはMAXだ。
恐る恐る箱を開けると、そこにはいかにも怪しげな黒縁メガネが入っていた。期待と不安が入り混じった複雑な気持ちで、俺は童貞メガネを装着した。
ふと、リビングのテレビでニュースを見ていた父親の頭の上に、何か数字が浮かんでいるのが見えた。
「0」
俺は目を擦ったが、数字は消えない。しかも、俺がメガネをかけてから、妙な通知音が頭の中に響いていた。
「残りの使用回数:4回」
「マジか!本当に回数制限あるのかよ!しかも残り4回って、もう1回使ったのか!?」
俺は焦った。父親の**「0」**が何なのか、さっぱりわからない。
その時、テレビの画面に人気アイドルのグループが映った。俺は思わずメガネを向けてみた。
「69」
「ろくじゅうきゅう!?」
その数字を見た瞬間、俺は息をのんだ。テレビに映る、清純派で売り出しているアイドルの屈託のない笑顔が、まるで偽りのように感じられる。信じがたい現実に、脳が思考を停止した。
とりあえず、近くにいた妹のハルカで試してみるか。
冷たい視線を浴びながらも、俺はハルカの頭に童貞メガネを向けた。
「0」
俺は混乱の極みだった。そして、最も重要なこと。一日五回しか使えないのだ。このメガネは、頭がガンガンするほどのめまいと疲労感を伴う。まるで電池を激しく消耗するおもちゃのように、精神力を削られる感覚だった。
第二章:校内騒動と衝撃の真実
翌日。俺は童貞メガネを肌身離さず学校へ向かった。今日のターゲットは、クラスで一番イケてるグループのリーダー、ケンジだ。イケメンで、喧嘩も強く、いつも女子に囲まれている。そして俺のような下位カーストの人間を、童貞だと揶揄するいじめの首謀者でもある。
「よぉ、タナメガネ。今日も元気か?童貞のくせに」
ケンジが取り巻きの女子を連れて俺をからかう。その時、俺はケンジへの復讐心に駆られ、童貞メガネを向けた。
「0」
「はあぁぁぁ!?」
俺は思わず声が出そうになったが、間一髪で飲み込んだ。あのケンジが**「0」!?信じられない。何かの間違いだ。ケンジが、俺と同じ「0」**だなんて、そんなバカな。
「残りの使用回数:4回」
「くっそ、また回数減った!」
俺は絶望した。これで残り4回。まさかケンジが**「0」**とは。一体この数字は何なんだ。混乱しながらも、俺は次のターゲットを物色する。
すると、廊下を歩く一人の女性が目に留まった。俺の幼馴染で、幼稚園の頃からずっと一緒だ。クラスのマドンナ、ユイだ。俺に告白された時、「誠くんは良い人だけど…」と遠回しに断った張本人。
「よし、ユイだ!」
俺は童貞メガネをユイの頭に向けた。
「0」
「ユイもだ」
そして、職員室へと向かう廊下で、担任の田中先生とすれ違った。いつも黒縁のメガネをかけていて、生徒たちからの人気も高い。
ふと好奇心に駆られて、俺は先生の頭にも童貞メガネを向けてみた。
「100」
「ひゃ…!?」
俺は言葉を失った。いったい、この数字は…?田中先生は俺の視線に気づくことなく、微笑みを浮かべて職員室へ入っていった。
休み時間に、子供好きで知られる校長先生が廊下を歩いていた。彼はフィリピンでのボランティア活動で貧しい子供たちに教えていると聞いたことがある。ふと、彼の頭にもメガネを向けてみた。すると、10,000という桁違いの数字が表示された。もはや、この数字が何を意味するのか、俺には全く分からなかった。
その日の放課後、俺は親友のツバサといつものファミレスにいた。ツバサは俺と同じく非モテグループの一員で、唯一の理解者だ。
「なぁツバサ、これマジでヤバいって。この数字、絶対なんかあるって!」
俺が昨日から見た数字の法則について熱弁すると、ツバサは俺の話を「まーたタナメガネの妄想かよ」と笑い飛ばすだけだった。
「残りの使用回数、あと1回。今日の最後は、お前に賭ける!」
俺はツバサの頭に童貞メガネを向けた。
「0」
「やっぱりツバサも0か…って、あれ?」
俺は目を凝らした。ツバサの頭の上の数字が、ゆっくりと**「0」から「1」**に変化したのだ。
「残りの使用回数:0回」
「ツバサ…お前、まさか!?」
俺は衝撃のあまり、椅子から転げ落ちそうになった。ツバサは顔を真っ赤にして、視線を逸らした。
「そ、その、昨日さ…ちょっと、遊んでみようと思って…」
「経験人数が**『1』**だと!?」
俺の叫び声がファミレス中に響き渡り、周囲の客が一斉に俺を見た。ツバサは慌てて俺の口を塞ぐ。
「や、やめろよ誠!ちげーよ!その数字の意味、俺もよくわかんねえんだから!」
ツバサの必死の抵抗も虚しく、俺の頭の中では、一つの結論に達していた。
この童貞メガネが示す数字は、**「経験人数」**だ!童貞しか使わないこのメガネは、持ち主を卒業させてくれる。そう、このメガネは、俺にとっての試練なんだ。
第三章:覚醒、そして反撃
翌日、俺はいつもより早く学校に向かった。胸の内には、昨日の発見がもたらした興奮と、ケンジに対する複雑な感情が渦巻いていた。俺を「タナメガネ」と呼び、見下してきたあいつが、俺と同じ「0」だったなんて。
登校中、校門の前でケンジが取り巻きの女子たちと楽しそうに話しているのが見えた。俺を見ると、いつものようにニヤニヤしながら近づいてくる。
「よお、タナメガネ。今日も元気か?相変わらず陰キャオーラ出てるけどさ、もしかして、彼女とのデートの練習でもしてんの?」
ケンジが取り巻きの女子を連れて俺をからかう。その時、俺はケンジの目を見据え、はっきりと言い放った。
「デートの練習は、お前がすればいいんじゃないか?」
ケンジは一瞬、何を言われたのかわからず、間の抜けた顔をした。
「は?何言ってんだ、お前」
「童貞が、俺をからかう資格はないだろ」
その言葉を口にした瞬間、ケンジの顔から血の気が引いていくのがわかった。さっきまで嘲笑っていた女子たちも、一斉に笑うのをやめ、凍りついたようにケンジを見つめる。
「な、何言ってんだよ!証拠もねぇくせに…!」
ケンジは震えながら、必死に声を荒げた。
「証拠なら、ちゃんとある。俺にはお前の数字が見える。0だってな」
俺はそう言って、ケンジに背を向けた。プライドの高いケンジにとって、「童貞」であること、そしてその事実を底辺カーストの俺に知られたことは、何よりも屈辱的だったのだろう。彼は何も言い返すことができず、ただその場に立ち尽くしていた。
取り巻きの一人が「ケンちゃん、いつも緊張して上手くいかないって…」と、小さな声で口にした。その瞬間、女子たちの視線はさらに冷たくなった。取り巻きたちはざわつき始め、やがてケンジに冷たい視線を向けながら離れていった。
ケンジは、そのまま教室に入ることもなく、俺の視界から消えていった。そしてその日から、クラスの中心だったケンジは、俺と同じように隅の席で一人、黙って過ごすようになった。
俺は少しの達成感を感じたものの、同時に「本当にこれで良かったのか?」という疑問も頭をよぎった。童貞だからといって、誰かを傷つけていいわけじゃない。俺は、童貞だって良いんだ、と心の中で呟いた。
第四章:田中先生の毒牙
ケンジを打ち負かしたことで、俺の心には少しの達成感が芽生えていた。しかし、その小さな勝利の余韻も束の間、廊下で思いがけない光景を目にする。
視線の先にいたのは、俺の幼馴染、ユイだった。いつもは明るい彼女の背中が、どこか小さく、力なく見えた。彼女は足元をふらつかせながら、まるで何かに怯えているように、保健室の方へ向かっていく。今日のユイは、俺と同じような、見慣れない黒縁のメガネをかけていた。
俺は彼女のことが心配になり、追いかけようとした。その時、頭に激しい目眩が襲い、視界が歪む。
「くっ…」
童貞メガネをかけたままだったからか、頭がガンガンする。俺はふらふらと、ユイを追うように保健室へ向かった。
保健室のドアを開けると、そこにはユイの蒼白な顔があった。彼女のスカートには、赤黒いシミが広がり、それが彼女の震えを物語っていた。そして、その横には、生徒たちの憧れの的、美人教師の田中先生が立っていた。
「あら、誠くん。大丈夫よ、ユイちゃんはもう、私の特別な生徒になったから」
彼女は手に何か持っており、それが微かに震え、不気味な低音を響かせている。
俺は、先生の頭に浮かぶ**「100」**という数字を思い出し、背筋が凍った。
俺が、ユイの頭にそっとメガネを向けると、数字が**「1」に変わっていた。そして、田中先生の頭に目をやると、「100」から「101」**に変わっていた。
「…先生、何を…」
俺が呆然と呟くと、田中先生は俺に歩み寄り、俺の手を掴むと自分のシャツの裾を持たせた。俺は先生に促されるまま、そのシャツの中に手を入れた。初めて生で感じるおっぱいの柔らかさに、俺の頭は真っ白になった。
「…柔らかいでしょう?ユイちゃんのも柔らかかったわよ」
彼女は俺の耳元で囁いた。
その瞬間、俺の頭の上に新たな通知音が響いた。
「使用回数:0回」
そして、俺の頭の上の数字は「1」に変わり、田中先生の数字は、ゆっくりと「102」に変わった。
思春期真っ只中の俺の身体は疼き、興奮を抑えられない。だが、「ユイを助けなきゃ」という俺の強い意志により「0」に戻った。
「誠くん。あなたに、どうしても話しておきたいことがあるの」
俺がかけている童貞メガネに、そっと手を伸ばす先生。
「このメガネ…私があなたに送ったものよ」
俺は目を見開いた。彼女は続けて言った。
「このメガネは、私が特別な生徒に渡していたの。その子は私の数字に興味を持ってやってくる。おびき寄せるための道具なのよ。そして、私は特別な授業をするの。そうすれば、その子の数字は、1になるのよ」
「…どうして?先生は、なぜそんなことを?」
俺の問いに、田中先生は寂しそうに微笑んだ。
「…童貞や処女なんて、恥ずかしいでしょ? 誰もが笑い者にする。そう、あなたの親友のツバサも、ケンジもね」
彼女はそう言いながら、俺を抱きしめた。その抱擁は、慰めではなく、獲物を捕獲したかのような冷たさがあった。
「…私は、まだ大人になる前の男の子が好きなの。女の子も良いわ。でも特に、何も知らない、無垢な男の子たちが好き。私を通して大人になっていくのがたまらないの」
「あなたも、私の特別な生徒になってくれるわよね、先生が優しく教えてあげるわよ。誠くん」
俺は、彼女の歪んだ愛に恐怖を感じ、ユイを連れてその場から逃げ出した。
第五章:暴かれる真実
家に帰り、俺は鏡の前に立った。童貞メガネをかけた自分の頭の上には、**「0」**と表示されていた。
「良かった…!」
俺は震える手で童貞メガネを外し、妹のハルカに向けた。
「残りの使用回数:4回」
「あれ?お兄ちゃん、おかえり!」
ハルカは、リビングにいる俺に気づいて、驚いた顔をしている。どうやら俺がまだ家にいないと思っていたようだ。彼女の頬はいつもより紅潮していて、額にはうっすらと汗が滲んでいた。その顔が、どこか見覚えのある表情に見えた。
俺は言葉を失った。あのツバサがファミレスでそうだったように、ハルカの数字も「0」から「1」に変わっていくのか。俺は固唾を飲んで、ハルカの頭を見つめる。すると、そこに浮かんでいた「0」という数字が、ゆっくりと「1」に変化していくのが見えた。
その時、妹の部屋からツバサが出てきた。
「誠…」
ツバサが何か言おうとしたその瞬間、俺はメガネを静かに机の上に置いた。メガネがなくても、俺にはもう、見るべき真実が見えていたからだ。
童貞メガネは、俺に真実を突きつけた。そして、俺は知った。この世界は、俺が思っていたよりも、ずっと複雑で、そして、少しだけ悲しい場所だということを。
エピローグ:新たな誓い
俺はソファに座り、ぼんやりとテレビを見ていた。すると、ワイドショーからアナウンサーの声が聞こえてきた。
『速報です。フィリピンで、日本人男性が児童ポルノ所持の疑いで逮捕されました。逮捕されたのは、東京の私立高校の校長、山田一郎容疑者、62歳です。所持していた写真は10,000点以上に及ぶとみられています。』
俺は絶句した。あの校長先生の**「10,000」**という数字は、そういうことだったのか。驚きのあまり、手に持っていた童貞メガネを、思わずそばにいた母親に向けてしまった。
「あ、間違えてお母さんの方にかけちゃった」
俺は焦った。母親に童貞メガネをかけるなんて、とんでもないことをしてしまった。
「0」
「…はぁ?」
俺は思わず息をのんだ。母親が**「0」!?一体どういうことだ!?父親も「0」**だったはず!俺は混乱の極みだった。その時、俺の脳裏に、両親が以前、俺に語った言葉が蘇った。
「誠…お前は、この家で生まれたんじゃない。拾った子だ」
俺は、家族の愛が、血の繋がりを超えたものであることを知った。そして、自分の**「0」**という数字に、誇りを持つことができた。
その時、玄関のチャイムが鳴った。
そこに立っていたのは、ユイだった。彼女の顔はまだ蒼白で、震えていた。彼女の手には、俺の童貞メガネと同じ、黒縁メガネが握られていた。
「誠くん…これ、私、もういらない。あなたに、返したい」
ユイはそう言って、メガネを俺に差し出した。
「どうして?」
「だって、もう…いらないから。誠くんが、私の**『1』**を、守ってくれたから。私が怖いと感じた『1』を、誠くんが勇気をもって受け止めてくれたから」
ユイは、自分の目から涙がこぼれるのを止められなかった。俺は、何も言わずに彼女を抱きしめた。ユイは俺の胸に顔を埋め、声をあげて泣き始めた。俺は、ただ静かに彼女の背中をさすった。
そして、ユイは俺の顔を見上げて、そっと口付けを交わした。
そしてその日、俺の頭の上に、通知音が響いた。
「1」
END