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ミノタウロスじゃありません!  作者: name


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姉妹

「旨いもんでも食って帰るか」

「はい」

 マイラに必要なのは栄養だと考えたミノワは紹介所(ワーク)を出ようとしたが、突然頭を抱え込んだ。

「ミノワさん?」

「無一文だった……」

「そういえば、私も」

 着替えたマイラは急いでいたこともあり、金の入った袋を持ってきていなかった。


「大丈夫ですよ。賞金が出ますから」

「賞金?」

 リー、リャン、サンは紹介所より賞金首に指定されたため、捕らえたミノワに賞金が出るとのことだった。

「本当か?」

「はい。準備してありますので、こちらのカウンターで手続きをお願いします」

 マイに促されてカウンターに向かうと、言葉通りジーナが手続きの準備をして待っていた。


「この書類にサインを」

 数枚の書類を渡すジーナの笑顔は何故か引きつっていたが、ミノワは気にすることなく、その書類にサインをして賞金を受け取った。


「勘違いで迷惑をかけた」

 最後にホーガンたちに謝罪をしてミノワたちは紹介所を後にした。


 余談だが、ミノワたちと入れ替わるように、変質者がうろついていると通報を受けた衛兵が紹介所にやってきたのだった。


「どこかいい店知ってるか?」

 どこに何があるか知らないミノワはマイラに訊ねた。

「近くに屋台があるからそこで適当に買ってきます」

 紹介所を出るときマイに「そんな格好で街をうろうろしていたら捕まりますよ」と注意を受け、食事をするのを諦め、近くで適当なものを買って帰ることにしたのだ。


「肉だ、とにかく肉をたくさん買ってこい」

「はい」

「肉は正義」の肉至上主義のミノワは体力を付けるにはとにかく肉だと、肉を買ってくるよう言うと、返事をしたマイラは街の中に消えていった。


「ミノワさん」

「どうした?」

 袋いっぱいの串焼きを抱え、戻ってきたマイラを荷台に乗せ剣闘王の館に戻ろうとした時、マイラが声をかけた。


「寄りたいところがあるのですが」

 そう言ったマイラはどこか思い詰めた表情をしていた。


「いいぞ、案内してくれ」

 マイラの表情から何かを察知したミノワは了承し、マイラに案内を頼むも「一人で大丈夫です」と荷車を引こうとするミノワを制止した。


「オレが行くと騒ぎなるかもしれんからな」

「そこは問題ないのですが、個人的な用なので」

 ミノワの格好がどうのこうのではなく、単純に個人的な用事に付き合わせるのが悪いという理由だった。

「だったら遠慮するな。トレーニングにもなるし丁度いい」

「……、ありがとうございます」

 少し思案したマイラだったが、素直にミノワの好意を受けると、ミノワの引く荷馬車がゆっくりと動き出した。

 

 マイラに案内され進んでいくと街並みに変化が訪れる。

 整備されていない荒れ果てた道の脇にはみすぼらしい建物が並ぶ。その粗末な造りは、家と言うより掘っ立て小屋だ。

 道端にいる住人は皆、出会った頃のマイラのようなボサボサ頭で薄汚い格好をしている。

 マイラが「問題ない」と言ったとおり、誰もミノワの格好を気にする者はいなかった。それどころか誰もが、疲れ果てた覇気のない目をしており、その目は、ただただ虚空を見つめミノワなど見えていないように思えた。

 そんな景観にミノワは違和感を感じた。


「ここは貧民街です」

 ミノワも予想はしていたが、やはりここは貧民街だった。

 マイラは貧民街に幼い妹と二人で暮らしており、妹が心配で様子を見に行きたかったのだ。


「ここです」

 辿り着いた先は瓦礫しかなく、人が住めるような建物などなかった。

「マイラ?」

「間違ってはいないですよ」

 ミノワの疑問を察知したマイラは、そう言って荷車から降りると、瓦礫の山に向かって歩きだした。

「ミノワさんは大きいから、通れるかな?」

 そんなことを呟きながら、瓦礫の隙間を進んでいくマイラの後をミノワは身をすぼめながら付いて行く。


「着きました」

 少し進むと少し広い空間に出た。

 ここに来るまで見てきたものも、家と呼ぶにはお粗末だったが、なんとか建物の体は保っていた。しかし、ここは違う。瓦礫の中にできた、ただの広い隙間だ。それをマイラは家だと言う。

「秘密基地だな」

 それは家というより子供の頃つくった秘密基地のようだった。


「お姉ちゃん?」

 奥にある拾ってきたような朽ち果てかけたベッドから、一人の女の子がこちらに気付きやってきた。


「アズサ」

 ヨタヨタと手探りで歩いてくるアズサ、その動きにアズサは目が見えないのだとミノワは悟った。

 そんなアズサのもとへマイラは駆け寄り小さな体を抱きしめる。

「寝てなきゃ駄目じゃない」

「お姉ちゃんに会いたかったんだもん。それに今日は調子いいんだよ」

 マイラに抱きしめられ嬉しそうに答えるアズサの姿を見て、心が温かくなるミノワ。

(この笑顔を失わなくて良かった)

 もしマイラが死んでいたらこの子はどうなっていたのだろう? どうなるかなんて想像に難くない。

 マイラが助かって良かったと改めて思うミノワだった。


「お姉ちゃんからいい匂いがする」

 さっきまで胸に抱えていた串焼きの匂いにアズサが反応した。

「これは串焼きの匂いだ」

 マイラから預かった串焼きの袋を掲げミノワが答えると、アズサはビクッと震え隠れるようにマイラの胸に顔を埋めた。

「大丈夫よ。この人はお姉ちゃんを助けてくれた人なの」

 アズサを落ち着かせるように優しく言葉をかける。

「ほんとう?」

「本当だ。おじ、いや、お兄さんは正義のレスラーだからな」

 ミノワは屈むとアズサの頭を撫でた。

「うわー、大きい手」

 撫でている手を両手で掴むと。マイラと違う大きな手にアズサは無邪気な笑顔を見せた。


「アズサも食べるだろう?」

「食べる。わーい」

「ミノワさん……」

「飯は皆で食った方が旨いからな」

「ありがとうございます」

 それから三人で串焼きを食べた。久々に誰かと一緒にとる食事はミノワにとっても楽しいものだった。


「マイラ訊いてもいいか?」

 食事の後、ミノワは普段と違い遠慮がちに言った。

「なんですか?」

「アズサのことだが」

「はい。アズサは病気なんです」

 アズサは今ベッドで寝ている。食事の最中に倒れたからだ。元気そうに振る舞ってはいたが、マイラが帰ってきた時から既に熱があったのだろう。

「それで薬を買うためにダンジョンに」

 マイラにお金が必要だった理由、それはアズサの薬を買うためだった。貧民街に住むマイラができる仕事など、安い給金でこき使われる仕事しかない。どうにかその日の食事にありつけるのがやっとの金額で、薬など到底買えない。

 だからマイラはワーカーになろうと決意した。

「最近は倒れる頻度が多くなってきて」

「そうか、だが」

 ミノワはマイラの耳を見つめる。

「アズサは本当の妹ではありません」

 獣人族の特徴である耳や尻尾、アズサにはそれがなかった。


「ミノワさん貧民街で子供見かけましたか?」

 ミノワが覚えた違和感、それは子供や若い女性の姿がなかったことだ。

「売られるんですよ」

 貧民街の住人は貧しさから犯罪に手を染める者も少なくない。

 マイラはワーカーになろうと決意したが、皆が皆マイラのように考えるわけではない。それにワーカーだって成功するとは限らない。

 この国では人身売買は禁止されているが、裏ではそういったものを扱う組織もある。

 そういった者にとって力のない子供はいい獲物なのだ。中には我が子を売る親さえいる。

 貧民街で子供が生きていくためには、攫われないよう力が付くまで隠れて生きていくしかないのだ。

 アズサも一度は攫われたが盲目なうえ病弱だったため買い手が付かず貧民街に捨てられた。このまま死を待つしかなかったアズサを救ったのがマイラだった。


「お姉ちゃん、お姉ちゃんて可愛くて、私も本当の妹のように思っています」

 アズサの寝顔を眺めながらマイラは言った。

 マイラの話を聞いたミノワは家の中を見回し少し考えた後、口を開いた。

「アズサと一緒に来ないか」

「ミノワさん?」

「あの館、古いが広いし部屋は余っている。お前が仕事でいない時は、マナミが面倒を見てくれるだろう」

「いいんですか?」

 ダンジョンに人が住むなんて前代未聞だろうが、魔物が出現しない剣闘王の館に命の危険はない。

 それに、今の状況では何日も家を空けることはできない。仮にワーカーになっても受ける依頼が限定され満足な報酬が得られないかもしれない。

 ミノワの提案を受ければ、マイラが抱いていた懸念も解消できるし、何よりアズサにとっても、このままここで生活するよりは良いだろう。


「よろしくお願いします」

「アズサが目覚めたら出発だ」

「はい」

「金はまだ残ってるし、今のうちに薬を買っておくといい」

「でも……」

「気にするな」 

「ありがとうございます」


 その後目覚めたアズサに話をすると「お姉ちゃんと一緒ならどこでもいい」と承諾したアズサとマイラを乗せた荷馬車は剣闘王の館に向かった。

お読みいただきありがとうございます。

次話もご一読いただければ幸いです。

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