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種黒さんの話・黄泉

 こちらは現在連載をしております『醜くも綺麗な一瞬』という物語の『ep,457・ep,458』の裏話となっております。

 

 これだけですと、何のことか全く分かりません。

 鬱々としていて胸糞な内容ですので、お読みになる際はご注意ください。

 お父さん、お母さん、運転手さん……ごめんなさい。


 あれから五年が経過した。

 私は、地縛霊として事故現場に縛り付けられている。


 気が付けばここにいて、何処にも行けない。

 時折、彷徨っている()()が前を通るが、意思疎通ができたためしはない。


 虚ろな目で、ふらふらと何処かへ行ってしまう。

 中には、随分と古めかしい格好をしている人もいた。


 寂しい。

 話し相手がほしい。

 

 いつ解放されるのか、それともずっとこのままなのか。

 花を供えにやって来る両親に縋っても、姿が見えないのではどうしようもない。


 運転手さんの家族も、時々来てくれる。

 本人がどうなったのかは、分からない。


 顔を覆って涙を流すその人に、「ごめんなさい」と頭を下げる。

 届くことはないけれど。


 ……兎火(うび)君も、どうしているかな。

 ここから動けない私には、確かめようもない。


 ただ、気にしているんじゃないかな、って思いはあった。

 もしそうなら、記憶に蓋でもして忘れてほしい。


 だって、私と目が合っちゃただけだし。

 嫌がらせに加担したわけでもないのに苦しむだなんて理不尽だ。


 苦しむべき人は、他にいるはずだから。

 ああ、土毒(どどく)ちゃんが憎い!


 取り巻きのやつらも、囃し立てたアイツらも……!!

 今この瞬間も、アイツらは日常を送っているんだ。


 私はもう、日常に戻れないのに。

 憎くて憎くて仕方がない。


 今すぐ地獄に堕ちてしまえ!!

 それで、私の味わった悔しさや悲しさを体験したらいいのに!!!


 体から、黒い靄のようなものが湧き出てくるのが分かる。

 恐ろしいことのはずなのに、不思議と怖くはない。


 にやり、と私は久しぶりに笑みを浮かべる。

 靄を眺めていると、なんだかいい気分になってきた。


 そして、もっと恨めばもっと靄が出てくる、というのが、直感で分かった。

 この靄を、どうにかしてアイツらにぶつけられたら――。


 「貴方が悪霊になっちゃうだけだよ」

 急に声をかけられ、ビックリして振り返る。


 黒い髪をボブにした女の人が立っていた。

 真夜中だから、その人以外誰もいない。


 「悪霊になっても、殆どの幽霊は人間界に干渉できない。ずっと、ここでその黒い靄に苛まれ続けるだけ。……その靄、少し熱いでしょう?」


 言われてみれば、じりじりと焼かれるような感じがする。

 目の前の人の言葉の意味を理解して、私はぞっとした。


 靄が増え続ければ、熱さは増す。

 それで苦しむのは、自分だけ。


 気が付けば、癇癪を起したように叫んでいた。

 だって、あんまりじゃない。


 五年もずっと一人ぼっちでさぁっ!!

 やっと、『希望』が湧いたと思ったのに、すぐに叩き潰されて。


 ああ、すっごく惨め。

 どれだけ叫んでも、辺りはシンと静まり返っている。


 「……ごめんね。私には話を聞くことしかできないわ」

 そう言って、靄まみれの私の手を掴むような仕草をした。


 ……霊感っていうのがある人っぽいけど、触れないんだ。

 その人は、昨日偶々ここに来て私を見つけた、と話してくれた。


 いたっけ?

 思い出そうとしても、観光客の顔なんて、そもそも覚えていない。


 「親戚の人が近くに住んでいてね。気分転換に連休を使って来てみたんだ!」

 そしたらあなたを見つけて、とお姉さんは言った。


 「気分転換?」

 辺りを見渡しながら、私は首を傾げた。


 時計がないから正確な時刻は分からないけど、夜中の九時は過ぎている。

 近く、とはいえで歩くのは危ない気がした。


 そんな私の気持ちを知る由もなく、目の前の人は悲しそうに目を伏せる。


 「…………『この体質』だから、学校でちょっと、ね」

 なるほど、ベクトルは違うけど似たような立場の人のようだ。


 単純かもしれないけど、親近感がわいた。

 だって、五年ぶりの会話なんだもん!


 「ねえ、私って『地縛霊』ってやつだよね?どうしたら、ここから離れられるの?それとも、ずっと……世界が終わるその時までなんてこと、ないよね?」


 自分で言っていて怖くなってくる。

 そうだよ、って言われたらどうしよう。


 「未練……えっと、心残りがなくなったら」


 よかった。この状況から抜け出せる方法はあるようだ。

 でも、それはそれで困ってしまう。


 心残り……もっと早くお父さんやお母さんに相談していれば、とは思うけど、それを伝えても晴れないような気がした。


 だって、今更だし。

 逆に、自分たちがもっと早く気づいていれば、なんて思われたくない。


 それに、目の前のこの人に伝えてもらうといっても、いきなり見ず知らずの人が家にやって来て、「あなた方の娘さんが――」って言われて信じるだろうか?


 それは、土毒ちゃんたちにしても同様だ。

 下手をしたら、名誉棄損で訴えられるかもしれない。


 せっかく解決策が見つかったのに、どうにもならなくて気分が沈む。

 すると、お姉さんは「…………変わってるわね」と呟いた。


 「どういう意味?」

 「いや、その、……すごく、考えてくれているから」 


 話しかけなくても、霊感があると分かった途端に寄ってくる霊は多いらしい。大半が、救いを求めて来るけれど――。


 『○○県の××ってやつが憎い!アイツのせいで、私はこんなに苦しんでいるんだ!!……ねえ、私の声、聞こえているんでしょう?伝えるべき義務があるって思わないの!?恨み言の一つや二つ、私の代わりにアイツに言いに行ってよっ!!力があるのに使わないなんて卑怯だわ!!』


 『なんで気づかないふりをするんだよ!?霊感の使い道なんて限られているだろうがっ!使えるときに使わねぇと、ただの気味の悪い奴だぞ!?』


 『ええっ!?不思議な力とかで成仏させてはくれないの?話を聞くだけ?何よ、その上から目線!この、役立たずっ!!』


 「……自分が幽霊になる前は、霊感のある人を嘲笑っていたような人たちから、好き勝手言われちゃってね。孤独なのは理解できるから、どうにも辛くって」


 その気持ちは、分からなくはない。私だって、「実は私、霊感あるんだ」って友達が言ったら、心の中で引いていただろうし。


 「ありがとう」

 そう言われて、なぜだかすっごく泣きたくなった。


 「…………あの、親より先に死んだ子供は賽の河原に行くって聞いたことがあるんですけど、あれは本当なんですか?」


 返ってきた答えは「ごめんなさい。分からないわ」だった。

 それもそっか。


 そんなに、申し訳なさそうな顔をしないでほしい。

 なんというか、力があるばっかりに、余計な苦しみを感じているんだな。


 気が付けば、私は()()()()()経緯について話していた。

 話を聞き終えたお姉さんは、「分かるよ」と言った。


 「私も、『お前、霊がなんて言っているか当ててみろよ~』とか『みんなの気を引きたいからってさ、アレだよねぇ』って、何を言っても揶揄われる小学校時代だったから。……転校先の中学でも、墓穴を掘っちゃって」


 何を言っても揶揄われる。

 その辛さと悔しさが、私にも痛いほど分かった。


 分かったけど、未練、未練……そうだ!

 恐る恐る、私はお姉さんに問いかける。


 「『おぶっしゅりだれむ』って、どう思いますか?私が数年間暮らしていた国の、とある言葉なんですけど……」


 もう動かない筈の心臓が、ドキドキと動いているような気がした。

 お姉さんは少し考えこんだ後、口を開いた。


 「素敵な言葉ね」

 

 空気を読んだだけかもしれない。もしくは、知っていたのかも。

 それでも、私はすっごく嬉しかった。


 『変わってるぅ』『変なのぉ~』じゃなくて『素敵』。

 そう、『おはよう』なんだから、素敵な言葉なんだ!


 もう私は、『おはよう』も『おぶっしゅりだれむ』も言えないけど。

 お父さんとお母さんに、もう一度言いたかったな。


 ◇◇◇


 気が付くと、私は靄の立ち込める道に立っていた。

 たまたま通りがかった、やたらと派手な人(?)が教えてくれた。


 「ここは、黄泉路って場所だよ」

 「よみじ……」


 「一本道だから、迷うことはないよ。一応ね」

 一応、が気にはなったけど、あまり聞く気にはなれなかった。


 代わりに、あの世について聞いてみた。

 でも、この人も詳しいことは知らないみたい。


 「まあ、君は十中八九、『賽の河原行』になるだろうけど、そんなに心配しなくても大丈夫!風の噂で聞いた話だと、今は一人の鬼に対して、子供十五人を担当してるんだってさ。石は崩さないといけないから崩すけど、それ以上のことはされないよ。寝る場所も、朝昼晩のご飯もあるし、自由時間もある」


 赤い歯を二ッと覗かせ、「あっちも『今風』に近づいているってこと!」と笑う。その笑顔を見て、私は少しだけ安心した。


 「馬が合うことで合えたら、友達にだってなれるかもね」

 そう言うと、瞬きをする間に派手な人は消えていた。


 ……あっ、あの人にもお姉さんにも、お礼言えなかったな。


 パンパンと頬を叩き、私は気合を入れる。

 そして、お姉さんとあの人を思って、ぺこりと頭を下げた。


 「ありがとうございます」

 あのお姉さん、ずっと元気でいてくれたらいいな。


 「…………お父さん、お母さん、運転手さん。……兎火君、さようなら」

 くるりと体を反転させ、私は黄泉路を歩いて行った。



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