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ミノタウロスじゃありません!  作者: name


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17/32

「ただいま」

 ミノワたちが館に着くと、すぐにマナミが出迎えた。マナミはマイラの姿に安心し胸をなで下ろす。


「マナミさんその手」

 マナミの手は手首から先がなかった。

 聖属性はアンデッドとは対局に位置し、本来アンデッドが聖魔法を使うなんてありえない。にもかかわらずマナミはヒールを使った。ヒールを使いマイラの怪我を治療した。だが、代償があったのだ。

 ヒールを使い続けたマナミは指先から徐々に消滅し、治療が終わる頃には手首から先が消滅していた。


「ごめんなさい、私のせいで……」

 謝るマイラに両手を振り気にしなくて良いとアピールするマナミ。

「マナミなら大丈夫だ」

「でも」

「そのうち治る。だろ」

 そう言ってマナミを見ると、マナミはコクコクと頷いた。


 魔物の傷は時間が経てば回復する。いや、回復というより復元といった方が近いだろう。傷の程度で時間は異なるが、傷跡一つ残ることなく復元する。ミノワはそのことをマナミから聞いていた。


「残念だが、手料理はお預けだな」

 その言葉にシュンとするマナミ。

 マナミは料理を作るのが好きだ。自分の作った料理を食べてもらうのが大好きだ。とても美味しそうに食べるミノワの姿はアンドレを思い出させた。


「アズサ?」

 マイラの後ろ隠れているアズサに気付いたマナミがアズサへ視線を向けると、視線を感知したアズサはマイラの裾を掴み不安気な表情をしていた。


「大丈夫よ。マナミさんはここに住んでる女性でお姉ちゃんの命の恩人なの」

「命の恩人?」

「そうよ」

「ありがとうアズサお姉ちゃん」

 マイラの言葉はアズサを安心させ、大切な姉を救ってくれたマナミにお礼を言った。


「マナミよ、二人をここに住まわせようと思うのだが」

 ダンジョンは魔物の住処である。

 ならばこの館本来の住人はマナミだといえる。ミノワはここに居座っているただの居候にすぎない。

 そのマナミの許可を得ることなくミノワは二人を誘った。当然ながらマナミが拒否すれば諦めるしかない。

 マイラは無言のままマナミの返事を待つ。

「!」

 マナミは両手で丸を作った。つまりオッケーということだ。

 マイラの緊張が解け笑顔でアズサと抱き合っている。

 こうなるだろうとミノワには確信があった。ミノワがここに居座ることを拒絶するどころか世話までやいてくれたマナミが、マイラたちを拒絶することなどないと。


「さっそく部屋を決めよう。二人一緒の方がいいだろう」

「はい」

 アズサの体の事を考えれば一緒の部屋が安心できるし、「一人部屋なんて贅沢過ぎます」と恐縮するマイラに「ならば広い部屋がいいな」と笑いながらマナミと相談するミノワ。マイラは「狭くてもいいです」と伝えるも「遠慮するな」と聞き入れられなかった。


 マイラたちが案内されたその部屋は、探索した時は入れなかった部屋だ。

 この館には封印され入れない部屋がいくつかあったがそのうちの一つだ。

 室内はマナミが掃除をしているのに加え、ワーカーに荒らされていないこともあり、他の部屋に比べ綺麗で、調度品は古いが逆に味わいがある。

 さすがは貴族の屋敷なだけあって品質もよく、今でも十分実用に堪える。


「ふわふわ」

 マイラがくることを予想していたのか、太陽の光を浴びた羽毛布団に残る太陽の香りを楽しむように顔をうずめるアズサを、太陽のような笑顔でマイラは見つめた。


「サイズは問題ないようだな」

 ベッドに広げた一着の服を手に取り、広げながら満足げに頷く。

 昨日のゴタゴタですっかり忘れていた服の件を今朝になって思い出したのだ。

 服自体は庶民が着る一般的な服だが、ミノワの体形を考慮し、どれも袖のないものだった。

 確かに、肩や腕が太いミノワは袖があると窮屈になるし、下手をすれば動いた時に破れることもある。そう言った意味でもマイラのチョイスは正解だった。

 今、ミノワはマスクを外している、つまり今のミノワはミノワタウロスではなく箕輪弁慶だ。更に付け加えれば全裸である。

 さすがのミノワも寝る時はマスクを外す。

 まずは下着を身に着けると、数着ある中から適当に選ぶ。センスの善し悪しなどミノワにはわからないのだ。

「うむ」

 腕が動かしやすいのは勿論だが、紐のついた胸元もゆったりしていて動きやすく、その着心地に満足すると、朝食をとるため食堂へ向かった。

 マスクを被っている時とは違い、直接肌に感じる空気や窓から差し込む日差しの温もりに懐かしさと心地よさを感じた。


 食堂にはもう皆が集まっていた。目の前に並べられた朝食に手を付けずテーブルに座っているマイラとアズサ。

 食事は館にいる者全員で食べようとミノワが提案した。

 

「ミノワさんってそんなお顔していたのですね」

 ミノワの素顔を見てマイラが言った。

 黒髪に黒い瞳。マスクをしていたときと同じ目や口のはずだが、マスク外すと柔らかい印象を受ける。 

「がっかりしたか?」

「い、いえ。カッコイイです」

 自分を不細工とは思ってないが格好良いとも思ってはいないミノワは、マイラの言葉をお世辞と受け取った。


「今のオレはミノワタウロスではなく、ただの箕輪弁慶だ」

 誰だって24時間仕事モードではいられない。社会人はオンオフの切り替えが大切だ。

 マスクを外したオフのミノワはプロレスラーではなく、ただの箕輪弁慶なのだ。


「ミノワベンケイ?」

「それがオレの本名だ。姓は箕輪、名は弁慶。人呼んでミノタウロスの中の人なんてな」

「姓? 名? ミノワがファミリーネームなのですか!?」

「ファミリーネーム? ああ名字のことか。そうだ箕輪がファミリーネームだ」

「えー! ミノワさんって貴族だったのですか!?」

「お兄ちゃん貴族様なの?」

「違う! 何故そうなる!?」

 名前を言っただけで、こんな騒ぎになるとは思ってもみなかったミノワは理由を訊いた。


「だってファミリーネームなんて王族や貴族しか持っていませんよ」

「普通だ、オレの国では皆持ってる」

 そう言いながらミノワは思い出した。日本も昔は一部の階級の者しか苗字を名乗れなかったことを。それと同じことなのだろう。

「オレの国って? ミノワさんは外のから来たのですか?」

「外?」

「海の向こうからってことです」

「そうと言えば、そう言えなくもないが」

 海の向こうどころか別の世界からやって来たのだが、そんな荒唐無稽な話を信じてもらえるとは思えず曖昧に答えた。


「えっと、ミノワさんの国では、全裸も普通なんですか?」

「なんでやねん!」

 思わずツッコミを入れる、しかも関西弁だ。やはりツッコミといえばこれだろう。


「すみません。ミノワさんがギフトを外すと、ぜ、全裸だと聞いたので、てっきり」

『裸族の国日本』マルコ・ポーロもびっくりだ。


「オレの国では、魔法やギフトはなくてな」

 ミノワは母国について語り始めた。

 隣国も含め、魔法スキルやギフトは常識として知られているが、外にはそうじゃない国もあるのだろうとマイラは思った。


「天職やギフトは神からの贈り物ってトーコン教でも教えてますし、誰でも知っていることです」

「トーコン教?」

 トーコン教は大陸において一番影響力を持つ宗教で、大陸のほとんどの者が信仰している。そんなトーコン教をミノワは知らない。それはトーコン教が外まで広がっていないことを意味する。それは危険なことだった。

「トーコン教について簡単に説明しますね」

 トーコン教を知らないなどと言えば、異端者扱いされかねないとマイラは簡単に説明した。


「魔法やギフトはない」ミノワは言葉通り存在しないとの意味だったのだが、マイラは、魔法やギフトの存在が知られてない国なのだと受け取っていた。


「それよりもこの服はどうだ?」

「似合ってますよ」

「そうか。これもマイラのおかげだな」

「そんな」

 ミノワの着ている服はマイラが命懸けで買ってきた服だ。

 あの出血にもかかわらず汚れていなかったその服は、まさに奇跡の服であり神の加護でもついているとさえ思えた。


「これでマスクを被れば」

 !!!!!!!!

「えっ!?」

 マスクを被ると瞬時にミノワタウロスの姿になる。

 それは想定通りだ。

 だが一つ想定外のことが起きた。

 それは何か?

 服が、マイラの変身とは違い、箕輪がミノワタウロスになった瞬間、着ていた服が破けたのだ。

 世紀末でもないのに、どこぞの救世主のようにパンと弾けるような音を立て、瞬く間に服が破け散ったのだ。神の加護でもついてるかと思った服が一瞬で……。


「これってマスクを脱ぐとどうなるんだ?」

 嫌な結果を予想しつつもミノワはマイラに訊ねた。

「たぶん、以前と同じ格好に……」


 予想通りの答えに肩を落とすミノワだった。


お読みいただきありがとうございます。

次話もご一読いただければ幸いです。

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