迷い込んできた姉妹の話
こちらは現在連載をしております『醜くも綺麗な一瞬』という物語に登場する、異世界に迷い込んだ姉妹の話となっております。
これだけだと、何のことか全くわからない仕様です。
鬱々としていて胸糞な内容ですので、お読みになる際はご注意ください。
十年前、黄泉路から化生界に、十六歳と十八歳の二人の幽霊が迷い込んできた。
後祭町・某高等学校校内
「ごめん、もう話しかけないで欲しいんだけど」
「……わかった」
私がそう言うと、相手は申し訳なさそうな顔をして去って行った。
(仲良くなれると思ったのにな。……また、引っ越さないといけないかも。でも、もうお金が)
心にズンと、重い何かが圧し掛かる。
建物の陰から我が家をそっと見る。
良かった、誰もいないし落書きもされていない。
家に入ると、妹がリビングでお菓子を食べながら悪態を吐いていた。
手には好きなアイドルとお揃いだとかいうピンク色のシュシュを付けている。
「ご苦労様だね。あーあ、マジ最悪。今日も連絡あったけど、行くわけないじゃん。あんな辛気臭い学校」
私たち家族は何度も引っ越しを繰り返してきた。原因は妹のいじめだった。
被害者の生徒は心を病んでしまい、現在も休学中だという。
両親も姉の私もそのことに全く気が付かなかった。
優しい両親に可愛い妹『幸せ家族』そう信じて疑わなかった。
だが、現実は――。
いじめが発覚して(一応、学校は否定している)から、ネット上には妹のみならず家族全員の写真や個人情報が晒された。
『同じ屋根の下にいて、全く気が付かないってありえなくない?』
『絶対、見て見ぬふりしてたって』
『そんなに妹が怖かったのかな?』
『仮にそうだとしても、家族なら止めるべきでしょ!!』
『だよね。そもそもマジで気づいてなかったんなら鈍感すぎ』
『やっぱ、見て見ぬ振りが有力かー』
『ってか、姉のほうだってやってそうじゃね?』
『ああー、確かに。この顔はやってる顔ですわ』
『私をイジメていた子と目つきが同じ。きっと同類……』
『全員○刑で!』
そんな内容が書かれている。
見ない方がいいのに、つい見てしまう。
ショックだった。
ただ、一番ショックだったのは、妹が全く反省していないというとだ。
被害生徒やその家族に謝罪に行ったが本人には会えず、『姉では意味がない』『そっちは謝れば満足だろうな!』と言われてしまった。
地元に居られなくなり私たちは引っ越すことになった。
高校一年生の時だ。
しかし、何処に行っても知られてしまいその度に引っ越した。
離婚したりしないだろうか?
お金は大丈夫なんだろうか?
報復されたりは?
就職は?
恋人ができた時、バレたら?
そんな不安が常に付きまとっていた。
申し訳ないと思う一方で、こうも思う。
『なんで、私たちまで?』……と。
確かに、私もニュースを見て『いじめ自殺』『虐待死』の文字を見たら『ちょっとの勇気で解決したんじゃ』とか『誰かに相談すれば』『暴力が怖いのは分かるけど、自分の子供が目の前で苦しんでいるのに』『私だったら逃げるのに』とか思ったよ?
………………『家族も同罪だ』とも。
でも、思っていただけよ?
なにかを書き込んだり、住所や名前を晒したりはしていないじゃない!
憶測で攻撃するアンタたちだって同じじゃないっ!!
アンタたちだって、同じ目に遭えばいいのにっ!!
………………攻撃するなら、妹だけにしてよ!
そんなことを考える自分に、腹を立てながら毎日を過ごした。
月日が経ち、ようやく『平穏』な日常を手に入れたと思っていたのに――。
今日、転校初日に声をかけてくれたクラスメイトから拒絶されてしまった。
「電車で一時間以上、揺られないと映画館まで行けないとかダル過ぎ。ライブ行くのも一苦労だし。なんで、こんな辺鄙な町に引っ越しちゃうかなー」
そう言いながら階段を登る妹の背中を見ていると、沸々と怒りが湧いてきた。
「いい加減にして!だいたい、誰の所為でこんなことになったと思っているの!?」
階段の踊り場で詰め寄る。
「え?私の所為とか言いたい感じ?あんなの、ちょっといじっただけじゃん」
「ちょっとって……」
「あのね、ロベリアチューブの○○さんも言っていたけど、人間も動物なの」
妹の言っている意味がわからず、首を傾げる。
「男女問わず、強い者だけが生き残るの。弱い者が淘汰されるのは自然の摂理。その話をアイツにしたら『そんなことない』って言うんだもん。おまけに○○さんを馬鹿にしたし、私がファンなの知っている癖に。だから、わからせてやったの」
「そ、そんな理由で……」
「『そんな』じゃねーよ!あの人の話は、学校で勉強するよりも役に立つことだらけなんだから!!……クラスの平和ボケしている奴らやお姉ちゃん達を見てて、ずっと怖気が走ってた!そんな私の気持ちも知らないで、いっつもヘラヘラ笑っててさ、気持ち悪いんだよ!!」
「……その○○さんだけが、正しいの?」
『そっちの育て方が悪かったから!』って責任を押し付け合うこともなく、必死にあなたを守ってくれているのは誰よ?
『お前がこんなことをした所為で!』『アンタなんて家の子じゃない!』と見放さず守っているのは、食事を作っているのは、○○さんを見るスマホの電気代を払っているのは誰よ?
○○さん?
違うでしょ?
『○○さんの言った通りに、弱い奴を排除しました』って書き込んでみたら?
きっと、あの手この手で逃げられるわよ。
本当は、わかっているんでしょ?
「そうだよ!お父さんもお母さんも温い考え方しかできないし!もっとドライな考え方をするべきなのよ!空気読んで笑顔でいるのがどんなに苦痛だったか……。お綺麗なお姉ちゃんにはわからな――」
ドンッ
思い切り突き飛ばしていた。
キョトンとした顔の妹と目が合う。
「あ」
咄嗟に腕を掴もうとしたが掴めたのはシュシュだけで――。
ゴギィッ!
妹は床に頭をぶつけ動かなくなった。
気が付けば、私は家を飛び出し、近くの崖の上にある大きな公園に来ていた。
理由もなくフラフラと柵の傍まで歩く。
(どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう)
今からでも、救急車を、でも、あんな、首が変な方向に――。
そんな彼女を数人の男女が離れた場所から眺めていた。
「あいつ?写真じゃ小さくてちょっと分かりづらいんだけど。お姉さんと顔似てるし、大丈夫?」
「ピンク色のシュシュを持っていますし、間違いありません!お姉ちゃんにあんな酷いことをしておいて、反省もしないでのうのうと……」
男性に問われた少女は、拳をギリギリと握る。
「この間、ライブ会場に入って行くのを偶然見かけたんですっ!私の友達は二年経った今でも苦しんでいるのに。お姉さんが謝りに来ましたけど、そんなの何の意味もないんです!……でも、家に行く手間が省けて良かったです」
「狙うはアイツだけでいいんです!法で裁けないのなら――」
少女二人は「お願いします!!」と頭を下げた。
「OK、俺らの出番ってわけだ。やったことの責任は取らないとな」
「じゃあ、その格好でビビらしてから、車に乗せて……」
「そうしますか。いざ、正義執行ー!」
「ちょっといいですか」
警官のコスプレをした一人が近づき声をかける。
(ああ、もうバレちゃったのか。そうよね、ドアは開けっ放しだったし、ドラマと違って現実世界の警察は優秀だもん……)
そうは思うものの、相手が一歩近づくたび、こちらも一歩、後退ってしまう。
「おいっ!!」
焦った声が聞こえたかと思うと、体は宙を舞っていた。
視界の端に『柵が壊れています。ご注意ください』と書かれた看板が見える。
ポキンと、嫌に綺麗な音が首から聞こえた。
薄れゆく意識の中、慌てた様子の声が聞こえてくる。
「お、おい。どうすんだよ」
「し、知らねーよ。アイツが勝手に落ちたんだ!さっさと逃げるぞ!!」
◇◇◇
目を覚ますと、綺麗に舗装された道の上で横になっていた。
濃い霧が立ち込めている。
起き上がり辺りを見渡すと少し離れた場所に薄っすらと人影が見えた。
「あの、すみません……」
「お姉ちゃん?」
その声で私はここがどこなのかを悟った。
◆おまけ『迷い込んだ世界での諍い話』◆
「あの、私たちを連れてきてくれて、ありがとうございます」
「はあ?なに頭下げてんの?頼んでないのに」
「でも、あのままあそこにいたら危なかったらしいし……」
「ここが安全って保障もないじゃん。本当、ちょっと優しくされるとさー」
◇◇◇
「何よ、いい子ぶって。『表現の自由』ってやつじゃん。お姉ちゃんだって、本当は不気味な奴らだって思っている癖に。私が代わりに言ってあげてんの、感謝してよね」
「そりゃあ、私だって驚いてはいるわよ。でも、言っていいことと悪いことがあるでしょう?」
「はいはーい、偽善偽善。いつもそうだよねー、綺麗ごとばっか吐いてさー」
◇◇◇
「普通の蟻ですらキモいのに、人間並みのデカさとか無理なんですけど!!」
「ってか、その格好的にここで働いてんの!?」
「無理無理、こんなのが触った湯なんかに入りたくない!!」
「げぇっ!今度は蝉がいる!!なにこのキモい町!!」
◇◇◇
「あの、その、妹がすみません……」
「ちょっと、なに頭下げてんのよっ!私が悪いみたいじゃん!!」
◇◇◇
「え、表六さんが誰かって?それマジで言ってんの?社会や政治、歴史のこととかを、わかりやすく解説する人気ロべチューバーだよ!正直、学校で勉強するよりもためになるよ!!」
「は?ロべチューバー知らんの?……うわ、終わってるぅ。まあ、この町チラッと見ただけで、全てにおいて遅れてる感はあったけど、ダッサ(笑)」
「スマホどころかテレビもパソコンもないじゃん。何が楽しくてこんな所で暮らしてんの?案内役だって言うこの子も、スッピンで人前に出るような常識知らずな子だし……」
「なーんか、みんな無意味で無価値で無駄な時間を過ごしてる感がハンパないんですけどぉ。末期よ末期」
◇◇◇
「ちょっと、あまりにも失礼じゃない!」
「失礼?私は事実を言っただけよ」
「それに、メイクがメイクがって、私みたいに肌が弱くて、したくてもできない人もいるのよ?『肌に優しい』っていうのでも無理な人が。あなたが嗤うたびに、どれだけ嫌な思いをしたか……」
「そんな少数に合わせていたら世の中回んないわよ。言われるのが嫌なら死に物狂いで肌に合うヤツ見つけたらいいだけじゃん。なにくそーってさ」
「それが無理だったから言っているの!……あの武将さんにしたってそうよ。『無血開城』なんて、そう簡単にできるものじゃなかっただろうし、戦わないといけない人だったんでしょう?」
「あーあ、そうやって楽な方に逃げようとする人がいるからダメなのよ!どんな時代にだって『人殺しは駄目』って言うキャラはいるじゃん?つまりはそれが真理ってことよ!」
「でも、立場や環境を考えずにあんなことを言うなんて――」
「五月蠅いんだよ。綺麗ごと偽善者が。少し黙れ」
「……黙らないわよ!『偽善』とか『綺麗ごと』って言っておけば正しいと思っているの?頭よくなった気でいるの?傍から見たら、滑稽でしかないわよ」
「あ?」
「それに、あなただって同じじゃない。いえ、それよりも質が悪いわ。面白半分に人をイジメて、心を壊して……」
「面白半分じゃなきゃ殺してもいいの?」
「……はあ、言葉の綾って言うのを知らないの?」
「後付け乙ー!ってかイジメてないわよ。あの子が私の好きなロべチューバーさんを馬鹿にしたから、わからせただけだって、何度も言ったたじやん。それに、誰だって好きな人を貶されたらムカつくでしょ?」
「だからって、やっていいことと悪いことがあるでしょう?」
「もう!私の方が正しいのに何でそんなこと言うの!?」
本人たちはヒソヒソと話しているつもりだろうが、かなりはっきり聞こえる。
しばらく睨み合った後、妹が口を開く。
「さっき『同じ』って言ったけど、何が?私は人殺しなんてしていないし、心が壊れただなんだって、あっちのメンタルが弱いのが悪いんじゃん!」
「けど、人様の人生を奪ったことには変わりないわ!」
「私のことを殺したテメェに言われたくねーよっ!!」
一週間後、来た時と同じ関係のまま二人は黄泉路へと戻って行った。
◇◇◇
「今頃どうしているのやら……」




