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ミノタウロスじゃありません!  作者: name


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鬼ごっこ

 翌日カイトたちは再び剣闘王の舘を訪れた。

 毎日の行き来も大変だろうと、泊まり込みで鍛えてもらえることになり荷物を取りに戻っていたのだ。

 それも四人揃って、リーヴもサクヤも逃げ出さなかった。


 館についた四人が連れてこられたのは、思い出深い元ボス部屋だ。

 ちょっとした舞踏会くらいできそうな広いその部屋に、ミノワとマイラが四人と向かい合うように立っている。


「まずはお前たちの力を見たい。マイラ」

「はい」

 ミノワに名を呼ばれマイラは一歩前に出る。


「オレが行こう」

 他のメンバーを制するようにカイトが一歩踏み出した。

「一対一でなくても構わんぞ」

「オレもファイターとして意地があるんで」

 目の前にいるのはクレリックで武器すら持っていない。前衛で戦うファイターとして攻撃職ですらない相手に複数人で挑むなどプライドが許さなかった。


 クレリックに負けるはずがない。

 未だホーガンの言葉を信じきれていないカイトは心の中でそう思っていた。


「準備はいいか」

「「はい(ああ)」」

 カイトは訓練用の木剣を構える。


「はじめ!」

「ぐわぁ」


 一瞬の出来事だった。

 開始の合図が聞こえた瞬間カイトが後方に吹っ飛んだ。

 気がつけば天井を見ていたカイトは自分の身に何が起きたのか理解できなかったが、その痛みから鼻から頬を伝い流れている液体が自分の血だということは分かった。


「大丈夫ですか?」

 倒れているカイトに心配そうに声をかけるマイラ。

 開始の合図とともに繰り出したマイラの跳び膝蹴りがカイトの顔面をとらえたのだった。

 マイラの一撃は見ていた三人の度肝を抜いた。


「カ、カイト!」

 呆けていたリーヴはカイトに駆け寄りヒールをかける。


「あ、ごめんなさい。まさかあんなにきれいに入るとは思わなくて」

 日頃ミノワを相手にしているマイラは、いつものように本気でやってしまったのだ。


「気にしなくていい」

 出血は止まったが、ダメージは残っており、よろめきながら立ち上がるカイトはホーガンの言ったことは本当だったと理解した。


「悪いが全員でいかせてもらう」

 身をもってマイラの強さを体験したカイトは驕っていた自身を恥じ、パーティーで戦うべくメンバーに声をかけた。

「で、どうすの?」

「あの速さ、シーフ並ですよ」

「ああ、だが、」

 確かに速いが、素早さが特徴であるシーフにもあれくらいの者はいる。

 もっともスキルを使わずあのスピードは異常だが、集中すれば防げない速さでもない。あの速さが頭に入っていればなんとか対応が可能だろう。

「対応できない速さでもねえ」

 さっきはまともに食らったが、集中してれば躱せないまでも防ぐことは可能だろう。

 

「いくぞ!」

 カイトの掛け声で四人は陣形をとる。

 ホプライトであるオモスを最前列に、少し下がった位置にカイト、その後ろにサクヤとリーヴ。

 オモスが防げば攻撃に、抜かれた場合は防御力の低いサクヤとリーヴを守る盾役に動くのがカイトの役目だ。

「……こい」

 マイラはどう動くのか?

 カイトとの対戦のように正面突破でオモスを狙うのか? はたまたオモスをすり抜け後衛のサクヤやリーヴを狙うのか? マイラの動きを見逃さないよう四人は集中する。


「では、いきます」

 一瞬で距離を詰めたマイラはオモスの顔に向かって掌打を放った。

「ふん」

 オモスは大きな盾で掌打を防ぐとマイラを押し返した。

 顔面への攻撃をオモスは予想していた。

 ホプライトであるオモスは重厚な鎧を装備しているため素手でダメージを与えるとなると攻撃箇所は限られるからだ。

「ストーンバレット」

 しゃがんだオモスの後からサクヤの魔法が飛んでくる。

「やった?」

 不意を突いたサクヤの魔法がマイラを捉えたと思った瞬間、マイラはジャンプしサクヤの魔法を躱した。


「もらった!」

 しかし、カイトたちもこれで終わりではなかった。

 ジャンプで躱すことを予期していたのかオモスの背中を足場にしてマイラよりも高く跳んだカイトが剣を振り下ろした。


「くっ」

 咄嗟に腕を交差しガードするマイラ。すでにステイドが付与されたカイトの一撃にガードしながらも吹き飛ばされる。これが真剣だったらマイラの腕は繋がってなかっただろう。


「あれをガードするかよ」

 完全に入ったと思ったカイトはマイラの反射神経に驚きを隠せなかった。

 反射神経だけではない、自分を倒した時の瞬発力といい、身体能力が尋常ではない。ただ一つ残念なのはマイラがクレリックだということだ。この身体能力にスキルが加われば高ランクのワーカーも夢ではなかっただろう。


「やはりシングルマッチとは勝手が違うか」

「すみません師匠」

 マイラにとって複数人を相手にするのはこれが初めてだった。


「タッグやバトルロワイヤルにおいては全体を見る視野も必要だ」

「はい」

 確かにサクヤの攻撃も反射神経でどうにかなったが、もっと注意深く全体を見ていればあんな苦し紛れのジャンプをすることはなかった。

「まあ、連携も見事だったがな。やはりお前たちはタッグ向きだな」

 ガードされたとはいえマイラに一撃を入れたカイトたちの連携をミノワは賞賛した。


「初日だし、鬼ごっこで終了だ」

「鬼ごっこ?」

「ああ、鬼ごっこだ。ちなみにお前たちが鬼だ。直接触れなくても剣でも魔法でもオッケーだ」

「本当にそれで終わり?」

「ああ、お前たちの誰かがマイラに触れたら終了だ」

「やったー」

 前回の経験からどんなしごきが待っているのかと不安のあったサクヤはミノワが弟子を持ち優しくなったと喜んだ。

「マイラもいいな?」

「はい」

 もう失態は見せられないとマイラは気合を入れた。


「はじめ」

「シールドタックル」

 合図と同時に、盾を構えたオモスが突進する。

 迫るオモスをジャンプで躱すと、オモスの後にはカイトがしゃがんで隠れていた。


「かかった。これで終わりだ」

 カイトの肩には落ちないようにカイトの頭を掴み、中腰で立つリーヴの姿があった。

「いけー」

「うわー」

 カイトが思い切り膝を伸ばすのと同時に、リーヴもカイトの肩からマイラに向かって跳び上がる。


「これで終わり、えっ!?」

 四人は信じられない光景を見ていた。

 カイトの肩から跳び上がったリーヴがマイラにタッチし終わる。

 そのはずだった……。

 さっき見た高さなら十分届くはずだった……。

 だが、伸ばしたリーヴ手がマイラに触れることはなかった。

 その手の更に先にマイラはいたのだ。

 マイラの跳躍力はこの部屋の天井にさえ届くほどだ、それに対しリーヴの身体能力はお世辞にも高いとはいえない。しかも不安定な足場からビビりながらのジャンプ。そんなジャンプではマイラには届かなかったのだ。


「サクヤ!」

「うん、ストーンバレット!」

 サクヤの魔法がマイラを襲う。

 今度こそ本当に終わり。動きが制限される空中で躱すことなど不可能だとサクヤが勝利を確信したその時、マイラは空中で回転し天井を蹴り自身の軌道を変えストーンバレットを回避すると、そのまま着地した。


「うそ……」

 アクロバティックな動きに驚愕するサクヤだったが、マイラは何事もなかったかのように平然と服に付いた埃を払いネクタイを直した。


「もう終いか?」

「まだだ!なあ」

「「「うん!(……ああ)(ええ!)」」」

 ミノワの煽るような物言いに四人の闘志は燃え上がった。

「いくぞ!」

 勝利を目指し四人はマイラに向かっていった。

お読みいただきありがとうございます。

次話もご一読いただければ幸いです。

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