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第5話 供煎  茶瓶はお取り扱い注意ですわ。

「ようこそ。お客様。ご注文は?」


店の主が注文を取りに来たが、この男が手紙の主か?

レイビオンは探るような眼でこの壮年の男を値踏みする。

いや、あの手紙は女の書いたものだ。

では、その女はどこにいる?

店内を見回すが、これといって目につく者はいない。


「湖の雫は何色をお好みに?」


店主の言葉にはっと向き直る。

店主が穏やかな笑顔で自分を見つめながら、返事を待っているのに気づき、レイビオンは胸がとくんと心を打つのを感じた。


あかだ。あかの茶をくれ。」


レイビオンの言葉に店主はコクンと頷いた。

「かしこまりました。少しお待ちください。」

少ししてから、店主はトレイに載せた茶器を持ってきて、レイビオンの目の前でポットからお茶を注ぎ始めた。レイビオンの鼻孔が温かい香りに包まれる。

「これ、この香りは。」

「どうぞ、お召し上がりください。」

そう言うと店主は店の奥へと戻って行った。


レイビオンはティーカップを手にすると、そっとカップの中身を口にする。

そうなのか。

これが、本当に。

「あのお茶だ。間違いない。」

一口目が喉から染みわたり体の細胞の扉をそっとノックするような。

二口目からは、ゴクゴクと飲み干すと身体の隅々まで安堵の吐息をつくかのように、じんわりと心に温かさが沁みこんだ。


「店主。」

レイビオンは店主を呼ぶ。

「このお茶は店主が?」

「商売機密でございます。ご容赦ください。」

ジルマイトはへりくだりながらも質問には答えない。


レイビオンは胸元から、あの日届いた手紙を取り出して、店主に渡した。

「この手紙を書いた者を呼んでくれ。私は、その者に、ここに来るように言われたのだから。」


ジルマイトは、レイビオンから受け取った手紙を開く。

お嬢様の字体だな。それでは、やはりこれが例の客人か。


 『 特別な紅い花をお探しでは? マラーケッシュの白猫にお尋ねになられてはいかが? 』


手紙を読んだジルマイトは、いかにもお嬢様らしい手紙だな、と笑いが込み上げるのをこらえて、神妙な顔つきを崩さないように言った。

「この手紙の主から、預かっております。」

ジルマイトはルリーアンジェに託された小箱をレイビオンに渡した。


小箱に飛びついて、中身を取り出すレイビオンをジルマイトは鋭い目つきで見つめた。

目の前のこの若い男は、自己の憤懣を隠そうともしない、高位貴族である立ち振る舞いと傲慢さと優雅さのカオスのようなこの男は、お嬢様の手紙の言葉だけで、手紙を読んだ次の日の夕方にはこの店を突き止め訪ねてきた。

どれほどの情報を張り巡らしているのか、と窺える動きの早さだ。

お嬢さま。あなたの身が案じられますぞ。


「またか!」

小箱の中身を確認したレイビオンが大きな声を出して、怒りを露わにした。


「この手紙の主は、何を考えているんだ!」


怒りを言葉で発散させると、ふうっと大きくため息をついて自分の気持ちを落ち着かせているのか。

小箱の手紙を掴んで勢いよく立ちあがって言った。


「店主。馳走になった。代金をここに。」

 彼はルベラ金貨を一枚テーブルに置く。


「いえ。お代はいただかないようにと仰せつかっておりますので。」

「それでは俺の気がすまぬ。どうしてもというのならば、そうだな、どこそかで振舞い茶にでもして使ってくれ。」

彼からは先ほどの怒りの表情は消えていた。

そして、おおらかに笑いながらレイビオンは言葉を残したままもう振り返らずに、店を後にした。



「マイロード。ご用件はお済で?」


レイビオンは店の前で馬番をしていたマルティから馬を受け取り、飛び乗った。


「帰るぞ。」

「は?」

「ルクステネブラエ。手紙の主はそこに居る。」

「え?では、なんのためにここに?」

「さあな。それは手紙の白猫に直接聞く。とにかく、もう逃さない。行くぞ。」


レイビオンは一目散に馬で駆け出した。

エーリガント帝国リントヴェルム侯爵領管理地 聖なる湖ルクステネブラエに向かって。



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