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お姉ちゃんへ
師走の風吹き抜け、行く年を惜しみながら過ごすこの頃、いかがお過ごしでしょうか。京都の冬は底冷えるとは申しますが、凍みるような寒さの中、体調などはお変わりないですか。
音楽教室の伝手でリセを見学したお話、面白く読ませて頂きました。音楽高校というものは国立音楽院と違って、音大・藝大といったグランゼコールを目指す分、日々の勉強も加わって大変そうですね。反対に単位制のコンセルヴァトワールの場合、専攻科まで含めれば七年間自由が与えられる中で、自らをどう律してゆくかを考えなければ、簡単に腑抜けてしまいそうな怖さがあります。
大倉山の近くにはリセがないので、高校は普通の県立高校か、普通の私立高校しかありません。そうした普通の高校へ行くことになったら、これまで通り等々力の先生のところでレッスンを受けながらグランゼコールを目指すことになると思います。
正直に言えば、普通の高校に通う自分というものは想像もつきません。お姉ちゃんと違って私はずっと市立の特別支援学級で過ごしてきたので、ほかの生徒との接し方、関わり方も分かりませんし、音楽抜きの自分が集団にどう受け入れられるのかは想像も及びません。悪い妄想にとりつかれている訳でこそありませんが、普通の高校に通う自分というものを考えると、こうした分からない物事に対してのぼんやりとした不安が胸を覆います。
お姉ちゃんは私立の普通学級に通ってきましたから、例えリセに行ってもすぐに受け入れられると思います。むしろコンセルヴァトワールは自由すぎて、お姉ちゃんには物足りないかもしれません。こう書くと私がお姉ちゃんにはコンセルヴァトワールに行って欲しくない見たいですが、それは違います。
本当なら私も、お姉ちゃんと一緒にコンセルヴァトワールに通いたくて仕方がありません。お姉ちゃんがコンセルヴァトワールを受験すると聞いてから、横浜で一緒に暮らし、一緒に学び、一緒に将来を描きたいと考えたのも、一度や二度ではありません。私が京都に行くこと、お姉ちゃんが横浜に来ることも考えました。ですがそのどちらも、授業料の負担に加えて家族に負担をかけることを思えば、何より私たちの障害を理解し、支えてくれる家族という存在から離れることを思えば、現実的な選択肢としては難しいものです。
私たちの自由が二人合わせてもいかに狭い世界の自由であるかはよく知っています。十五歳の、障害のある女の子の自由とは家の中の自由だと言ってもいいでしょう。愛するあなたと一緒に過ごしたいという願いだけで、それを叶えられる訳ではありません。それゆえ、今度会える日を指折り数えながら待ち続けています。
今年は三十日に帰って三日に戻る予定なので、いつもより一日長くお世話になることになります。付き合い始めて最初の年末年始ですね。今年は一緒に二年詣りに行きましょうか。お姉ちゃんの着物も着せてくれると嬉しいです。家の中の自由も満喫しなければ損ですものね。
今年も残すところあとわずかとなりましたが、気忙しい中、何卒気を付けてお互い過ごしましょう。三十日に無事会えますようお祈り申し上げております。
十二月十九日
秀子より