試験の果てに
「うう…」
「気が付いたようですね」
マイは手を差し出しマイラを優しく起こした。
「で、どうだ?」
少し真剣な表情で声をかけるホーガンにマイは眼鏡を上げ答えた。
「どうも何も、見ればお分かりかと」
「だな」
マイの言葉に頷いたホーガンは「ゴホン」と咳払いをすると、結果を告げるべく口を開いた。
「二人とも合格だ」
ホーガンの口から発せられた合格の言葉。ミノワとマイラはワーカー試験に合格した。
「私もですか?」
攻撃は躱され、やられただけの自分が合格したとはとても信じられなかった。
「貴女の実力なら問題なく合格です。登録証を発行しますので、後日コンニチワークにお越しください」
マイの言葉に合格したのだと、ジワジワと実感が湧いた。
「ユニオン戦のことも考えて厳しめにしたんだがな、これだけ強けりゃ大丈夫だろう」
魔蛇とケリをつけるためにはユニオンを結成し、ユニオン戦に臨む必要がある。大規模ユニオンではないが、魔蛇にもそれなりの力を持つワーカーもいる。
そんなワーカーが相手となると、普通の合格ラインでは話にならない。そこでホーガンとマイは、魔蛇と戦えるだけの実力が二人にあるのかを自身の目で確かめにきたのだ。
そこで魔蛇とやり合うだけの実力がないと判断されれば不合格だったのだ。
「僅かだがコイツが殺気なんて、ワーカーだった頃以来じゃないか」
マイラが恐怖したのは、マイの放つ僅かな殺気を本能が感じ取ったからだった。
だが今は別のことが気になった。
「マイさんもワーカーだったのですか?」
紹介所の職員はワーカー出身者もいると聞くが、マイもそうだとは思わなかった。見た目からしてまだ引退するような年齢だとは思えない。怪我をして引退? あの強さからしてそれはないだろう。
驚くマイラを見て「ガハハ」と愉快そうに笑いながらホーガンが答えた。
「かれこれ、にじゅウグッ!」
ホーガンが言葉を発した瞬間、マイの肘が鳩尾に突き刺さった。
「何か聞こえましたか?」
「い、いえ」
引退する年齢だとは思えないが、眼鏡の奥から覗く鋭い目にマイラは何も訊けなかった。
「ゴホン、マヤは元Bランクのワーカーだ」
「Bランク! すごい」
冒険者のランクはSからFまであるが、Sランクは数十年に一人現れるかどうかという勇者と呼ばれるような後世まで語り継がれる存在で、今現在実在しているワーカーの最高ランクはAランクだ。
そのAランクも数えるほどしかおらず、その強さは現実離れしていると言われる生ける伝説だ。
そんな特殊なSランクとAランクを除けば、現実的な最強はBランクだといえるだろう。
「先ほどの動きはスキルですか?」
「いいえ。あれはただの体術です」
自身の実力不足を痛感したマイラは「スキルでないなら努力すればと」更なる精進を心に誓った。
「いいギフトですね」
「はい」
ブラッディ・クーガー。ミノワが名前を付けてくれたマイラのギフト。
クレリックの自分には不要な能力だと、嫌いだった。
なぜ、こんなギフトなのかと神を恨んだこともある。
だが違った。その考えは間違っていた。
天職など関係なかった。
自分は自分だ。
天職に拘らず自分の能力を活かせばよかった。
ただそれだけだった。
それをミノワは教えてくれた。ブラッディ・クーガーを活かすため鍛錬をつけてくれた。
今、マイラはこのギフトでよかったと心から思える。
「それに、荒削りですが、なかなかの動きでしたよ」
ここに越してきてから、毎日ミノワとトレーニングを行い指導を受けた。
厳しいトレーニングで肉体を強化し、戦い方を教わった。
蹴りや貫手もミノワから教わったものだ。
ミノワは様々な格闘技を経験しており、最初に学んだ格闘技が空手だった。それでマイラに教えることができたのだ。とはいえ、たかが数日、まだまだ未熟であり、荒削りなのは否めない。
格上とはいえ、何もできずやられてしまったことに悔しくもあったが、そんな相手に認められて嬉しかった。
「マイさんのように強くなれるよう頑張ります」
「期待してるわ」
嬉しさと悔しさが入り交じったマイラの声にマイは優しく微笑んだ。
「それにしても凄い体ですね」
二人の体を見たマイが率直な感想を述べた。
ミノワもホーガンも全身痣だらけで痛々しい姿だったが、二人とも満足気な顔をしていた。
「こっちもいい勝負だったぜ、なあ」
「ああ、気持ちのいい、戦いだった」
互いを認め合ったのか、二人は意気投合していた。
お互い本気ではなかったとはいえ、似たもの同士の二人は、駆け引きも何もない真正面からぶつかり合う戦いが、本当に楽しかったのだろう。
マイの殺気に気付いたホーガンが叫んだため終了となったが、状況を考えれば仕方のないことだ。
ホーガンとは違い、ミノワは殺気に気付けなかった。
ホーガンも戦いにのめり込んでいたように見えたが、マイたちの戦いにも気を配っていたのだ。そうでなければ、あんな僅かな、自分に向けられたものでもない殺気に気付くわけがない。
そういった意味でこの戦いはミノワの負け、完敗だった。
ミノワもそれはわかっていた。悔しくないと言えば嘘になるが、今まで出会ったことのない強者に出会い嬉しいのも事実だ。
この世界の目標ができた。ホーガンに勝つ。ミノワは更に鍛えて再戦しようと心に誓った。
それにしても、マナの濃度はわからないが僅かな殺気には気付くホーガンは鈍いのか鋭いのかよくわからない男だ。
「次はメンバー集めだな」
「確か七人必要だったか?」
ユニオン結成には拠点の登録と七人以上のメンバーがいることが条件となる。
ユニオンは単独で依頼を受けることができるため拠点は必須であり、メンバー数に関しては個人での結成を認めてしまうと、ユニオンが乱立しかねないので最低でもフルパーティーと呼ばれる七人以上と規定されている。
「あと六人か」
「お前ほどの力があれば、時間かからんさ」
ミノワほどの力があれば、ワーカーの間で噂になるだろう。そんなミノワのユニオンだ、将来有望なユニオンだと注目が集まるに違いない。その結果、メンバーも集まる。多少時間はかかるかもしれないが、ミノワの実力からして、そう長くはかからないだろうとホーガンは見込んでいた。
「四人ほどアテがあるのだが」
腕組みをし考え事をしていたミノワはそう切り出した。
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