○○の話・2
こちらは現在連載をしております『醜くも綺麗な一瞬』という物語に登場する、とある男の弟の話となっております。
これだけだと、何のことか全くわからない仕様です。
鬱々としていて胸糞な内容ですので、お読みになる際はご注意ください。
◆ある男が己の兄のことを語る話◆
雑煮の味噌が赤味噌だったってだけでブチギレた?
兄貴が言ったからそうしたのに『俺はそんなこと言ってない』って?
……あー、なんてゆーか兄貴らしいな。
待望の長男で甘やかされて育ったから、『おんば日傘』ってやつ。
昔っから自分中心に世界が回っていなきゃ気が済まないって感じだったよ。
ただ、それが不可能って分かってから、そのストレスを全部、家族にぶつけていたな。
そんなんでも『将来、教師になってくれさえすればいい』って父さんも母さんも止めなかった。
君達のお母さんも、反論せずにすぐ謝っていたら、文句言いながら食べたのに。
兄貴、自分よりも下だと思っている存在から反論されるの、凄く嫌うんだ。
おまけに言い負かされそうになると怒鳴り散らして手が付けられなくなるし。
理不尽だって思っても、折れてやるしかないのさ。
しかも、兄貴はそれを『言い負かしてやった』って捉えるから質が悪い。
自分のこと『弁の立つ頭のいい人間』って思っているんだよ。
実際は、こっちが我慢してやってるだけなんだけど。
兄貴って、『情をかける奴なんか馬鹿だ』ってよく言っていたんだけど、一番その『情』に守られてきたんだよな。
『まあまあ、あの人はああいう人だから、大目に見てやって』
『仕方ないよね。あの性格は生まれつきなんだから』
『ちょっとムカつくかもしれないけど、我慢して』
こんな風にさ。
馬鹿にしていた『情』がなかったら、即座に切り捨てられるか、総スカンをくっていただろうに。
でも本人は気付かないから、悪循環なんだよ。
それが『普通』気遣われていると思っていない。
なんなら、そういう人に対して『ああいう奴らって生物学的に負け組だよな』とか思っている。
その『負け組』のお陰で立っていられているなんて考えちゃいない。
でも、当たり前だよなぁ。
気遣われていると分かった瞬間、機嫌が悪くなるのは目に見えている。
その場限りに付き合いって存在でもないし。
だから、みんな水面下でコッソリと気遣うんだ。
……ちょっと、滑稽で羨ましいよ。
そこに胡坐をかいて、生きていけるんだからさ。
きっと後、五年以上は『いつだったかの正月に、間違えて赤味噌使ったことあったよな。まあ、食えなくはなかったけど』って嫌味言われることになると思うよ。
しつこいんだ、兄貴は。
昔から、あんななんだ。
内弁慶で、変なところで頭がよくて『逃げ道』を用意して話をするし、最悪、怒鳴って黙らせればいいと思っている。
俺が高校生の時、付き合っていた彼女……あっ、今のカミさんね。
休日に彼女の誕生日プレゼントを買って家に帰った時、リビングで鉢合わせてさ、『彼女さんへの誕生日プレゼントか?』って聞かれたから『そうだよ』って返したわけ、そしたら――。
『誕生日は冥土の旅の一里塚ってね』って言ったんだ。
本当は、門松だけど。
今なら、この時点で『はいはい』って流せるけど、当時はムッとして言い返した。
『なに?俺の彼女に死ねって言ってんのか?』って。
だってそうだろ?誕生日に冥土の話だぜ?
兄貴、嫌な笑みを浮かべながら、こう言ったんだ。
『いや、俺は事実を言っただけだぜ?そんな風に捉えるってことは、お前が心の底でそう思っているってことなんじゃないか?本当は、新しいのに乗り換えたいんだろ?別れたら俺に馬鹿にされると思って我慢しているだけのくせに』
『んなわけねーだろっ!!』って返したら『そう言うしかないよなぁー』ってせせら笑うし。
『彼女がいる俺を妬んでる』って確信があったけど、そこまで言うとキレ散らかすのは分かってたから黙った。
兄貴の声ってデカくておまけに、よく通るんだよな。
自分の意見が認められるまで、物は投げるは、喚くはで、近所から苦情がきたこともあった。
親父が歳とって、体力が衰えてからは余計にさ。
今考えたら、完全に家庭内暴力だったな。
死人が出なくてよかったよ。
よく、こういったニュースで『家族がもっと早くに対処していれば……』なんて言う人がいるけど、そう言えるのは、対岸の火事だからだって思う。
『勇気を出して行動していれば』
『一人くらい、相談できる人がいたはず』
『自分だったら――』
俺も、そう言える人生を送りたかった。
案の定、『ほら、図星だろ?』って顔して自分の部屋に帰ったよ。
悔しかったなぁ。
あの時、兄貴は高三だったんだけど、『死こそ救済』『全ては無意味』みたいな哲学や小説にドはまりしてて、その影響もあったんだと思う。
一緒に映画を観に行った時も、予告で友情モノや恋愛モノが流れると『絆なんて無意味で下らない』『何が、この気持ちは本物、だ。馬鹿じゃねーの?そういうの心理学では――』みたいなことを、よく通る声で周りにも聞こえるように言った。
胃がキリキリしたよ。
『やめろよ』って言っても聞くはずないし、お客さんからは冷ややかな目で見られるし。
今は、スマホって必要不可欠だけど、あの時はなくて良かったよ。
SNSに書き込まれたら、たまったもんじゃないから。
え?なんで、一緒に映画を観に行ったのかって?
友達と一緒だと、文句が言えないからね。
映画が終わった後とかじゃなく思ったことは、すぐに吐き出したいんだよ。
家族がいると、その周りは『家』になるから。
……ごめんな。
本当は、兄貴の子供である君たちに、こんなこと言っちゃいけないんだろうけど。
君たち、お母さん寄りの性格だから心配でさ。
相手に合わせようとするっていうか、気にしすぎるっていうか。
人に合わせるって、大切なことだけど、兄貴にはやめとけ。
本当に、身がもたないぞ。
………………身内だと、難しいものがあるかもしれないけど。
さっきの映画の話だってそうさ、見終わった後、開口一番『つまんなかった~』って言って俺を気まずくさせたくせに、数年後に『あの映画、レンタルであらためて観たけど、やっぱ面白かったな』って言ったんだぜ。
あの時の胃がキリキリした時間かえせよって言いたくなったね。
というか言った。
予想通り『俺、そんなこと言ったか?』って返ってきた。
きっと、俺が兄貴よりも映画を楽しんでたのがムカついたってだけだったんだと思う。
その頃には、兄貴の中での哲学、小説ブームは終わっていたし。
兄貴、『自分の考え至上主義』の割に色んなモノに影響されるんだ。
それだけならいいけど、それで攻撃してくる。
『怨憎人の心根』って本、知っている?
前に、俳優が言って問題になったヤツ。
そうそう!『デルフィニウム殺人事件』の!
兄貴、めちゃくちゃ影響されてさ、『怨憎県のヤツは~』『これだから怨憎県は~』ってよく言っていた。
怨憎県に行ったこともないのに。
あの本もあの本で、『全ての怨憎県の人を指しているわけではありません』って巻末に小さく書くんじゃなくて、もっとドでかく、くどいくらいに書いといて欲しかったよ。
それこそ、表紙にさ。
影響されたって言っても、兄貴、本屋のポップを見たにすぎないし。
後、面白おかしく紹介しているテレビでの内容。
今でいうところの、『ロベリアチューブ』でまとめ動画やレビュー観て、自分では読まない。そんな感じ。
『そんなに文句を言うなら、兄貴も本出せば?政治だってテレビ見ながらよく批判してるじゃん?自費出版になるけど、最近は安く作れるらしいし、思いをまとめた本を出してみなよ。兄貴の考え正しいんだから、きっと著名な人の目にもとまってすぐにベストセラーになれるって』
心にもないことを言った。
案の定『いや……、それは、いい』って答えだった。
結局、小心者が憂さ晴らしをしているにすぎないのさ。
家族限定の。
『怨憎人の心根』って読んだけど、言葉の言い回しとかを揶揄しているのって最初の数ページくらいで、後は県の名所とか、食べ歩きが書かれている普通のガイド本なんだよな。
あの本の作者も、今ネットで色々言われているらしいな。
家族にまで被害がいったとか聞いたけど。
『怨憎県ブーム』は結構、長く続いたけど、大学で怨憎県の友人ができてからはパッタリなくなった。
『兄貴、あんなに怨憎県の人嫌っていたじゃん』って言ったら『そんなん言ったか?』って。
もしかしたら、兄貴は週一でUFOに連れ去られていて、記憶が消去されるチップでも頭に埋め込まれているんじゃないかと本気で疑った。
あまりにイラついたから『怨憎人の心根』って本にめちゃくちゃ影響されてただろっ!って言った。
そしたら『あー、そんな時もあったなー。俺も若かったし、多感な時期だったんだよ。そんな時にあんな本がでたら影響の一つも受けるだろ?』だってさ。
なんとまあ、だ。
結局、兄貴ってそういう奴なんだよ。
自分の考えが一番のクセして、いざって時は『この本にこう書いてあったから』『テレビがこう言っていたから』って何かの所為にできるようにしているのさ。
だから『謝って欲しい』なんて考えちゃ駄目だ。
きっと、『お前が悪いって』されるから。
『あー、はいはい、ゴメンゴメン(笑)』くらいは言えると思うけど、心の底からの謝罪なんてものは持ち合わせちゃいない。
謝るのだって、『これ以上、面倒なことになる前に取り合えず言っとこー』くらいのもんだ。
それ以上を求めると…………言わなくても分かるか。
◇◇◇
え?『お母さんが働きたいって言ったら怒った』?
それに、使ったお金の行方を事細かに聞いてくる?鉛筆一本でも?
たぶん、『自由になるお金があると逃げられる』って思っているんだよ。
母さんが、そうだったから。
へそくりでね。
結局、離婚じゃなくて別居に落ち着いたけど。
よく殴られていたから、仕方ないんじゃないかな。
今で言うDV。
当時の俺たちにとっては普通の光景だったから、あんまり気にしていなかったけど、今思うと庇ってやればよかったなって、申し訳なく思うよ。
ただ、兄貴は『妻はそうされて当然の存在』って思っていたんじゃないかな。
『嫌ならやり返せばいい』
『筋力や体格差を理由に逃げているだけ』
『弱い=貶しても構わない。むしろ、弱いのが悪い』
『押さえつけておいた方が、家族はまとまる』
『俺が一番正しいんだ』
『それについてこれない、お前らが馬鹿なんだよ』
そう思っていると思う。
結構、『これだから――』って言うんじゃない?
ああ、やっぱり。
あっ、話を戻すね。
……それに『養ってやっている』って言えなくなるし。
結局のところ、これが一番大きいんじゃないかな。
『俺の金で生活させてやっている』
『こいつらは俺の金が無ければ何もできない存在なんだ』
『金を出す見返りとして、暴言の百は吐いてもいい』
『だから、働くだなんて許さない』
……兄貴には、心で人を繋ぎ止める方法が分からないんだよ。
人様の生徒は、大事には出来るんだけどね。
言ってはいけないことを、わかってはいるんだ。
ただ、『家族』『身内』となると、途端にタガが外れる。
その点においては、人の愛し方を教えなかった、父さんと母さんの被害者とも言えなくはないかな。
『長男は教師になるべし。我が家は代々そうしてきた』って言われ続けてきていたから。
その分、甘やかされてもいたけれど……。
ああ、そんな顔して、同情したら駄目だぞ。
振り回されるから。
そして、本人は振り回していると思っていない。
『俺に合わせるのは当然だ』と思っている。
『自分とは相いれない存在』そう思うしかない。
……わかってくれたか?本当、心配だよ。
あっ、俺が言ったってこと内緒な?
この年になって兄弟喧嘩なんてみっともないし、約束な?
おしまい。
◆ep,210◆
「……幸せそうな嘘つき共、全員死ぬべきなんだよ!!」




