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ミノタウロスじゃありません!  作者: name


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訓練

「ま、待てぇ……」

 足がもつれたカイトが倒れると、立っているのはマイラだけになった。


 あれから三十分近く全力でマイラを追いかけた四人は息が上がり足は動かず、歩くのさえままならないほど疲労し次々と脱落していった。

 意外にも最初に脱落したのはサクヤでもリーヴでもなくオモスだった。

 ガタイがよく体力はあるが、大きな盾を持つ重装備のため負荷も大きかったのだ。

 装備を外せば解決するのだが、鬼ごっことはいえこれは勝負、つまり戦いだ。そこはホプライトとしてのプライドか譲れなかった。

 重りを背負って走っているのと同じオモスの体力は見る見るうちに削られ、一番最初に限界を迎えた。

 肺が酸素を求める苦しい中で、それでもオモスは限界ギリギリまでスピードを落とさずマイラを追いかけ電池が切れたかのようにバタンと倒れた。

 その見事な倒れっぷりに「根性があるな」とミノワも感心した。


 次に体力のないリーヴが限界を迎えた。

 同じく体力のないサクヤは勝たなくても今日はこれで終わりという考えから、明日に疲れが残らないように間間で力を抜いており、そのうち適当に倒れようと考えていたが、ミノワに「サクヤには次のトレーニングも必要だな」と見抜かれてしまい、その後死ぬ気でマイラを追いかけるとすぐに限界を迎えダウンした。


 そして今、最後まで残っていたカイトが限界を迎え鬼は全滅。

 鬼ごっこはマイラの勝利となった。

「今のままじゃ三十分一本勝負は戦えんぞ」

 次の日から基礎知力をつけるメニューが延々と続くことになった。


 剣闘王の舘の朝は早い。

 日の出前に起床し、館を囲む森の中を暁暗の中走る。

 戦闘同様、装備を身に着け走る。

 走り込みの時は装備を外したいが「森での戦闘で鎧を脱ぐのか」と却下された。

 重装備のオモスとパンツ一枚のミノワ。自分が軽装だからそんなこと言うのだろうと思うのは間違いだ。なぜならミノワは砂の詰まった大きなバッグを背負い走っているのだ。しかもその重量はオモスの装備よりも重い。

 マイラもミノワ同様、バッグを背負っているが、ミノワみたいな非常識な重量ではない。

 パワーもさることながら、四人が驚いたのはミノワのスピードと持久力だ。

 重りを背負っているというのにリーヴやサクヤよりも速い。

 それにいくら走ってもスピードが落ちない。

 スピードはマイラが上だろうが持久力ではミノワが圧倒している。

 先日の鬼ごっこをミノワがやったら、マイラのスタミナが切れるまで延々と追いかけるミノワの姿が想像できた。

 一時間ほど走ると館に戻り朝食を食べるのだが、「食事は全員で」がモットーのミノワの方針により全員がゴールするまで待つこととなる。

 腹が減っているのはミノワたちだけで、カイトたち四人はマナミが初見だろうと驚く気力もないほど疲れ果て、食欲など皆無だ。

 しかし「作り手と食材に失礼だ」と残すことは許されず気合いで料理を流し込む。

 普通なら美味しい食事も、弱り果てた胃腸には苦行となる。

 ミノワ曰く「食べるのも仕事」だそうだ。


 朝食の後は掃除や薪割、庭園や菜園の手入れなど館の仕事は多い。

 元々は数十人の使用人がいたこの館、さすがのマナミでも一人では手が回らない。

 近年、掃除機やコンロなどマジックアイテムが開発され効率よく作業ができるようになっているが、長年人が住んでいなかったこの館にはそんなものないし、マジックアイテムを買うお金も使用人を雇うお金もない。

 それに、ただでさえ食事を必要としないマナミに食事を作ってもらっているのに、そのうえ畑仕事や薪割りまでさせるのはさすがに人としてどうかと思う。

 それで手分けして作業しているのだが、薪割りはもちろんのこと掃除一つ取っても丁寧にやれば疲れるものだ。

 そんなことをしていると昼食の時間になる。

 昼食は軽めに済ませる。なぜならこの後地獄が待っているからだ。


 そう地獄のトレーニングが。


 まずはウォーミングアップ。

 怪我防止のため入念にストレッチを行う。

 ストレッチといえども侮れない。力士の股割りよろしく体の硬い者にとってはこの上なく辛い。

 補助という名のミノワの拷問も加わり、怪我防止というのが本末転倒になりそうだ。

 今は体が地面にペタッとつくほど柔らかいマイラも当初は体が硬く泣きながらやっていた。

 意外だったのはサクヤだ。

 サクヤは体が柔らかく、苦痛に顔を歪める三人をどや顔で眺めるのであった。


 ストレッチが終わると、スクワットや腕立て、腹筋、ブリッジなど様々な自重トレーニングを行う。

 ミノワは軽めというがミノワの感覚は常人とは違う。

 体力差があるので個人ごとの回数は異なるが体力のないサクヤやリーヴにとってスクワット500回が軽いはずがない。まして早朝クロカンでの疲労が残っている足では半分だってできない。

 そういうときはすでに回数をこなした(重りつき)ミノワとマイラが補助に入る。

「まだいける、頑張れ!」「私も最初はできなかったんですよ」などと励ましながら立ち上がるのをサポートしてくれるのだ。


 それが終わると受け身の練習だ。 

 ジャンプして背中から落ちたり、相手の打撃を受けたり、「受け身が取れないとプロレスはできない」と延々やらされ生傷が絶えない。

 ここで活躍するのがリーヴの魔法だ。


 皆の傷をヒールで癒すリーヴに羨望の眼差しを向けるマイラがいた。


 それから実践的なトレーニングに入っていくのだが、すでに体力が限界のカイトたちはここで終了となり、後は見学だ。


「オレもそのうち」

 終わったことを喜ぶよりも、見学する悔しさを噛みしめるカイトたちだった。


 トレーニングが終わり汗を流すと夕食の時間だ。

 体を動かし空腹のミノワとマイラはもりもり食べるが、同じ空腹でもカイトたちは胃が食べ物を受け付けない。

 朝食同様、無理して料理を流し込む。

「一番辛かった練習は?」と訊かれ「食べるのが一番辛かった」と答えるプロレスラーがいるが、まさに今カイトたちはその状況を体験していた。


 どんなに厳しいトレーニングも繰り返しやれば体が慣れてくる。

 最初、こなせなかったトレーニングもそれ以上の回数をこなせるようになった。

 疲労が上回っていた食欲も今ではおかわりするほどだ。


「もう大丈夫だろう」

 夕食の後、カイトたちに向かってミノワは言った。

「えっ?」

「試験だ。今のお前たちなら大丈夫だ」

 基礎体力が付き、一通りのメニューをこなせるようになった今の四人なら合格できると判断したのだ。

 もともとカイトたちの連携は目を見張るものがあった。合格に足りなかったのは相手が強くても諦めない心と根性だ。

 ミノワがいた世界では「根性論」は非科学的で過去のものになりつつあるが、プロレスラーは根性なのだ。

 痛みに耐え、限界がきても立ち上がる根性が、精神力が大事なのだ。

 厳しいトレーニングに耐えた今の四人ならホーガンも認めてくれるだろう。

 限界を超え立ち上がる根性を持った四人なら。


「本当に?」

「ああ、ホーガンのとこに行ってこい」

 ミノワのお墨付きをもらい四人は歓喜した。


「いってきます」

 再試験を受けるために紹介所に向うカイトたちを「合格祝いの準備をしておく」とミノワたちは送り出した。

 厳しいトレーニングに耐えたためか四人に不安はなく、その顔は自身に満ちていた。

 そんな四人の背中は来た時よりも逞しく見えた。

お読みいただきありがとうございます。

次話もご一読いただければ幸いです。

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