栄光再び
「アテだと?」
ミノワにワーカーの当てがあるとは思わなかったホーガンは驚き、聞き返した。
「ああ、見込みのある奴らだが、一つ問題がな」
「どんな問題だ?」
「まだワーカー試験に合格してない」
「そんな奴らが強いのか?」
ミノワの言葉を疑うわけではないが、ワーカー試験すら合格していない者が本当に戦力になるのか疑わしかった。
「栄光の箱舟というパーティーだ」
ミノワはカイトたちのことをホーガンに話した。
個々の能力を上げる必要はあるが、あの連携は一朝一夕で身につくものではない。相当な鍛錬を積みんだ結果だろう。そんな努力ができる栄光の箱船にミノワは一目置いていた。
「それにしても、お前の意識を飛ばすなんてたいしたもんだ」
「不意打ちとはいえ、あの連携は見事だった。不意打ちとはいえ」
「……」
やたら不意打ちを強調するミノワを冷ややかな目で見るホーガンとマイだった。
「その被りもんがギフトなら一度鑑定をしといたほうがいいぞ」
カイトたちの件は検討するとしたホーガンは帰り際にそう告げると剣闘王の館を後にした。
剣闘王の舘の前に四人の若者たちの姿があった。
「はぁ」
女の口から重苦しい溜息が漏れる。
「本当にいくの?」
その女は他のメンバーに懇願するように確認した。
「ああ」
「……うむ」
二人の男が肯定する。
「リーヴはどうなの?」
剣闘王の館。以前ここで起こった苦い記憶が蘇る。指一本動かせなくなるまで扱かれた地獄のような記憶が。
「ボクは他の紹介所で試験を受けたいのですが」
「そんなことしたら逃げ出したようで格好悪いだろ!」
「カイトの言うこともわかりますが……」
四人の名はカイト、オモス、サクヤ、リーヴ。ワーカーを目指している幼なじみパーティー『栄光の箱舟』だ。
四人がここに来たのには理由がある。
その理由とはワーカーになるため。強くなってワーカー試験に合格するためだ。
試験の場であった剣闘王の舘のダンジョン化が解消されたため、現在リベリオンの紹介所ではワーカー登録試験は行われていない。
それどころか、剣闘王の舘には人が住んでいるとの噂さえある。
実際は剣闘王の舘のダンジョン化は解消されてないが、無用なトラブルを避けるため紹介所がそのように処理をした。紹介所で本当の事を知るのはホーガンとマイくらいなのでバレることはまずない。
ワーカー試験については他のダンジョンを検討しているとのことだが、未だ決まっておらずカイトたちも試験を受けるため、他の都市の紹介所に向かおうとしていた。
そこにあの男が現れた。リベリオンの紹介所所長であるホーガンが。
ホーガンが来たのは、先日ダンジョン化の解消判明前に受付をしていた二名の受験者の試験を行ったので、不公平にならないようカイトたちにも試験を行うとのことだった。
試験の内容はホーガンと戦い実力を示すこと……。
「まあまあだな」
起き上がれない四人とは対照的に、大したダメージのないホーガンは四人を見下ろしながら判定を下した。
「残念だが、今のままでは不合格だ」
「不合格」の言葉に肩を落とす。
勝つことが合格の条件ではないだろうが、力の差は歴然でほとんど何もできなかった。
「今のままでは?」
試験の結果なんて「不合格」だけで済むはずだ。しかしホーガンは「今のままでは」といった。それはつまり……。
「まだチャンスがあるということだ」
そう、今のままでは不合格だが、鍛えれば合格できる。つまり再度この試験に挑戦できるという意味だ。
「こんなの合格できるのかよ」
空を見ながらカイトは呟く。
「前の二人は合格したぞ」
四人は驚愕した。
二人のうちの一人は自分たちに会いに来たマイラだろう。
マイラは獣人族でクレリックだと言っていた。
獣人族は魔法職に不向きな種族だ。普通に考えるとクレリックとしての実力はリーヴの方が上だろう。だが自分たちは不合格でマイラは合格した。
「試験内容は同じだったのですか?」
ソロのクレリックであるマイラの試験内容が同じとは思えずリーヴは質問した。
「同じといやあ、同じだな」
「相方がめっちゃ強かったのね」
受験者が二人ということは、急造パーティーを結成し試験を行い、攻撃職の人物が強かったため合格できたのだとサクヤは思った。
「いや、二人ともサシの勝負だった」
「クレリックが一対一で戦うなんて無理だろ」
回復職であるクレリックが一対一で戦うなんてありえない。まして相手は四対一でも全く歯が立たなかったホーガンだ。
「……相手もクレリック?」
自分たちがホーガンと戦ったため対戦相手はホーガンだと思い込んでいたが、オモスの言う通り相手は同じクレリックだったのではないか、そうでなければクレリックが他の天職と一対一で戦って合格などできるはずがない。
「オレではないが、クレリックでもねえ」
「じゃあ、一体誰が?」
「マイだ」
それを聞いた四人は驚きを隠せなかった。
マイといえば紹介所で逆らってはいけない人物のとしてワーカーから恐れられている副所長で、その実力はホーガンと肩を並べるといわれている。
そのような相手と戦って、クレリックであるマイラが合格できるはずがない。おそらく試験を受けたのはマイラではななく別の者だろう。
「審査が甘かったんじゃない?」
自分たちはパーティで挑んだが全く歯が立たず不合格となった。たとえマイラでなくとも一対一でまともに戦えるなど、ましてや合格できるとは思えない。
「なら、次はマイとやってみるか? だが、アイツは真面目だからな、この前も試験に集中しすぎて危うく大怪我させるところだったが」
「いえ、遠慮します」
サクヤはホーガンの提案を丁重にお断りした。
「疑ってんなら、自分たちの目で確認してきな」
「確認って、どこにいるのかも」
「そいつはマイラってんだが、今は剣闘王の館にいるぞ」
「剣闘王の館!?」
やはり合格者はマイラだった。それにそんなところにいるとは予想だにしなかった四人は素っ頓狂な声を上げた。
「なぜそんなところに?」
「師匠と一緒に、そこに住んでるそうだ。お前らも鍛えてもらえば次は合格できるかもな」
そう言いながらホーガンは「ガハハハ」と豪快に笑っていた。
そういうわけで、四人は剣闘王の館にいる。
「師匠と決ったわけじゃないでしょう!」
リーヴにしては珍しい荒げた声、リーヴも嫌な予感がしており、館の扉が地獄の入り口に見えてさえいた。
だが、現段階でそれは100%でなく予感が外れていることを祈るように自然とリーヴは声は大きくなった。
「じゃあ、いくぞ」
カイトは他のメンバーの顔を窺うと皆無言で頷いた。
「何かご用ですか?」
「!!!!」
扉に手をかけようとした瞬間、背後から声をかけられ心臓が飛び出しそうになる。
振り返ると少し汗ばんだマイラが立っていた。
「マイラ?」
「はい。あなた方は確か、栄光の箱船のカイトさんにオモスさん、サクヤさんとリーヴさん」
「ああ」
「ここにどんなご用で? 知ってると思いますが、ここはもうダンジョンじゃありませんよ」
ここはもうダンジョンじゃない、そんなことは知っている。だが……。
「ちょっと確認したいことがあってな、マイラこそここで何やってんだ?」
「私は中庭の手入れをちょっと」
「中庭の手入れ? じゃあ、やっぱり誰かここに住んでいるのか?」
「はい。ここは師匠の家ですから」
噂には聞いていたが、本当に剣闘王の館は個人の持ち物になっていたようだ。
それにしても、こんな館を購入するマイラの師匠とは余程の変わり者だろうと四人は思った。
一度ダンジョン化した建物を購入したがる者はまずいない。
ダンジョン化の間、何人ものワーカーが死んでいるうえ再びダンジョン化する可能性もある。
普通の神経の持ち主ならとても安らげないし、住もうとは思わない。そこに住もうというのだから変わり者といえるだろう。それに金持ちでもある。
ここは元々貴族の屋敷で敷地も広い。元ダンジョンで相場より相当安いだろうが、それでも一般人に買える額ではないだろう。
「もしかして、マイラさんの師匠って凄腕のワーカーですか?」
リーヴは訊いた。元ダンジョンでも気にせず、お金も持っている。その条件に合致するのは高ランクのワーカーではないかと。
ワーカーならダンジョンで寝泊まりすることもあるし、仮にまたダンジョン化しても対応できる。強いてデメリットを上げるとすれば、再びダンジョン化すれば個人の所有ではなくなるので、住むことができなくなるので勿体ないというくらいだ。
そう考えるとワーカーにとってはお買い得な物件といえなくもないが、普通のワーカーなら元ダンジョンに住もうとは思わない。
「そうです。師匠は最強のワーカーです。って、リーヴさん??」
リーヴは泣いていた。
最強のワーカーということは最低でもBランクのワーカーだろう。
もしかしたら、パーティーで所有しているのかもしれない。
だとすれば、同じクレリックにまともな教えを受けることができるかもしれない。あんな拷問のような訓練を強要されることはないと、心配は杞憂だったと嬉しくて泣いていたのだ。
「それでみなさんはどうしてここへ?」
「ホーガン所長にキミのことを聞いてね、ボクたちもキミの師匠に教えを請おうと」
「ちょっとリーヴ」
嬉しさのあまり、ハイテンションのリーヴはサクヤの制止も聞かず、ホーガンとのやり取りを語り出した。
だが、リーヴは忘れていた。
同じクレリックであるマイラはマイと一対一で戦い、その力を認められたということを。それだけ鍛えられたという事実を。
「なるほど、ワーカー試験に合格するために師匠の下で修業をしたいと」
「そう。高ランクのワーカーに教えを乞う機会なんて貴重だし」
意気揚々と語るリーヴにマイラは困惑の表情を浮かべた。
「どうしたの?」
「えっと、師匠は強いですけど、ワーカーになったばかりなのでFランクです」
「えっ?」
衝撃の事実にリーヴは固まった。
最近までワーカーではなかった強い人物、しかも剣闘王の舘に住んでいる。
その条件に合致する人物に心当たりがあった。
「まさか……」
まさに天国から地獄。
その人物を想像したリーヴの体は震えていた。
「また、ホーガンでもきたのか?」
聞き覚えのある声にリーヴは絶望の淵に叩き落される。
「「「「誰!?」」」」
四人の声が重なる。
現れたのは四人の想像した牛マスクに裸の男ではなく黒髪の服を着た男だった。
「カイトじゃないか久しぶりだな」
「もしかしてミノワさん?」
「そうだ。だが今のオレは箕輪であってミノワでない。箕輪弁慶だ」
「???」
困惑するカイトに「師匠はマスクを脱ぐとミノワタウロスから箕輪弁慶になるんですよ」とマイラは説明した。
ちなみにミノワの下で鍛練しているマイラはミノワの事を師匠と呼んでいる。
「それでどうしたんだ?」
「師匠に鍛えてほしくて来られたそうです」
「ちがっ」
否定しようとしたリーヴの声は届くことなくマイラが事情を説明した。
「わかった。一緒に鍛えるか」
快く承諾するのミノワの陰で、膝から崩れ落ちるリーヴの姿があった。
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