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ギフト

「見てみるか?」

 ミノワの言葉に思考が引き戻され、更にはマスクを外したミノワの姿を想像してしまった。

「結構です!」

 真っ赤な顔でマイラは断った。


「さきほどの話ですが、ミノワさんのマスク、ギフトじゃないですか?」

「ギフト?」

 ギフトとは神から与えられる贈り物で、天職とは違い誰しも与えられるものではない。

 神からの贈り物なだけあって恩恵と呼ばれる特殊な効果を秘めており、与えられた者以外は使えない持ち主専用のアイテムだという。


「オレのマスクがそのギフトだと?」

「はい」

 話を聞いてマイラはミノワのマスクはギフトだと直感した。

 なぜなら……。


「これを」

 マイラは何かを取り出しミノワに見せる。

「マスク?」

 そう、それは深紅のマスクだった。それも頭部にはちゃんと耳まで付いている。


「見ていてください」

 そう言うとマイラはおもむろにそれを被った。

「!!!」

 マスクを被ったマイラの姿が変化する。

 胸元の空いたマスクと同じ紅いボンテージスーツ。

 ローブで隠されていた体のラインが露になり、スラリと伸びた長く引き締まった足から上へと眺めていく。

 ヒップラインにさしかかると大きくはないが引き締まった形のいいお尻もさることながら長い尻尾に目が引かれる。

 初めて見る獣人。その獣人の特徴であろう耳と尻尾にどうしても目がいってしまうのだ。

 さらに腰、胸と眺めさらに上へ。

 スッと筋通った形の良い鼻や口はマスクに覆われておらず、それが逆に強調され魅力的に見える。さらにマスクから覗く青みがかったグレーの瞳は紅いマスクによく合って神秘的に見えた。


「残念だ」

 全身を眺めたミノワは、ある一点を見つめ呟いた。

 体のラインが強調される魅惑的なボンテージスーツ。その胸元は大きく開いており、その恰好には漢の浪漫が詰まっている。

 だが、何かが足りない。大事な何かが。


「どこ見てるんですか!」

 ミノワの視線に気付き胸元を手で隠すマイラ。

「心配するな。これはこれで需要はあるぞ」

 慰めるようなミノワにマイラは「そんなものいりません!」と大声で返した。


「これが私のギフトです。そして」

「!」

 マイラがマスクを脱ぐと元のローブ姿に戻る。

「これは……」

「はい。ミノワさんは単純に服を着ていないだけだと思います」

 ミノワタウロスのコスチュームが何らかの影響でギフトになったのだとすれば、それ以外身に着けていなかったのだから裸になるというのは道理が通る。ベルトが消えないのはギフトではないからだろう。今となってはマントがどうだったかわからないが、仮にギフトでなかったとしても全裸にマントなんてそれこそ本物の変態だ。


「そのギフトは早着替え以外で何かの役に立つのか?」

 変装に使えないこともないが、あの格好では逆に目立つだろう。

「防御力もそこそこありますし、身体能力も上がります」

 マイラのギフトの恩恵は身体能力強化、恰好さえ我慢できれば悪くはないギフトだ。だが……

「ただ、着用している間、マナを消費するので長くは使えません」

 そう、身体能力が上がる代わりに着用している間、マナを消費し続けるのだ。

 マナの少ないマイラは長時間使用できないうえ、魔法でも使おうものならその時間は更に短くなる。

 マイラが魔法職でなければ、いざというときの切り札になり得たかもしれないが、攻撃力の高い武器を装備出来ない魔法職にとってマイラのギフトは魅力のあるギフトとはいえないのだ。


「ブラッディ・クーガー」

「?」

 ミノワがぼそりと呟いた。

「さっきの姿を見て閃いたんだ。深紅の獣姫ブラッディ・クーガー、クールで格好いい名前だろ」

「名前?」

 マイラは付けていないが、自分のギフトに名をつけている者は多い。理由は、ギフトは選ばれた者だけが神から与えたれた自分専用のアイテムのため敬意と愛着を込めて名をつけるのだ。

「ブラッディ・クーガー」

 マスクを見つめそう呟くと、手の中のマスクが今までと違うもののように見えた。

「このギフトの名前はブラッディ・クーガーにします」

 ミノワのセンスはさておき思わぬ形でギフトの名付け親になったのだった。

 余談だが、ミノワはギフトではなくそれを装着したマイラを見て浮かんだリングネームが口から漏れただけであった。


「無用なトラブルは避けたいが仕方ないか……」

 パンツ一枚で街中を歩き回るのは公序良俗においてアウトだ。ましてや全裸なんて以ての外だ。

 だが、他に着るものがない以上どうしようもない。

 カイトたちとは一度会っただけだが、一緒にトレーニングをした仲だ。それに帰り際「トレーニングのお礼」と称し食料をくれたのだ。

 そんなカイトたちを放ってはおくことなどミノワにはできなかった。


「私が確認してきましょうか?」

 ミノワの心中を察したマイラは、カイトたちが無事か確認してくると言い出した。

「いいのか?」

「はい。どうせ戻りますし」

「ついでと言っちゃなんだが服を買ってきてくれないか」

 快く引き受けたマイラに服を買ってきてほしいと頼む。さすがにこれからずっと、ここに籠っておくわけにはいかない。そのためには服が必要だった。

「わかりました」

 ミノワの頼みをマイラは快く引き受けた。

「ありがとう。マナミきてくれ」

 ミノワがそう言うと、空間が歪み闇に覆われ、その中から魔物が現れた。


「スケルトン!?」

 マイラは驚愕した。初めて魔物が出現する瞬間を見たからではない。そのスケルトンが普通のスケルトンではなかったからだ。

 なんとそのスケルトンは服を着ていたのだ。それもメイド服を。

 おかしな格好をしているとはいえスケルトンだ。マイラは魔法の描写を始める。


「ターンアン――」

「まて!」

 魔法を放とうとしたマイラをミノワが制する。


「マナミは敵じゃない」

「マナミさん?」

『マナミ』ミノワの話に出てきた生前はこの館で剣闘王の世話をしていたメイドの名だ。

 剣闘王の消滅とともにダンジョンの全ての魔物が消滅したと思っていたが、魔物は完全に消滅したわけではなかった。

 ただ一体、目の前のマナミだけは消滅しなかったのだ。

 そして今もメイドとしてこの館に存在している。


「メイド服を着たスケルトンなんて」

「スケルトンだけに冥途服なんてな」

「……」

 部屋の温度が下がり寒気を感じたマイラだった。


「そ、それでなぜマナミさんを?」

 気まずい空気をどうにかしようとマイラを呼んだ理由を訊ねた。

「まあ、そう焦るな。まずは自己紹介だ」

 ミノワが目配せすると、マナミはポケットから紙とインクを取り出した。

 人差し指の先をインクに浸けると紙に何かを書き始めた。羽ペンならぬ骨ペンである。

 その紙には綺麗な字で『マナミと申します。よろしくお願いします』と書かれていた。

「私はマイラ。マナミさん、こちらこそよろしくお願いします」

 意志を持ち、人とコミュニケーションが取れるスケルトン。

 謎だらけだがマナミに敵意がないことはわかる。今のマイラにはそれで十分だった。

「マイラに買い物を頼みたいのだが」

 マナミにそう伝えると「ちょっと待っていてください」と書き残し、現れた時と同じように闇の中へ消えていった。

「消えた?」

「別の部屋に行ったのだろう。すぐに戻ってくるさ」

 ミノワは当たり前のように話しているが、魔物がダンジョン内を自由に空間移動するなんて聞いたことがない。

「マナミさんのアレは何なんですか?」

「魔法じゃないのか? 魔法って便利だな」

 確かに別の場所へ転送できる魔法があるが、あれは予め出口を設定しておく必要がある一方通行の魔法だ、マナミのソレとは違う。


「戻ってきたな」

 マイラが考えていると闇が出現し中かマナミが出てきた。

 マナミはマイラに近づき持っていた袋を渡した。

 

「これは?」

 袋の口を開けると中には沢山の魔石が入っていた。

「服の代金だが、これで足りるか?」

 スケルトンの魔石は高くはないが、普通の服なら十分すぎる量だ。

「どのような服を?」

「オレの体に合ったものならば何でもいい、テキトーに選んでくれ」

 鍛え抜かれた大きい腕や胸で入らないことも多いため、着れる服を選ぶしかなかったミノワはファッションへの拘りは皆無だった。

「それなら、こんなにいらないですよ」

 半分くらいあれば足りるだろうと魔石を返そうとしたマナミをミノワは制止した。

「残りは報酬だ」

 お使いの報酬としては高すぎる額に恐縮するマイラだったが、お金を必要としていたこともあり、ありがたく頂くことにした。


「では、いってきます」

「帰ってきたら飯でも食おう。マナミの料理は絶品だぞ」

 ミノワに挨拶をし、マイラは街へ向かった。


お読みいただきありがとうございます。

次話もご一読いただければ幸いです。

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