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茶酵令嬢双書ルミューリア編☆第1章 ルミューリア・ステラクス・アンゲフォース 第26話 逅煎(壱連) 宵の明星は微笑む・・・

「レイ。あなた、まだ傷が治ってないでしょ?」


「うーん。大丈夫。」


「もう。また、すぐそう言うんだから。無理しちゃだめだっていつも、あ、きゃあっ。」


「ほら、僕にしっかりつかまって。」


レイビオンは馬の手綱をぎゅっと持って軽く引いた。


彼は自分の前に乗っている彼女の身体が少しバランスを崩しそうになるのを、自分の左手を添えて支えると、

「大丈夫?」

と言いながら、自分のすぐ側に居る彼女の華奢な肩を見つめた。


馬に横座りで乗っている彼女が、身体を少し反らしてレイビオンの方を見上げる。


「レイ。今の、わざと、でしょ?」


彼は、少し口をとがらせて自分を見上げる彼女の瞳に自分が吸い込まれそうな気がする。


「さあ、どうかな?」


それだけ言うとレイビオンは、彼女を包み込むように自分の両腕を回して手綱をグイっと引いた。


馬が大きく前足を上げた勢いのまま、彼女はレイビオンの腕の中に、その懐にすっぽりとおさまった。


彼の胸に彼女の頬が触れる。


「ルミューリア。僕のミア。つかまっていて。」


彼女はレイビオンの背中にそっと手を回して、彼の胸にぎゅっと頬を寄せる。


二人を乗せたレイビオンの愛馬デューは思い切り駆け出した。  





光の雫が連なったかのようにクリスタルがかすかに揺れながら、シャンデリアの光は艶やかに大広間を照らしている。


優雅に着飾った紳士、淑女たちがたわいのない会話の波の中を泳いでいる。


そして、また新たに会場に到着した家門の名が呼びあげられ、大扉が開くと、広間に続く大階段をゆっくりと降りる彼女がいた。


広間にどよめきとざわめきが広がる。

「あれが、例の?」

「おそらくは、次代の?」

至る所でひそひそと交わされる会話が止まらない。そして、称賛もまた。

「なんて美しい。

「宵の明星と呼ばれるだけのことはある。」




シルバーブルーのドレスには星屑のようにクリスタルビーズが散りばめられ、シャンデリアの光に反射して輝くばかりに煌めいている。


マーメイドスタイルのドレスはシンプルで上品でありながらも、使われている繊細なレースと重ねられたフリルが艶やかさを醸し出している。


胸元のネックレスはブルーダイヤモンドと真珠を組み合わせて職人が技巧を凝らした作りになっており、彼女が一段一段と階下へ足を踏みだす度に、そのネックレスと対のイヤリングが輝きを放ちながら彼女の耳元で揺れる。


そして彼女がパートナーである兄と共に階段を降り切って、広間の中央に足を踏み入れると、たくさんの男女が彼女の元へ近寄ってきた。

誰もが我先に彼女に、と構えた瞬間その場に声が響いた。





「ルミューリア嬢。」


いつのまにか(そこ)に居て彼女の前で頭を下げ丁寧な礼を取っているその男性に、会場の全ての注目が集まっていた。


レイビオン・ルクディス・リントヴェルム。


隣国エーリガント帝国・リントヴェルム侯爵家の嫡男である彼は、今回、帝国からマラーケッシュ公国への賓客としての立場で公国(ここ)に滞在中だった。


それ故もあってか、ルミューリアの周りを囲んでいた多すぎるほどの貴族達の誰もが、レイビオンを認識するとその場から後ずさりして、彼女の周りから人の波が引いていく。


そして、レイビオンは礼をとった頭を上げながら、柔らかな微笑みを彼女に向けながらと手を差し伸べた。


「私と、最初のダンスを踊っていただけますでしょうか。」


ルミューリア・ステラクス・アンゲフォース。


マラーケッシュの宵の明星と謳われる彼女は、艶やかな微笑みを浮かべながら、差し伸べられた彼の手にゆっくりと自分の手を置く。


彼は彼女の方を見上げながらまっすぐに彼女に向き合うと、自分の手の中の彼女の手をそっと持ち上げる。


そして一瞬、彼の紫色の瞳が彼女の琥珀色の瞳を捉えると、彼は彼女の手の甲にそっと唇を当てた。



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