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ミノタウロスじゃありません!  作者: name


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18/32

来訪者

 買ってきて貰った服を破いてしまいミノワは謝った。

 勿体なくはないが、そこまで高い服でもない。そもそも、ミノワのお金で買ったものだ。

 自分はた、だ買いに行っただけで、報酬も貰っている。謝られる道理がないマイラは「私に謝る必要はないですよ」と恐縮したが、「あんな危険な目にあってまで買ってきた服を」と何度も頭を下げた。

 

 ミノワのギフトについて判明したことがあった。

 それは、マントは大丈夫ということ。マスクを脱着しても、マントは破れたり消えたりしなかった。

 ミノワがアンドレと戦った時の話を聞いたマイラは、マントなら大丈夫なのではないかと考え、買っておいたのだ。

 マスクを被ってもマントは現れないということは、アンドレにあげたというマントは、ギフトによって現れる装備ではないということだ。そもそもギフトなら他人にあげられるはずがない。

 マイラの考えは正しかった。

 マントを纏ったままマスクを被っても、マントはそのままにミノワタウロスになることができたのだ。

 逆にマスクを外した時も同じで、マントは残ったまま中のコスチュームは消えたのだった。

 しかし、素直に喜ぶことはできなかった。


 マントの下は全裸なんて本物の変態だ。


 ただ、マントを纏ったまま服を着ることは可能なので、使い道があるのは救いだった。

 

 マイラたちがここに住み始めてから数日が経った。

 マナミの手もすっかり治り、最初はマイラにくっついて離れなかったアズサも、今では自分から、ミノワたちに話しかけるようになった。

 特にマナミとは親しくなり『先生』と呼び慕っている。

 なぜ先生か? アズサはマナミに文字を教わっているからだ。

 アズサは字が読めないし書けない。目の見えないアズサにとって文字は必要なかった。

 一方、マナミは喋ることができず会話の手段は筆談である。

 一方通行、アズサの声はマナミに届くがマナミの声は届かない。

 アズサは目が見えないせいか、感覚は鋭い。マナミの寂し気な気配を感じ取ったアズサは文字を教えてほしいと自ら頼み込んだ。

 そういう訳で、マナミは手の空いた時間にアズサに文字を教えている。目の見えないアズサの小さな掌に文字を書きながら。

 もともと世話好きのマナミはアズサの部屋に通うことが嬉しく、アズサも文字を覚えるのが楽しくてマナミがくるのを、首を長くして待っているそうだ。

 アズサは覚えがいいらしく、次々と文字を覚えるアズサのことを誇らしげに話すマナミは、先生というより親バカな母親のようであった。

 そんな二人を見て、これなら自分が家を空けても大丈夫だと確信したマイラは、一度紹介所(ワーク)へ向かおうと決めた。

 ここがワーカー試験の体をなさない以上、ワーカーになるための新たな試験を紹介所で受ける必要があったからだ。

 住むところは提供してもらっているが、収入はない。これからずっと世話になりっぱなしというわけにもいかない。働いて、せめて食費くらいは入れないと申し訳が立たない。

 そう思っていた矢先、剣闘王の館に訪問者が訪れた。

 

「本当にここにいるのか?」

「はい。間違いなく」

 ムキムキの男と眼鏡をかけた黒髪の女性、二人は会話をしながら中に入る。


「ホ、ホーガン所長!?」

 やってきたのはホーガンとマイ、マイラが向かおうと思っていたコンニチワークの所長と副所長だ。


「おう、確かマイラとか言ったか?」

「はい」

「お久しぶりですねマイラさん。体はもう大丈夫ですか?」

「大丈夫ですマイ副所長。お二人はどうしてここに?」

 二人がここにきた理由をマイラは訊ねた。


「ダンジョンの調査です」

 マイラは失念していた。ダンジョンかが解消したらここにやってくる者はいないと思っていた。

 だが、そうではない。

 事実確認の調査を行うのは当然のことだ。


「そう構えるな、調査は表向きだ」

「所長!」

 マイに叱られ「悪い、悪い」と謝っているが、その表情はとても反省しているとは思えなかった。


「それにしても本当にダンジョンか? ダンジョンといえばもっとこう……」

 ダンジョンといえば、禍々しいマナが漂い魔物が徘徊する、暗く薄汚れたような場所だ。

 しかし、ここは魔物もおらず、禍々しさを感じない。それどころか清潔感さえ漂っている。

 理由は簡単だ。魔物や受験者がいなくなり、荒らされることがなくなったうえ、マナミが毎日掃除しているため、古くはあるが汚らしさは感じないのだ。


「確かにダンジョン化は解消していないのに魔物が見当たりませんね。それにこのマナ、ダンジョン特有の禍々しさを感じません」

「こんな薄いマナをよく感じられるな。全然わからんぞ」

 感心するホーガン。

 ホーガンが感じた違和感はマナ云々ではなく、ダンジョンにしては奇麗といったレベルだ。


「所長が鈍感すぎるんです!」

 マイはああ言ったが、ホーガンの反応が一般的な反応だろう。

 ダンジョンでなくとも周囲よりマナの濃い場所は存在する。

 ダンジョンとは違う清々しいマナが濃い場所は、パワーを貰えると評判で、巷ではパワースポットとして観光名所となっている。

 ただし、実際にそれを感じ取れる者は皆無だ。要はプラシーボ効果というやつだ。

 剣闘王の館はレベル0のダンジョンだ。マナ濃度はそれと大して変わらない。

 ダンジョンのマナは禍々しく、わかりやすいのかもしれないが、マイラにはわからなかった。


「オレだってレベル6以上のダンジョンならわかるぞ」

 さも得意気にホーガンは言う。

「耐性がなきゃ卒倒するレベルです! それが原因で今の制度ができたのでしょう」

「そうだったな」と大声で笑うホーガンを見ながら、マイは呆れ顔で「この筋肉バカ」と呟いていた。


 ホーガンも元ワーカーだ。

 当時ワーカーにランクはなく高難度の仕事も受注することができたが、達成できなかった時のペナルティーは今より大きかったため仕事選びには慎重だった。

 ワーカーになるのも、今のように決った試験などなく、紹介所にある仕事をどれでもいいので達成すればワーカーになれた。しかし正式なワーカーではないので報酬はなかった。

 報酬も出ないため、誰しも確実に達成できる簡単な仕事を受注する中、ホーガンが選んだのは紹介所にあった仕事の中で一番危険な仕事だった。

 ペナルティー以前に命がないと、紹介所の職員は止めたが、それでもホーガンはその仕事を受注し、見事達成したのだ。しかもソロでだ。

 その仕事で行ったダンジョンのレベルは5、現在はCランク以上でなければ行くことはできないダンジョンだ。

 そんなホーガンの名は瞬く間に国中に広がり、ホーガンは名声を得る。

 その後、ホーガンに触発され、高レベルのダンジョンに挑むワーカーが急増し、結果、挑んだワーカーはマナ酔いし実力が出せず、殆どが帰らぬ人となった。

 まあ、マナ酔いせずともレベル5のダンジョンの魔物は強く、結果は同じだっただろう。

 事態を受け、紹介所はワーカーにランクを設け、ランクにあった仕事しかできなくした。

 それが今のワーカーランクだ。


「で、ミノワタウロスはここにいるのか?」

「ガハハハ」と大笑いしていたホーガンは真面目な顔をしてそう訊いてきた。

「!」

 調査は表向きだとホーガンは言った。だとすれば本当の目的はミノワなのか?

 しかし、なぜミノワを?

 理由がわからない以上、安易に答えるわけにはいかないとマイラは警戒し沈黙した。


「何やら賑やかだが、事情を知らないワーカーでもきたのか?」

 ホーガンの大きな声が聞こえ、事情を知らないワーカーがきたのかと、戦闘装束であるミノワタウロスのマスクを被ってミノワがやってきた。


「ミノワタウロス、やっぱりここにいたのか」

 まるで友人にでも会ったかのように、気さくに声をかけるホーガンにミノワも「久しぶりだな」と言葉を返す。


「で、何をしにきたんだ?」

「ダンジョンの調査です」

 目的のミノワが現れたというのに未だダンジョンの調査と答えるマイに、迂闊に話せない内容ではと勘繰ったマイラは更に警戒を強めた。


「表向きはな」

「まったく……」

 先ほどマイに叱られたにもかかわらず、懲りずにあっさりとバラすホーガンに溜息を吐いた。

「いいじゃねえか」

 豪快に笑い飛ばすホーガンに呆れるマイの姿を見て、マイラは警戒していたのが馬鹿らしく感じた。


「表向き? では本当の目的はなんだ?」

「それはな――」

「所長!」

 これまたあっさり答えようとするホーガンをマイは制した。

「すまねえな。まずは表向きの要件を済まさせてもらう」

 ホーガンがそう言うと、マイがスッと前に出る。


「ここには魔物がいますね」 

「!」

 マイは確信していた。つまりマイラの噓は見抜かれていたのだ。

 そんな相手に白を切り通すのは不可能だろうが、やらなければならない。もしもマナミのことが知られれば最悪の場合、マナミは討伐される。

 そんなことはさせない。自分の命を懸けてでも。

 ギルドの2トップ、とても自分が敵う相手ではないが、命を救ってもらったマナミを今度は自分が守らなくてはと覚悟を決めた。


「ああ、マナミのことか。マナミお前に客だ」

「ミノワさん!」

 その覚悟をあっさりと壊され、力が抜ける。

「「デジャヴ」」ミノワとホーガンの姿が重なり、マイとマイラの声も重なった。


お読みいただきありがとうございます。

次話もご一読いただければ幸いです。

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