目的
「こりゃ驚いた」
「信じられません」
マナミに驚くホーガンとマイ。
人の言葉を解す知性のあるスケルトン、そんなものを見れば驚くのは当然だ。
「その服はお前の趣味か?」
マナミの着ているメイド服を見てホーガンが言った。
「マナミはこの館のメイドだ。メイド服を着ていて当然だろ。スケルトンなだけに冥途服なんてな」
「……」
皆は館の気温が下がるのを感じた。
「まあなんだ、それはいいとして、あのちっこい子もか?」
ホーガンはマナミの後ろに隠れている同じ格好をしたアズサを見て言った。
「アズサは――」
アズサの着ているメイド服は、マナミが直したものだ。ボロボロの服を着ていたアズサを見て、マナミが館にあるメイド服をアズサの体に合わせ直したのだ。
マイラが説明すると「信じられません」とマイは驚いていた。
「それでマナミさんをどうするつもりですか」
意を決しマイラは訊いた。返答次第では戦闘になるだろう、マイラの頬に一筋の汗が流れる。
「どうもしませんよ」
「えっ?」
その答は逆にマイラを戸惑わせた。
ダンジョンの調査で未確認の魔物を放置するなど、二人が何を考えているのか訳が分からなかった。
「危険はないのでしょう?」
マイラの考えを察したマイが声をかける。
「最初からわかっていたのですよ。私のギフト『真実の眼鏡』で」
そう言ってマイは眼鏡を上げた。
マイの眼鏡はギフトであり、その能力は嘘を見抜くことができるというものだ。
紹介所でマイラと話した際、魔物がいないというのは嘘だとわかっていた。だが、危険なものはないとの答えは真実だったため、マイが出した結論は、魔物はいるが危険はないというものだった。まさか人と意思疎通ができる魔物とは思わなかったが、マナミを見て危険はないと確信した。
「ただ、真実の眼鏡も完璧じゃありませんから、一応確認をと」
真実の眼鏡は嘘を見抜くことができるが完璧ではない。
本人が嘘と認識してない場合はそれは真実と映る。
つまり、危険がないとの答えは、マイラにだけ危険がないという可能性もあったのだ。
「このようになった原因をお聞かせできれば嬉しいのですが」
「ああ、それはだな」
マイの質問にミノワはアンドレとのことを話し始めた。
「にわかには信じられんが、この状況を見ればな」
「原因はわかりませんが、危険はないかと」
マナミにチラッと視線を向けマイは言った。
「そうだな、危険がないなら放置でいいだろう。もう試験には使えんがな」
「ですね」
ホーガンの言葉にマイも了承しマイラは胸をなでおろした。
「じゃあ、本題だ」
ホーガンの表情が穏やかなものから真剣なものに変わる。
「魔蛇は覚えているよな」
『魔蛇』という言葉を聞きミノワの表情も変わった。
魔蛇とはマイラを襲ったイーたちが所属していた悪い噂の絶えないユニオンだ。
「あの時、方法がないこともないといったろ」
「どんな方法だ」
詰め寄るミノワにホーガンは落ち着くよう諭すと言葉を続けた。
「ユニオン戦だ」
「ユニオン戦?」
「文字通りユニオン同士の戦いだ」
ユニオン同士が揉めた時の解決方法、それがユニオン戦だ。決戦方法はユニオンの代表者同士の協議により決まるが、必ずしも受ける必要はない。つまり主導権は受ける側が持つことになり、受ける側の希望が通りやすくなる。今回ミノワの方から申し込むとなると、主導権を持つ魔蛇が有利となるのは言うまでもないだろう。
だが、ミノワには迷いはなかった。
「さっそくユニオン戦を申し込もう」
すぐにでも魔蛇の拠点に向かわんとばかりの勢いで答えた。
「そう慌てるな」
急かすミノワをホーガンが落ち着かせる。
「ユニオン戦をやるにはユニオンを結成しなきゃならん」
「ユニオン結成にはユニオンの拠点と6名以上のワーカーが必要です」
「どういうことだ?」
「今のお前じゃ無理ってこった」
「じゃあ、どうするんだ!」
騙されたと言わんばかりに、ホーガンに掴みかかろうとするミノワにマイが一枚の書類を見せた。
「これを覚えていますか」
その書類にはミノワのサインが書かれていた。
「これは、あの時の受領証か?」
そう、この書類は、紹介所で賞金を受け取ったときに受領証と言われサインした書類だ。
「いいえ、これはワーカー登録の申請書です」
「なんだと!」
「見ての通り、貴方はワーカー登録の申請をされています」
「オレはプロレスラーだ。ワーカーになる気なんか」
「これは貴方のサインですよね?」
「うぬぬ」
ミノワが受領証と思ってサインしたのはワーカー登録の申請書だった。
つまりミノワは騙されたのだ。
何のために?
答えは簡単だ。ミノワをワーカーにして魔蛇とユニオン戦を行わせるためだ。紹介所も魔蛇のことは危惧しており、どうにかしたいと思っていた矢先、ミノワが現れたのだ。
書類を突きつけ微笑むマイ。その笑顔を見れば、すべてマイが仕組んだことは明白だった。
「そう怒るな。ワーカーになれば魔蛇とやれる」
「それはそうだが」
いまいち納得ができないミノワだったが、方法はそれしかなかった。
「じゃあ、ここに来た目的って……でも」
二人がここに来たのは、ミノワにワーカー試験を受けさせるためだとマイラは気付いた。それに、ホーガンとマイが直接出向いたのは表向きとはいえ、異常のあるダンジョンの調査が危険だと判断したのだろう。
「そうだ、申請書が出されたからには試験をしなきゃならんからな」
「でも、剣闘王の館はもう」
今の剣闘王の館はボスもおらず試験としての体をなしていない。それはさっきホーガン自身が言ったことだ。
マイラが紹介所に行こうと思っていたのも、まさにその件だった。
剣闘王の館を攻略していないマイラはまだワーカーではない。ワーカーになるための新たな試験、その確認だった。
「ああ、だからオレたちがきた」
上着のボタンを外しながらホーガンは続ける。
「お前たちにワーカーたる実力があるか確かめるためにな」
ミノワの実力を確かめる、つまりホーガンと戦い実力を認めさせることが試験の内容なのだ。それを理解したミノワは前に進みホーガンに近づいていく。
「なるほどな。だがここでは駄目だ。家を汚せばマナミに叱られる」
「そりゃ大変だ。じゃあ外に行くか」
そう言うと二人は玄関のドアに向かい歩き出す。その足取りはピクニックにでも行くかのように少し楽しげだった。
「私たちも行きましょうか」
ホーガンは「お前たち」と言った。つまりマイラも試験の対象なのだ。
微笑むマイに誘われてマイラもミノワたちに続いた。
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