お話まとめ
作中に出てくる、昔話などを纏めたものです。
やはり、これだけ読んでも何のことかよくわからない仕様になっております。
ご注意ください。
覆水県後祭町の昔話
むかしむかし、覆水の後祭に小さな村があったそうな。
村はずれの祠には『豊穣の神さま』が住んでおって、村人たちにたいそう慕われておった。
たいへん心やさしい子供の神様で、よく村の子供達と遊んでおったそうな。
神さまのおかげで、村は毎年田んぼに黄金色にみのったいねがさわさわと風に吹かれておった。
村人たちも仲のいい者ばっかりで、お互いに助け合いながら笑顔で日々を過ごしとったんじゃ。
みんな、平和な暮らしがいつまでも続くと信じておった。
ある日のこと、山のように大きな大きな一匹の大蜘蛛が村にやってきた。
とにかくわがままなやつで、田畑は荒らす、牛や馬はなにもかも食うと、やりたい放題で手がつけられんかった。
おこった豊穣の神さまは、この暴れ者を止めようとしたが力及ばず殺されてしもうた。
次に、村の力じまんな者たちが退治に向かった。じゃが、一人も帰ってこんかったそうな。
村人たちは大蜘蛛をおそれ、生贄をだすことにした。
生贄は秋祭りの日のほかに、大蜘蛛のきぶんしだいでださねばならんかった。
ほとんどの娘と子供がいなくなり、あれだけ豊かだった村はどんどん元気がなくなっていった。
大蜘蛛はからからと笑うと言った。
「生贄がだせないならしかたがない。つぎの村を見つけるまで、大甕いっぱいの血を毎日わしのすみかまでもってこい」
なんて、むごい話じゃろうか。
村人達は、ほとほと困り果てておった。
そんな時、村に一人の男がやってきた。
なんでも豊穣の神さまの死の知らせをきき、大いそぎでやってきたんだそうな。
男は村人たちに連れられ大蜘蛛のすみかまでくると蛇の姿になった。
それは大蜘蛛よりも大きく頭から四本の腕をはやしひいろの瞳を持った白蛇じゃった。
白蛇はすみかから出てきた大蜘蛛としばらく睨み合った。
その様子を村人たちは遠くから見守った。
二匹のたたかいは、そりゃあはげしく三日三晩つづいたんだと、で最後は白蛇の吐いた炎をあびて大蜘蛛は叫び声とともにきえてしまったそうじゃ。
じゃが、はげしいたたかいで大けがをおった白蛇は、そのけががもとで死んでしもうた。
村人たちは、たいへん悲しんだ。そして、白蛇をまつる祠をたて、祭りをおこなった。
それ以来、村にわざわいがくることもなく、まえのような平和な村にもどったそうな。
「ふくみふるさと話」より
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子供の頃、読んだ絵本で、理想郷を探して何年も旅をしている兄妹の話があった。
その理想郷に行けば、どんな願いも叶うと言われており、兄妹は死んだ両親に会うために旅に出た。
山を越え、谷を越え、多くの人達と出会い、様々な試練を乗り越えながら二人は成長していく。
そして最後、旅の途中で猛吹雪に見舞われ、もはやこれまでと思った時、ついに理想郷の入口を見つけることができた。
両親とも再会でき、家族は理想郷でいつまでも幸せに暮らしました。
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むかーし、むかしの大昔。
とある山の中に、一つの小さな村がありました。
争いも病もない、とてもとても平和な村でした。
そんな平和な村に、一人の子供が産まれました。
子供は、お父さんとお母さん、そして優しい村の人達に大事に大事に育てられました。
みんな、子供のことが大好きでした。
子供も、みんなのことが大好きでした。
他の子供達と同じように。
子供が六つになった時のことです。
何日も何日も、冷たい雨が降り続きました。
止んだと思っても曇り空で、お日様は顔を覗かせてくれません。
そして、また雨が降り出す。
土はぬかるみ、病がはやり、平和だった頃の面影は、何処にもありません。
川は荒れ、作物は育たず、食べ物も底をつきそうです。
子供のお父さんは、食べ物を探しに何処かへ向かいました。
そして、そのまま帰ってはきませんでした。
雨は、ますますひどくなるばかりです。
お母さんも、食べ物を探しに家を出ました。
そして、そのまま帰ってはきませんでした。
雨は、しとしとと降り続いています。
「うーん、どうしたものか」
「このまま雨がやまなければ、みんな飢え死にしてしまう」
「生贄をだそう」
「誰がいい?」
寄合に集まった村人達は、腕を組み考え込んでしまいました。
ただ、答えはすでに決まっておりました。
「あの子でいいじゃないか」
「そうだな。ちょうど身寄りもいないし」
「……そういえば、まえに父親が山に入るのを見た」
「母親もだ」
少しだけ、血色のいい村人達が言いました。
その場にいた全員が、おどろいた顔をします。
「きっと、入っちゃいけない場所に入ってしまったんだ」
「もしかしたら、この雨が止まないのも……」
二人が山に入ったという証拠はありません。
雨が降り出したのは、二人がいなくなるずっと前からです。
しかし、そんなことはどうでもいいことでした。
みんな、この状況から抜け出したくて、ひっしだったのです。
早く神様に生贄を差し出さなければ。
しかし、家族の誰かがそうなるのは嫌でした。
自分がそうなるのも嫌でした。
だって、守るべき大切な家族がいるのですから。
村の為だ。
全てを悟った子供は、大人しく生贄となりました。
しかし雨が止むことはありませんでした。
村人達はみんな死んでしまい、村はなくなってしまいました。
それから長い年月が流れ、また新しい村ができました。
そんな村の片隅で、冬眠から目覚めるように子供は目を覚ましました。
ただ、自分がどこの誰なのかまったくわかりません。
子供には不思議な力がありました。
■■■■■■■■■■な力と■■■■■■■■な力です。
しかし何故そんな力を持っているのかは、子供自身にもわかりませんでした。
村の人達も、『気味の悪い子供』と遠巻きに見ています。
不思議な力を持つ、年も取らない不気味な子。
「早く何処かに行って欲しい」
「でも、変に突っかかって怒らせでもしたら」
「きっと、アイツは化け物だ。機嫌を損ねないように――」
子供もそれを察してか、村はずれの岩屋で暮らして居ました。
時折やってくる■■■■に「■■■■で■■■■■■?お前は■■■■■■■なのだから」と言われましたが、子供は首をたてには振りません。
幼い子供にとっては、この場所だけが全てだったのです。
それに、何故か離れてはいけない気がしていたから――。
ある時、化け物に襲われていた村人達を助けました。
「きっと、あなたは神様に違いない……!」
「本当に、ありがとうございます!」
「これからも、そのお力で村をお守り下さい!!」
村人達は、子供を祀る立派な祠を建ててくれました。
「あなたのお陰で、今日も平和です」
「村に近づく化け物は、みんな倒してくださいますし……」
「何の心配もせずに畑仕事に精を出せます!」
もう、子供を怖がる村人は一人もおりません。
「■■が■■■ました!」
「大きくなったら、■■■■■■■■■■くださいね!」
「今年も■■です!本当に■■■■■■!!」
そうして、何年も何年も、子供は村を守り続けました。
いえ、もう『子供』ではありません。
■■■■、そう、神様になったのです。
めでたしめでたし。
■■■
「今日も今日とて――<文字が掠れていて読めない>――な一日じゃ」
一人の村人が、歌うように独り言ちながら畦道を歩く。
それに合わせるように、春の風を受けた草花が優しく揺れている。
小さい、一つかみ程の村ではあるが、日照りに見舞われることも大雨に見舞われることもない――<文字が掠れていて読めない>――だ。
「これも――<文字が掠れていて読むことができない>――だな」
ふと遠くを見ると、子供が二人楽しそうに走り回っているのが見えた。
うち一人は己の娘である。
今年で十一になる可愛い娘。
もう一人の子供とは五つか六つ年が離れているので、走り回っていると言うよりは、その子が雛鳥のように後をついて回っている。
その微笑ましいさまは、まるで親子の様だ。
いや、子供の方はそれに近い感情を抱いているのかもしれない。
(あの子が来てから、もう三年くらいか……)
◇◇◇
粉雪が舞う寒い日のこと。
今よりも幼かったあの子を背負った母親がふらついた足取りで、この村へとやって来た。
貧しい身なりを気の毒に思った、村人の家の隣に住んでいる婆様がわけを尋ねると、『旦那が死に、親しい者たちからは騙され、家も財産も一切合財を失い、あてどなく旅をしている』とのことだ。
か細く嗚咽を漏らす母親を見て、婆様はますます気の毒に思った。
「可哀想にのぅ。今夜一晩、泊って行きなせぇ」
自然と、そんな言葉が口から飛び出していた。
『隣』と言っても、自分の家と婆様の家の間には少し距離がある。
婆様は、随分前に爺様を亡くして子供もいない。
一人暮らしが寂しかったのだろう。
もう一晩、もう一晩、もう一晩……、母子が婆様と一緒に暮らすようになったのは必定だった。
自分も含め、他の村人たちも二人を快く受け入れた。
母子も、穏やかでのんびりとした村の空気にすぐに馴染んだ。
仲の良い二人を、村人の娘は羨ましそうに眺めていた。
村人の母親は産後の肥立ちが悪く、娘を生んですぐに亡くなったのだ。
それを察してか、母親は娘に大層よくしてくれている。
婆様が亡くなった後も、母子は隣の家にいた。
◇◇◇
(いつの間にか、大きくなったもんじゃ……)
枯れ枝のように痩せ細っていた頃があったとは思えないくらい、元気に駆け回るその子を見て、自然と涙ぐむ。
「あっ、おとうだ!」
「おーい!」
こちらに気が付いたのか、二人は大きく手を振った。
振り返そうとした手が、ハタと止まる。
二人の後ろに、――<文字が掠れていて読めない>――。
それは、この村の神様だった。
自分が生まれるずっと前から、村の外れの祠に住んでいる神様。
しかし、塞の神なのか山の神なのか、はたまは――<文字が掠れていて読めない>――か、ハッキリと知る者はいない。
わかるのは、優しく勇敢な神様であると言う事だけだ。
そして、見た目に反してとても強い。
村人たちは、絶対の信頼を寄せている。
(でも、そう言い聞かされてきただけで、『神様』なのかは――)
そこまで考えて、首をブンブンと振る。
自分は一瞬とはいえ、なんて罰当たりなことを考えてしまったのだ。
それこそ、天罰をもらってしまう。
どのような存在であれ、『神様』のお陰でこの村が――<文字が掠れていて読めない>――なのは間違いないのだ。
それに、ああして子供たちに混ざって遊ぶ姿は、何とも微笑ましい。
老若男女問わず、守って下さる。
この間も、○○の家に子供が産まれたことを、とても喜んでいた。
(それで、いいじゃないか……)
もとより、小心者で考えることが苦手な村人は、そう自信を納得させる。
(この――<文字が掠れていて読めない>――がずっと続くのなら……)
「おーい、楽しそうだなー」
中途半端に止めていた手を、大きく振った。
自分の中に芽生えた『何か』を、振り払うように。
それから一年、あの日の考えが取り越し苦労だったと安堵するような――<文字が掠れていて読めない>――が続いた。
大粒の雨が降り注いでくる、あの日までは――。
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「なんじゃあ?ありゃあ……」
「ひえええぇ、ば、化け物じゃ……」
「――<文字が掠れていて読めない>――様、どうかお助け下せぇ……」
「お願ぇします。どうかどうか……」
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「あ、ああ、なんて事じゃ、――<文字が掠れていて読めない>――が……」
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「これから、一体どうしたら……」
「もう、――<文字が掠れていて読めない>――の所為で畑は滅茶苦茶だ」
「……」
「……」
「仕方ない。い――<文字が掠れていて読めない>――」
「そうだな。そうしよう……」
「でもよぅ、誰にすんだ……」
「…………」
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「可哀想じゃが、仕方ねぇ……」
「許せ」
「これできっと、元に戻る」
「その筈じゃ……」
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「また、――<文字が掠れていて読めない>――を寄越せって」
「…………仕方ない」
「次は誰だ」
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「おかあ、お腹空いたよぅ……」
「どうしよう、どうしよう!このままじゃ……」
「このまま乳がでないと、この子は……」
「おい、もう息は……」
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「こんな生活、いつまで続くんだ……」
「『神様』が負けさえしなければ」
「そうじゃ、アイツの所為じゃ……!!」
「これ、滅多なことを――」
「でも、本当のことだろう?」
「…………」
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「本当は、アイツも――<文字が掠れていて読めない>――の仲間なんじゃねぇのか?」
「でもよぅ、今は石にされちまったんだぞ?」
「んだんだ」
「仲間割れさ。――<文字が掠れていて読めない>――を分けるのが惜しくなったんだ」
「…………!そ、そうか」
「ああ、皆を油断させて機会を狙っていたんだろうさ」
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「なんでぇ、『神様』じゃなかったのかよ」
「そうだそうだっ!この役立たずがっ!!」
「へっ!仲間に裏切られるなんて世話ねぇなぁ……!!」
「当然の報いじゃ」
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「子供を返せっ!」
「田を返せっ!!!」
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「あん?誰だおめぇさん」
「ははは、できるもんならやってくれよ……!」
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「なんと、――<文字が掠れていて読めない>――が灰になった……」
「やった……。これで、終わったんだぁ」
「あれ?何処さ行った?」
「消えちまった……」
「――<文字が掠れていて読めない>――ってとこに帰ったのか?」
「で、でも、あの傷じゃあ……」
「ああ、そんなっ!!」
「ありがとうございます!ありがとうございます!!――<文字が掠れていて読めない>――様っ!!」
「貴方様こそが、本当の――<文字が掠れていて読めない>――です!」
「子々孫々まで、貴方様のことを語り継ぎましょう……!!」
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『魔法少女・エラ』
意地悪な継母と継姉たちにいじめられていた少女・エラが、ひょんなことから『物を灰やガラスに変える事ができる力』を手に入れて無双する話。
触れた物をお菓子に変える力を持つ幼い兄妹や毒林檎が大量に詰め込まれたガラスケースを振り回すお姫様、オオカミの毛皮を纏った超駿足の赤ずきんを仲間に引き入れ、最終的には全宇宙を掌握するというオチだった。
朝のアニメの割にショッキングなシーンが多く、テレビ局に苦情がきたこともあったそうだ。
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ご興味のある方はぜひ後祭町にお越しください。
2024年 3月某日 後祭白蛇火祭り実行委員会