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第8話  祈煎  白磁器と青磁器では・・・?

「いつから?この状態なのですか?」


深夜ということもあり、ルリーアンジェはレイビオンに導かれて、誰にも見つからないようにそっと屋敷に入った。


レイビオンの妹君は眠りの中にいた。

昏々と深い眠りの中に。


「もう何年にもなる。妹は、母が亡くなった時から、そのままの状態で眠り続けているんだ。」


「そのまま?」


「ああ。」

そう言ってレイビオンは妹のベッドの向かい側に立った。

「妹は、いくつに見えるか?」


「まだ、幼い御歳のようですが」


「そう、そう見えるだろうな。だが、妹と俺は、三才しか年が違わないんだ。」


「え?」


ベッドに横たわっている幼い少女から目を離せずに、ルリーアンジェの頭の中にレイビオンの言葉が反芻される。


「妹は、幼い頃、命を落としかけたんだ。だが、母の祈りが天に届いて命を繋ぐことができた、と母はよく言っていた。しかし、母が亡くなった時、妹は昏睡状態に陥り、それから幼い姿のまま目覚めない。」


「ずっと、ですか?」


「ああ、ずっと、だ。

俺は妹が目覚めるために、ありとあらゆる手段を講じた。

だが、どんな名医も妙薬も効果は無かった。

そのうち、年齢を重ねても容姿が成長しない妹の姿が周りに奇異に映りだすのは目に見えていた。

だから。」


「こちらに、お移りになられたのですね。妹君を世間から秘するために。」


「ああ、幼い頃から仕えてくれている信用のおける者達とともに妹を隠したんだ。」


レイビオンはベッドの側に膝をついて、妹の頬を優しくなでた。


「俺は、妹を、決して諦めない。」


「双頭花のことはどうやって、知ったのですか?」


「母がここで亡くなって、妹が倒れた時、俺はまだ力のない子どもだった。

だが、俺は何か、妹のために何かをなしたかった。

俺は母がよく祈りを捧げていた、聖湖のアンビリカスに船で渡って祈りを捧げようと思った。

その時、」


レイビオンはふと何かを思い出したかのように顔を上げると、ルリーアンジェの方を向いた。


「そう、銀色の髪の琥珀色の女性がそこに居た。

侯爵家の人間以外は立ち入ることのできないはずのあの場所に。

私は驚きを隠せなかったが、それよりも私より先にアンビリカスで祈りを捧げていたその女性の姿に敬虔な力を感じて見とれていた。

あれは、夢だったのかと今でも思う時がある。だが。」


ルリーアンジェはレイビオンの話を聞くうちに、自分の中の何か、心の奥底に沈んでいる何かがざわざわともがき始めたかのような感覚に掴まりそうな自分を感じていた。



【その人は祈りを捧げ終わると立ち上がって、私に気付いた。

そして、言ったんだ。


『あなたの妹の命はこの地を離れようとしているのね。

ルクステネブラエは光と闇の交差する処。

母の慈愛によって繋ぎ留められいた命は、もはや拠り所を亡くし天に帰るしかないのだわ。』と。


俺はその人に膝をついた。


「お願いです。どうか、どうか妹を助けてください。妹を。」


その人は泣き叫ぶように懇願する俺を暫く見ていたが、やがて、俺の手を取って立ち上がらせた。


『命があればよい?それだけで?』


「はい。」


俺はその人に縋るしか、妹を救う術はないと本能的に感じていた。


そしてその人は俺に小瓶を渡した。

中の茶葉を煎じて飲ませなさいと。そして彼女は立ち去る前にこう言った。


『私にはこれ以上のことはできないの。ごめんなさいね。私の力には限りがある。

次の花が咲く時・・・。

・・・私の力の効力は失われる。

もし、あなたが”その人”なら』


不思議としかいえないが、その女性の周りに光の渦が集まり、その姿がふわりと浮き上がって透けるように消え始めた。


「待って。待って。」


俺は必死にその光を掴もうとしたが・・・。


『次の花・・咲く・・・飲ま・・・せて。今度は・・・光の・・・』


手を伸ばした先の光が彼女と共にすっと消え去る瞬間、彼女の最後の言葉が俺の耳に木霊した。


『探して。双頭蓮の花・・・月の・・・愛しい・・・・』        】


レイビオンが話し終わった時、ルリーアンジェは自分の身体が小刻みに震えていることに気付いた。


何故私はこんなに驚いているのだろう。

いいえ、この衝撃は何?

今の話。常識の範囲内では荒唐無稽なこの話を、私の中の理性ではなく心が、もうすでに信じているのは何故?

コントロールできない感情に私自身が蝕まれるのを制御できない。

震えがとまらないのは何故?


「そなたは。」


はっと気付くと、レイビオンがルリーアンジェの側に立ち彼女の手首をつかんでいた。


「なぜ、そなたはあの茶葉を持っていたのだ?

俺に送り付けてきたあの小瓶に入っていた茶葉を。」


「?」


ルリーアンジェはレイビオンの顔を見る。


「あの時、妹の命を救ったあの茶葉。そして命が妹の時を贖った、俺が妹にかけてしまった花の呪い。あの人がくれた茶葉は、そなたが持っていた小瓶の茶葉と同じものだった。」


レイビオンは青ざめたルリーアンジェから目線を逸らさず更に追い詰めるように問いをぶつけた。


「何故、そなたが、持っていたのだ? 


・・・双頭蓮の花の・・・茶葉を!」



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