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お姉ちゃんへ
枯れ葉舞い冬の訪れを感じる季節、ますますご清祥のことと存じます。京都は紅葉が最後の見頃でしょうか。白川に楓が舞うのもまた一興と存じます。
京都コンセルヴァトワールの学祭のお話、楽しく読ませて頂きました。ご紹介のあった専攻科生のアンサンブルはどれも魅力的で、私も一緒に見に行ってみたかったと思いました。
私も先日横浜のコンセルヴァトワールに行ってきました。学祭の二日目で、自治会主催の名高い一日目ではなく、実行委員会主催だったためか、期待よりも整然とした印象で、有名な立て看板も多くが既に撤去された後でした。
根岸台の校舎は聞いていた通り古かったですが、設計と内装で古さを感じさせないよう努力はしていると感じました。帰ってから調べてみると、国内外で有名な建築家の設計だったようです。打ちっぱなしのコンクリートが特徴的でしたが、雨の日には結露したり、湿度が高くなって大変なのではないかと思います。
本科生のオーケストラではシャブリエのスペイン狂詩曲が印象に残りました。ドビュッシーの夜想曲では思わず寝てしまいそうになりましたが、この曲では祝祭日のひと続きの情景が絶え間なく目の前に繰り広げられるような楽しい演奏でした。
専攻科生のアンサンブルでは、打楽器も加えたバンド形式のアンサンブルによる自作自演が面白かったです。特にサクソフォーンオーケストラによるソ連風のジャズ組曲や、変則の木管六重奏(フルート、オーボエ、バス―ン、テューバ、バスクラリネット、バリトンサクソフォーン)による土俗的な奇想曲には、技巧を見せつけようとするてらいこそありましたが、指揮者が踊るように立ち回ったり、拍手を煽ったりするなど、観客を楽しませようとする心意気が感じられました。
教室では部活動や研究発表の展示が行われていました。レッスンに着目した音楽行為論の研究や、演奏会活動に着目した音楽経営論の研究などはお姉ちゃんの興味を引くのではないかと思いました。印象に残ったのは馬術部です。コンセルヴァトワールに馬術部があるのも驚きでしたが、学校のすぐ裏手にある根岸の競馬場に馬術競技施設があり、それを利用しているのだと知ってさらに驚きました。多くの助成制度があって始めやすいそうなので、興味が湧きました。
お姉ちゃんのように様々見てきたものを紹介しようと思いましたが、なかなか見てきたようには書けないものです。お姉ちゃんのように心を見る目が私にあれば、音の響きを読む目が私にあれば、あなたのように多くを伝えられたでしょうか。二人合わせてもなお狭い世界を生きている私たちにとって、手紙が互いの世界を広げるためにも、表現の工夫がもっと必要ですね。
暦の上では冬を迎え、いよいよ病気も流行り始める季節となりました。お姉ちゃんのご健康が守られますよう心よりお祈り申し上げております。
十一月十五日
秀子より