まだまだ強く
「お兄ちゃんたち大丈夫かな?」
昼食を食べながらアズサはポツリと呟いた。
これまで賑やかだった分、カイトたちのいない食卓は少し寂しく感じる。
「師匠も言ってたし、大丈夫よ」
「うむ。元々合格する実力はあったからな」
「そうなんですか?」
カイトたちなら剣闘王の舘くらい難なく攻略しただろう。
手足を拘束され、本来の力の半分も出せないアンドレでは四人の連携に翻弄され敗れるはずだ。
それでも不合格となったのはホーガンの審査が厳しかったためだ。
ミノワたち同様、ユニオン戦に参加する可能性がある四人をホーガンは厳しく審査したのだ。
「まあ、マイラほどじゃないがな」
「お姉ちゃんすごい」
「私なんてまだまだです」
ミノワの評価に照れながらも、先の戦いをうけ「まだまだ」だと返した。
「マイといい勝負をしてじゃないか」
「最初だけです。本気のマイさんに何もできませんでした」
マイとの戦いで自身の力不足を痛感した。様子見のマイ相手に「もしかしたら良い勝負ができるのでは」と勘違いしたあげく、一方的にやられた。それもスキルすら使うことなく。
獣人であるマイラは身体能力に多少の自信を持っていた。相手がスキルを使えば別だが、スキルなしの、それも素手での戦いならそれなりにやれると思っていた。
だが、それが自惚れだったとマイとの一戦は教えてくれた。
今のマイラの目標はマイである。スピードに長けたマイのスタイルは、マイラにも通じるものがあり、いつか必ずあの領域に達してみせると日々厳しいトレーニングを行っているのだ。
「相手はBランクだ。チャンピオンと新人が戦うようなものだぞ」
「それはそうですが」
「Bランクを本気にさせたんだ、大したものだ」
Bランクを本気にさせるマイラの力はDランク以上はあるとミノワは確信していた。
「師匠は互角だったじゃないですか」
ホーガンと互角に戦っていたミノワに、何もできず敗れた自分が褒められても慰めにしか聞こえなかった。
「ホーガンは全然本気じゃなかったぞ」
ミノワも本気ではなかったが、余力があったのはホーガンだ。
「お互い本気だったら、負けていただろう」
底が見えないホーガンの力、ホーガンはアンドレより遥かに強い。
それにマイ同様ホーガンもミノワに合わせて武器は持たずスキルも使っていない。
「お互いまだまだだな」
「はい」
二人は見つめあい、強くなることを誓った。
「お疲れさまでした」
「おう」
「で、いかがでした?」
「合格だ」
紹介所に戻ってきたホーガンは出迎えたマイと所長室に入り腰を下ろし話を続けた。
「この前まで、甘ったれの子供みたいだったが、大人の顔になってやがった」
「きっかけさえあれば若者はすぐに成長しますからね」
「違いねえ」
前回の試験の時は力の差を感じた瞬間、勝負を諦め向かってくる気迫が感じられなくなったが今回は違っていた。
実力差を理解した上で再試験に挑んできたのだ、最初から諦めているということはなかっただろうが、今回はいくら倒れても立ち上がり向かってきたのだ。
四人の気迫にホーガンも気が高ぶり少し力が入ったがそれでもなお立ち上がってきた。
折れない心の強さもそうだが、受け方が以前とは違った。攻撃を食らってもダメージを最小限に抑えようという受け方をしていたのだ。
何度倒れても動くことができたのは、その技術があったからだろう。
攻撃も一撃一撃が重くなっており、後衛二人の体さばきは魔法職とは思えないほどだった。
「なるほどな」
ホーガンはマイラのことを思い出した。
マイラも魔法職ながら近接職以上の動きを見せた。
その者たちの共通点はミノワに鍛えられたということだ。
もっともマイラの場合は次元が違う。
いくら獣人族の身体能力が優れているとはいえスキルも使わずあの動きは異常だ。
「どうなさいました?」
少し口角が上がったホーガンにマイラが声をかけた。
「世の中にはバケモンみたいな奴がいるなと思ってな」
「あの二人ですか」
納得するように答えるマイを見て「お前もだ」とホーガンは言葉を足す。
「元Aランクのワーカーにバケモノ呼ばわりされるとは心外です」
ホーガンは元Aランクのワーカーだ。現役時代は別の地方を拠点としていたのでリベリオンで当時を知る者はいないが、Aランクに上るまでソロで活動していた知る人ぞ知る伝説のワーカーである。
「オマエもそれくらいの力は――」
「私は元Bランクです」
「そうだったな」
マイに言葉を遮られ意味深に返すホーガンだった。
「それに常識では測れないくらいじゃないと精々Bランク止まりです」
「私のように」とマイは付け加えた。
「これからだな」
「はい」
二人は真剣な表情を浮かべる。
「うまくいくでしょうか?」
「アイツらの強さなら大丈夫だろうが、あと一人か……」
「それなら一人ちょうどいい人物が」
「強いのか?」
「いえ、ラツシヤです」
「ああ、ミノワにのされた奴か」
「はい。あの時、勝手に絡んでミノワさんに迷惑をかけていますし、お願いすれば名前くらい貸してくれるかと」
「お願い」と言った時のマイの笑顔が何となく怖かったのは気のせいだろう。
「パーティー戦になるだろうが一人くらいなら大丈夫だろう」
ホーガンたちは以前から魔蛇について調査をしていたため、魔蛇の内情をある程度知っていた。
ゆえに魔蛇が受けるならパーティー戦だろうと踏んでいた。
「問題は……」
「魔蛇が受けるかですね」
いくらユニオンを結成しても魔蛇が受けなければ意味がない。
「そうだ。何か美味しい餌があればいいんだが」
ユニオン戦をやるには魔蛇が受けたくなるような何かが必要なのだ。
「やるのはミノワさんなのですし、今度相談してみては」
「ああ、もしもの時は……」
ホーガンは所長室の壁に掛けられた大剣に目をやった。
『剣闘王の大剣』ミノワがアンドレから貰った世界にただ一つの大剣だ。
何故ここに剣闘王の大剣があるのか?
それは担保として預かっているからだ。
ミノワは剣闘王の館を購入した。他に誰も住みたがらず相場より安いとはいえあの広さの館だ、それでも相当な金額になる。
剣闘王の館には封印され入ることのできない部屋がいくつもあった。
剣闘王が消滅したせいか、その封印が解けており部屋には調度品が保管されていた。
ダンジョン内で発見した宝は発見者の者だ。ミノワはそれらを売ってお金をつくったが館を買うには至らず、剣闘王の大剣を担保にお金を借りたのだ。
ミノワにとっても苦渋の決断だった。「マナミの平穏のためだ、アンドレもわかってくれる」と泣く泣く担保に入れたのだ。
「そんなことすればミノワさんに怒られますよ」
剣闘王の大剣を見せれば魔蛇は食いついてくるとのホーガンの考えを見透かしたマイが釘を刺す。
「ゴチャゴチャ考えてもしかたねえ」
「なるようにしかならん」とホーガンは考えるのを止めた。
「それにしても、楽しみな新人たちが増えたな」
「復帰したくなりました?」
「バカを言うな。だが、負けるのは好きじゃねえ」
「ですね」
二人は穏やかに笑い合った。
お読みいただきありがとうございます。
次話もご一読いただければ幸いです。




