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とある並行世界のまとめ話・1

 作中に出てくる、並行世界をまとめたもの『1』です。

 やはり、これだけ読んでも何のことかよくわからない仕様になっております。


 胸糞な表現、動物が死ぬ描写もございます。

 ご注意ください。

 並行世界・1⃣


 ……あの子がいなくなってから、もう何年の月日が経ったんだろう。


 少なくとも、五回は除夜の鐘を聞いたような気がする。

 いや、もっとだったかな?


 同じ日に失踪した、他の子たちも見つかっていない。

  彼らが失踪した後、連鎖的に色々と事件が起きた。


 どちらかと言うと、そっちの方に世間の興味はいった気がする。

 一時期、騒ぎにはなったけれど、それもすぐに忘れ去られてしまった。


 仕方がない。

 私だって、他人事の出来事だったらすぐに忘れてしまうだろう。


 それに、世の中には()()()()の事件が沢山あるのだ。

 

 「おかーさん!」

 そう言って自分を見上げてくる我が子の声に我に返る。


 見ると、一番下の息子が私の笑顔が描かれた絵を持って立っていた。

 『おかーさん、いつもありがとう!』と大きくクレヨンで書かれている。


 「ほら、今日は母の日でしょ?」

 姉の美月が、弟の隣にしゃがみ自分を見上げる。

 

 そうか、今日は母の日か。

 ……あれ?ついこの間も『母の日』の話題が出ていたような。


 ……あっ、あれから一年経ったってことか。

 なんだか、すっかり感覚が麻痺してしまった様な気がする。


 あの子、涼多(りょうた)がいなくなったあの日から――。


 ◇◇◇


 『気を付けて、楽しんできてね』

 あれが最後に言葉になるとわかっていたのなら、行かせはしなかったのに。


 そう悔やんでもどうしようもないとは、……わかっている。

 わかってはいるが、考えずにはいられない。


 思考の袋小路に迷う混む毎日だった。

 いや、今だってそうだ。


 騒ぎになった当初は、色々な人から色々なことを聞かれた。


 ただ、『ドラマや映画のようにマスコミが押しかけてくる』ということはなく、買い物をしている時や、子供を公園で遊ばせている時に何処からともなくひょこっと現れ質問された。


 本当かどうかわからない胡散臭い名刺を渡されたこともあれば、スマホ片手に「すみませ~ん」とニヤニヤ顔で近づいて来る者たちもいた。


 住所を知られるのはまだわかる。

 しかし、自分の今いる場所までリアルタイムで知られることは恐怖だった。


 幸い深追いはされなかったし、夫が来た時はそそくさと退散してくれた。

 ただ、それは何の解決にもなっていない。


 自信を見上げてくる、美月の不安げな顔を今でも覚えている。


 当然だ、毎日のように見知らぬ誰かが待ち伏せているし、それでなくても好奇な視線と腫れ物に触るような目に晒されているのだから。


 それに、夫もいつ()()()()()がフラッシュバックするかわからないのだ。


 それでなくても、暇な誰かに根掘り葉掘りと過去を探られ、出鱈目なことをネットに書かれるかもしれない。


 一体、この優しい人が何をしたと言うのだろう?


 『いなくなった三人について何か知っていることがあれば』


 『息子さん、学校でイジメられていたみたいですけど、知ってましたぁ?』


 『まあ、そこはどうでもいいんですけど、一部では高校生三人がロリを誘拐したんじゃねって話も出てるんですよねぇ~。なんでって?ははっ、()()()()発想が思いつかない平和ボケ(お人)にはわからないか』


 『っというか、この町ってヤバい奴が出没するって噂がありますよね?そんな中で子供を夜中に一人で外出させるのもいかがなものかってご意見もあるんですよぉ。いくら高校生と言ってもねぇ……』


 『あっ、俺たちの意見じゃないですよ?皆、言っているんですから』


 『……あのさぁ、もう少しネット見た方がいいよ?』


 『これ親切で言ってるんですよ?()()()()は録音とか警察呼ぶぞとか直ぐに言ったのに、ちっとも動かないから心配になっちゃって~』


 言われた言葉を反芻する。

 結局、ネットを見ることは一度もなかった。


 あの人達は、今でもあんな事を続けているのだろうか?

 それとも、あの人たちの言い分が正しいのだろうか?


 私が、過去のことに蓋をして、穏やかな日々を送ろうとしたから、平和に浸ろうとしているからいけなかったのかなぁ?


 夫が学校に赴いたが、いじめが本当にあったかどうかはわからなかった。

 生徒にそれとなく聞いても『知らない』『なかった』としか返ってこない。


 今思うと、当然だ。

 事実だったとしても誰だって『負』を認めたくはないだろう。


 ただ、一人の生徒が『もしかしたら、あったかもしれません。ただ、今は中々わかりづらいって言うのがあって……』と家までやって来て話してくれた。


 直接的な暴力ではなく、ネットになると外からではわかりづらいのだと。

 それに、今時、大っぴらにいじめてくる奴はそうそういないと教えてくれた。


 確かに、机の上に落書きや花なんて、大昔のやり方だろう。

 それこそ、自分が学生だった時ぐらいの。


 ああ、ビラも満足に配れなかったことが悔やまれる。

 夫は『気にすることはない』と言ってくれたが――。


 彼は話し終えた後、『もしあったのなら、気づけなくってすみません。同じクラスだったのに……』と頭を下げた。


 快活な見た目で、真面目な雰囲気の生徒さん。

 確か、出錆(でさび)君……だったかな?


 あの子が謝る事じゃないのに。


 結局、いじめがあったかどうかはわからなかった。

 でも、あの子の性格を考えると――。


 夫は毎日、色々な理由で自分を責め続けている。

 それは、私も同じだ。


 『気づけなくて、ゴメンね』と頭の中で延々と繰り返している。


 きっと、あの子は許してしまうのだろうが――。


 ◇◇◇


 「ありがとう!とっても上手ね!!」


 絵を受け取り、息子の頭を撫でる。

 ホッとしたように顔が綻ぶ。


 「…………」

 精神的に不安定な日が続き倒れてしまい、入院したことがある。


 そんな状況の中、無事に生まれてくれて良かったと、本当に思う。


 「お母さん、私からはこれ」

 「ありがとう!」

 兎柄の可愛いハンカチを受け取る。


 ……そういえば、美月がこの子ぐらいの年に、涼多はいなくなったんだっけ。

 自然と涙が溢れてくる。


 いけない、こんな事じゃ。

 夫も、二人りを不安にさせない為に泣くのを我慢しているのに――。


 「ごめんね。今度、動物園にでも行きましょうか!」

 上手く笑えているかはわからないが、何とか笑顔を作る。


 弟はパァッと顔を明るくさせたが、姉は複雑そうだ。


 『前みたいに、親戚の人から何か言われない?』

 そう、目が語っている。


 前に、家族でお花見に行った話をとある親戚に話してしまった事がある。


 『涼多君がいなくなったってのに、薄情なもんだな』

 『そりゃあ、数年経てば仕方ないわよ。二人の子供もいるんだし』


 『いや、別に楽しんじゃいけないってわけじゃないよ?それにしたってなぁ』

 『まあ、あなたがそう言いたいのもわかるけど……』


 『だろ?俺だったら実の子が行方不明の中、遊びに行くだなんて』

 『()()()な親ならしないわよねぇー』


 『嘘でも笑って写真を撮るだなんて、できないな』

 『本当よ。……まあ、じゃあ子供預かってって言われても困るけど』


 陰でそんな話をしているのを、聞いてしまったらしい。

 だから、私たちを悪く言われはしないか不安なのだろう。


 「大丈夫よ!内緒にするから!!」

 「……?どーしたの?」


 「なんでもないよ!」

 不思議そうな顔をする息子の頭を撫でる。


 「なんで、こっちが内緒にしないといけないの?他のことだって――」

 「…………仕方がないのよ」


 俯いた娘を手招きし、同じように頭を撫でた。


 並行世界・2⃣

 

 「あぁー、だるっ!!」

 

 半年ほど前から暮らしている町を眺めながら、俺は噛んでいたガムをジャングルジムに擦りつける。


 ベンチに座り辺りを見渡すが、俺以外誰もいない。

 ちなみに平日ではない、休日だ。


 「少子化の波ってヤツ?あー、それでなくてもボール遊びも禁止か。それに加えて騒ぐのもダメだもんなぁ。ゲートボールしに来るジジイとババアにしか使い道がねぇじゃねーか……」


 苛立ち紛れに、誰かが置いて行った猫餌が入った皿を蹴り飛ばす。

 はあ、本体がいないと面白くもなんともない。


 (子供の頃は、虫を甚振(いたぶ)っていれば満足だったのに……)

 今は、もっと大きなモノじゃないと満足できない。


 『……今日から、その、おじさんたちと一緒に暮らすんだよ』

 厄介者を見るような目で言ってきた、遠縁の親戚(引き取り主)夫婦の貧相な面を思い出す。


 同時に()()()のことも――。


 「ああっ、クソがっ!クソがっ!!クソがっ!!!」

 ぐしゃぐしゃと皿を踏みつけ、靴をシーソーにつけて付いた土を落とす。


 通りがかりのしょぼくれたおっさんが、何か言いたげにこっちを見ていたから睨み返してやった。


 サッと目を逸らし、そそくさと逃げていく。


 「はっ、ダッセーーーのっ!!」

 本当、辛気臭い奴しかいない町だ。


 「つまんね」

 なんで俺が、こんなとこで暮らさないといけないんだよっ!!


 いや、理由はハッキリとしている。

 あのクズの所為だっ!


 あのクズ――(かなで)――の所為で、俺の人生は滅茶苦茶になったんだ……!!


 ◇◇◇


 母さんが嫌う奴の特徴だけを受け継いで生まれてきた年子の兄。

 露骨にお婆ちゃんに贔屓され、それをさも当然の様に享受するクズ。


 俺自身、お婆ちゃ……あのババアのことは嫌いだった。

 今思うと、露骨に贔屓をされていた気がする。


 父さんはマザコンで全く役に立たないし、そもそも家に殆どいない。

 兄は鈍感なのか、母とババアの関係性があまりよくわかっていない。


 たいした用事もないのに、頻繁に家に来たり来させたりしたクソ野郎。

 ただ、兄に会う為だけに――。


 他の親戚連中と違って、ズケズケと家に入って来る。

 自分のことしか考えていない嫌な奴だっ!!


 ジジイが生きていたら、また違ったのだろうか?


 兎にも角にも、体が元気だった頃は鬱陶しいぐらいに家にやって来た。

 そして、その度に小言(という名の罵詈雑言)を母に浴びせて帰って行く。


 今時『あら、埃が……』なんて、(読んだことが無いからわからないが、きっと)少女漫画でもやらねーよっ!!


 『もうあまり来ないでくれ』と言うと『これだから、最近の嫁は――』と続くのがわかっているから、あまりきつくも言えない。


 疲弊していく母さんに同情の念が湧くのは当然のことだろう。

 それでも、幼い頃はまだマシだった。


 大人の言っている意味が理解できていなかったからなのかもしれない。

 嫁と姑なんてのも、よくわからなかったし。


 だから、兄が作った割り箸鉄砲を見て、心の底から「凄い凄いっ!!」とはしゃいだりもできた。


 当時は、勉強もできてピアノも上手で友達もたくさんいて、その上、工作まで得意な兄のことを純粋に慕っていた気がする。


 だから、祖母に邪険にされているとは思いつつも、悲しくなっただけだ。


 だが、段々と言葉と行動が理解できるようになるにつれ、祖母と兄に対する思いは『失望』『憎悪』『嫌悪』へと変わっていった。


 「はあ、息子(あの子)唯一の汚点は、貴方と結婚したことね。見栄っ張りで、派手好きで、浪費家。はあ、奏を産んだこと以外は、本当にどうしようもない嫁だこと……」


 これ見よがしに「下品な匂い、ああ臭い臭い」と犬を追い払うように手を振る。

 正直、俺からしたらお前の香水の方が臭い。


 「お言葉ですがお義母さん、この香水は有名ブランドの最新作で――」


 「ほら、そう言うところよ。私の時代は口答えなんて、はしたなくって出来たものじゃなかったけれど、昨今の嫁はいいご身分だわねぇ~」

 

 「……………」

 「返事は?こっちが聞かないと、わからないのかしら?」


 「……申し訳、ありません」

 「最初からそう言えばいいのよ。甘やかされて育ったお嬢さんはこれだから」


 母さんが子供の頃、苦労して育ったのを知っている癖に……!

 『髪や目の所為でイジメられてきた自分だけが可哀想』とでも言いたげだ。


 ババアが帰った後、母さんは決まって俺を抱きしめた。

 ぐすぐすと泣きながら、「(ひびき)だけはお母さんの味方よね?」と言って――。


 「当然だ」と答える。


 「ずっと、お母さんの味方でいてね?大人になってもよ?約束してくれる?お母さんには響しかいないの!可愛い可愛い、私の子……!!」


 そう言って更に泣いた。

 

 母を慰めた後、自室へ戻ると貰った玩具を嬉しそうに抱える兄がいた。

 俺を見てパァッと笑いかけるが、その動作一つ一つにイラッとする。


 お前が、母さんや俺みたいな黒髪で(とび)色の目に生まれていたら、あのババアもこうして頻繁に家に来ることもなかったのにっ!!


 母さんのことを何一つ考えずに「響、オセロやろう!」なんて言ってきやがる。

 それでも、まだ『兄』だった。


 でも、母さんがあんなに熱心に教えていたピアノは、いつまで経っても結果を出せないし、それ以外のことはてんで駄目。


 あれだけ仲良くしていた出錆(でさび)親子も、いつの間にか来なくなった。

 それどころか、母親は母さんを見下しているらしい。


 『アイツは、私に返しきれないくらいの恩があるのにっ……!!』

 詳しくは語らなかったが、酔った時にそんなことを零していた。


 母さんの夢を引き継がなかったばかりか、友情も壊しやがって。

 俺も、兄より息子の(しん)と話す方が楽しかっただけにショックだった。


 人の心も友情も、何もかもを歪ませる疫病神のような兄。

 

 いつの頃からか『兄』と認識できなくなり、『家に寄生するだけのクズ』という認識になっていた。


 役に立たない癖に金だけは貰う、『そんな奴、どうしたっていい』と思った俺は間違っていないはずだ。


 実際、母さんに折檻をくらっているアイツを見るのは面白かった。


 俺が飾り皿を割った時、母さんが「奏っ!なんてことするのっ!!」と、俺の言葉を優先してくれた時は、何とも言えない快感が押し寄せてきた。


 髪の色を気にしだした時も、さりげなく部屋に黒の絵の具を置いた。

 あの時の、皿が割れるような、母さんの金切り声を今でも覚えている。


 母さんが鳥の世話を押し付けられた際、一羽をネズミ捕りにかかったネズミのように、水の入ったバケツに沈めているのを見た時もそうだ。


 どちらの時も、母さんは凄く楽しそうだった。

 まるで、何かから解放されたような、スッキリとした晴れやかな顔。


 「響もやる?」

 親子というよりは、同年代の友達にでも言われたような感覚。


 「うん」と頷き鳥籠を貰ったものの、直後に友達が遊びに来た所為もあって結局、放置したまま死んでしまった。


 蛆は湧いていなかったが、あまりに臭くて耐えられないので、後先考えずに地下の物置(今の奏の部屋)に放り込んだ。


 ()()()()()()()()()()()スマホで撮っておかなかったことが悔やまれる。

 『グロ画像』として()()になったかもしれないのに。


 ああでも、()()()だと、はなっから勝負にならないか。

 それに、『動物愛護がどうの――』と怒られそうだ。


 まあ、バレなきゃ大丈夫ではあるけど。


 偶然見つけた、誰が撮ったのかもわからない女の水死体の画像。

 真偽は不明だが、怨憎(おんぞう)県で見つけたとか書いてあったな。


 映画みたいに綺麗じゃなくて、石や木に体をぶつけでもしたのか、ボロボロのぶよぶよになった人間の体。


 それを見て、物凄く興奮した。

 背筋にゾクリと興奮が走るような――。


 本家は既に削除されているが、ネットの海に出てしまえば簡単には消えない。

 今でも探せば、ボカシが入っているが簡単に見つかる。


 ただ、やはり『本物』には敵わない。

 アレを見て以来、ますます何かを壊してやりたい衝動が強くなった。


 でも、猫や鳥にボーガン(もどき)を向けても、気分はあまり高揚しない。

 やらないよりは『マシ』というだけだ。


 後祭(あとまつり)町では二番煎じだったし。


 それでも、気の合う連中と馬鹿をやれるのは楽しかった。

 適当にゲームして、適当にファストフード店で駄弁って、笑い合って。


 しかし、あのクズの所為ですっかり疎遠になってしまった。


 そういや屋上から猫を落とそうとした時、アイツに邪魔をされたっけ。

 今思うと、アレが最後の『遊び』だったな。


 怒りがこみあげてきて、目の前のゴミ箱を蹴り飛ばす。

 総合すると、なんだかんだ楽しく後祭町で毎日を送っていたのだ。


 あの、『お城』で――。


 中学生になって、母さんのヒステリーがウザったく感じることもあったが、それでも俺は母さんのことが好きだった。


 聖母のように優しくって、なんでも俺の好きなようにさせてくれて、時に距離の近い友達のような一面も見せる優しい母さん。


 今までもこれからも、『仲良し親子』で過ごしていくと信じていた。

 それを、(アイツ)がぶち壊したっ!!


 それなのに、ちゃっかりと逃げおおせていまだに見つかっていない。

 ったく、警察は一体何してんだよっ!!


 ああ、母さんに会いたい――。

 


 

 

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