試験
「さあ、楽しもうぜ」
「ああ」
上着を脱ぎ捨て突進するホーガン。ミノワも同じようにマントを脱ぎ捨て突進する。
互いの体が激しくぶつかり、その衝撃に、互いに弾かれるも再度ぶつかり合う。
何度もそれを繰り返す二人の表情は、戦いを楽しんでいるようだった。
「暑苦しいですね」
二人を見ていたマイは呆れたようにそう言うと、マイラに視線を向ける。
「私たちも始めましょうか」
「はい」
自然体のマイとは対照的に、緊張した面持ちで構えるマイラ。
張り詰めた空気にマイラの頬から一筋の汗が流れ落ちる。
「参ります」
「えっ!?」
先に動いたのはマイだった。
瞬時にしてマイはマイラの視界から消える。
「ここです」
「!!!」
背後からの手刀を横に跳び間一髪躱す。
「あれを躱しますか」
距離をとったはずなのに、マイの声はすぐ近くから聞こえてきた。
「!!」
視線を下げると、そこにはマイの姿があった。肘を突き立て、低い姿勢で懐に飛び込んできたマイの姿が。
「ぐっ!」
肘が腹部に突き刺さり、そのまま後方へ飛ばされるマイラ。たまらず片膝をつくも、すぐに顔を上げる。
「えっ!?」
しかし、そこにマイの姿はなかった。
「ここです」
今度は上だ。
獲物を狩る鷹のように、両手を広げ膝から急降下してくるマイの攻撃を、転がりなんとか躱す。
「はぁ、はぁ……」
息つく暇もない連続攻撃にマイラの息が上がる。
「なかなかの反射神経です。急所もずらして、お見事です」
攻撃が当たる寸前、咄嗟に体を捻り、急所に当たるのを回避した。もし急所に入っていたら上空からの攻撃に対応できずに終わっていただろう。
「しかし、思っていたほどではありませんね。その身体能力、クレリックじゃなければもっと活かせたでしょうに」
(勝てない。やはり自分は駄目なのだ。誰からも相手にされないクレリックの自分は)
実力の差を実感したマイラの心は折れ、勝負を諦めてしまった。
「残念です。ミノワさんが強いと仰っていたので期待していたのですが、これじゃあミノワさんの実力も期待できませんね」
戦意を失ったマイラを見下ろし、眼鏡を上げながら残念そうに言った。
「……んなことありません」
「なんですか?」
「そんなことありません!」
マイラは声を上げ立ち上がる。
「クレリックじゃなければ」そんなこと他人に言われなくてもわかっている。身体能力が活かせる天職だったらと何度思ったことか。だがそれはどうすることもできない。
自分がクレリックとして役に立たないと、自分が一番わかっている。
そして戦闘ではマイに遠く及ばないことも理解している。
だが、マイの言葉を聞いて諦めるわけにはいかなくなった。
ミノワが強いと言ってくれたのだ。ミノワが認めてくれた。それを裏切ることはできないし、自分のせいでミノワの評価を下げるのは自分で自分を許せない。それに……。
「ミノワさんは王者です!」
マイラは力強く叫んだ。
「ふふふ、まだそんな目ができるのですね」
戦意を取り戻したマイラの姿に、マイは満足そうに頷いた。
「それは?」
マイラが手にしているものを見てマイは訊ねた。
「ブラディ・クーガ。私のギフトです」
そう言ってマスクを被ると、マイラの服が深紅のボディースーツに変化した。
「ギフト持ちとは驚きました。その格好は刺激的ですが、はたし!」
マイラは一気に距離を詰めるとマイの頭部へ回し蹴りを放つ。
マイは腕を交差しガードするのと同時に、自らも後方へ跳び威力を殺す。
「それでもこの威力ですか」
痺れる腕にマイは驚きを隠せなかった。
「!」
マイラが地面を一蹴りするとその距離が一瞬で縮まる。
「なんて脚をしているのですか」
半ば呆れたように吐き捨てるマイの喉元をマイラの貫手が襲う。
ミノワと違いマイラがこの姿でいられる時間は短い。マイラが勝つには速攻しかない。
マイが本気でなくても、出し惜しみはしないしする余裕もない。
まともに戦えば、時間など関係なしに自分は負けるだろう。それくらいの実力差があることはわかっている。だが、今のマイには油断があった。
マイラに勝機があるとすればこのチャンスを活かすしかないのだ。
「チッ」
マイは体を反らせ貫手を躱すと、そのまま後方へ宙返りをしながらマイラの顎先を狙い蹴り上げるも、今度はマイラが体を反らせ躱す。
「反射神経も化物ですね。先程までとは段違い……!」
地面にポタリと流れ落ちた赤い液体。
それはマイラの頬から流れていた。
「な、」
躱されたかに思えたマイラの攻撃、しかし、マイラの指先はマイの頬を掠めていた。
「甘く見すぎたようですね」
そう言いながらマイは眼鏡を外す。
その目を見てマイラの背筋は凍り、尻尾の毛が逆立つ。
恐怖、それは恐怖という感情だった。
本能が危険と警笛を鳴らす。
「うぐっ」
突然、腹部に衝撃が走り体がくの字に曲がる。
それは、マイの攻撃だった。
マイの肘がマイラの腹部を捉えたのだ。
先ほどまでとは比べものにならない速さに、威力を逸らすどころか何が起こったかさえ理解できない。
そんなマイラは衝撃に逆らうことなく後方へ飛ばされる。はずだった。
が、マイはそれを許さなかった。
マイラが飛ばされるよりも早く、降り降ろされた踵がマイラの後頭部を捉え、マイラの顔面を地面に叩きつけた。
「お返しです」
無防備の首根を貫手が襲う。
「ストッープ!」
「!!!」
ホーガンの大声にマイの動きが止まる。
まさに間一髪、マイの指先はマイラに触れるすんでの所で止まっていた。
ホーガンが止めなければ、マイラは大怪我をしていただろう。
「お前が熱くなってどうすんだ」
いつもは諫められる側のホーガンが今回はマイを嗜めた。
「すみません。久し振りに歯応えのある相手だったもので、つい熱く」
眼鏡をかけ姿勢を正すと雰囲気が和ぎ、いつものマイに戻った。
「楽しみすぎだ」
「あら、所長も楽しまれてたのでは?」
思わず皮肉交じりに返してしまったマイの言葉を「ちげえね」と豪快に笑い肯定するホーガンの姿にマイの表情も緩んだ。
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