何に迷ってDMをくれたんですか?
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「実は一時間後に、さっそく女の子が一人面談しにくることになったんだ☆」
と、金髪美少女 兼 株式会社V-DREAMERS代表取締役CEO・高山愛里朱がテヘペロをしてから、ジャスト一時間が経った頃だった。
時刻ぴったりに、我らが事務所のチャイムが鳴った。
「あ、いらっしゃったっぽいっ! 佐々木さん! お出迎えして!」
高山愛里朱が、ハッとしたように顔を上げて俺に指示する。
俺は困惑した。
「え、俺!? い、いいけどさ……事務所に関わって一日目の俺より、代表のお前が出迎えたほうがよくないか……?」
「そんなことないってー! ここはビシっと大人の人が出たほうが見栄えいいからっ!」
「そうかなあ……。……っていうか、愛里朱社長、いま年齢おいくつな──」
「ほらほら、お客さんを待たせちゃダメだって! わたし、撮影スペースに面談場所整えておくねっ!」
高山愛里朱はもこもこの白いカーペットから立ち上がると、隣の部屋へ消えて行った。
声だけが、俺へと飛んでくる。
「自信持ちなってーーっ! 佐々木さんのVコス可愛いし! VTuber好きが見たらぜったいテンション上がるって! 第一印象最高! 可愛いは正義!」
「お、おう……? そうだな……」
言われてみればそんな気がしてきた。
女装コスした俺が非常に可愛いのは事実だしな。
たしかに、訪問者が喜ぶ未来しか見えない。
まあ、代表にここまで言われたなら、断る必要はないか!
「……あ、あー、刮目ーー、刮目ーーーーぅ……」
マク様の挨拶の発生練習をしながら玄関まで歩き、自信満々に、意気揚々と扉を開けて出迎えた。
「ようこそ迷える子羊よッ! 刮目せよーーっっ!!」
「──やっぱ地雷じゃねえかよぉぉおおおお〜〜〜〜っっっ!!!」
そして女の人に絶叫されたってわけ。
もう辞めようかなこの仕事。
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「驚かせてしまって大変すみませんでした……」
事務所内。撮影スペース。
防音素材で覆われた黒い室内で、折り畳み式の会議室用テーブルを挟んで高山愛里朱が謝罪した。
「ほら、佐々木プロデューサーもちゃんと謝って」
「……かつもく……」
俺は弱々しく唱えながら深々と頭を下げた。
理不尽に打ちのめされていたし、罪悪感から心からしょんぼりしていた。
「いや、逃げようかなって本気で思いましたよ……」
訪問者の女性は、ため息をつきながら訝しげに俺たちを眺めている。
訪問予約してくれていたVTuber、黒縁ぐらす氏は、いかにも文学女子、イラストレーター女子然とした落ち着いた格好をしていた。
茶色くて厚めのボブカット。
今の時期にふさわしいニット生地の半袖服。薄手のカーディガンを羽織っている。頭には、赤いベレー帽も乗っていて、いかにも感はこれのお陰だった。
VTuber名にたがわぬ真っ黒くて太い縁の大きなメガネをかけていた。
「VTuber事務所の扉を開けたら、他の会社さんの人気VTuberのコスプレをした女顔の美形成人男性プロデューサーと、金髪美少女の社長が出てくるとか……ちょっと狙いすぎてるっていうか、仕組まれてる感がすごいっていうか…………」
「「いやぁ、美人なんて、それほどでも……」」
「褒めてねえんだよな……趣旨的にはな……」
後頭部を手でかきながら絵に描いたように照れた俺と高山愛里朱。
黒縁ぐらす氏は厳粛なトーンでつっこんできた。さすが配信者だ。
「こほん。ともかく、今日はようこそいらっしゃいました!」
高山愛里朱は眩しいばかりの笑顔で言った。
「初手で訪問してくださるなんて嬉しいです。VTuberさんですし、時代も時代なので、まずはオンラインミーティングかなって思ってましたよ」
「はあ。まあ、私も元は普通に勤め人だったので……」
「どこで弊社を知ってくれたのかとか、所属を検討してくださった理由とか、聞きたいことは山ほどあるんですけれど。早速ですが、何よりも優先してお伺いしたいことが一つあります」
にこり、と。
高山愛里朱は人差し指を立てて微笑んで言った。
「何に迷ってDMをくれたんですか?」
「迷い……ですか?」
黒縁ぐらす氏は、茶色い前髪の奥、黒い眼鏡の奥から、愛里朱を見て呟いた。
「そうです。ほら、VTuberって、別に一人でも活動できちゃうじゃないですか」
俺まで驚いた。
高山愛里朱は笑顔で、VTuber事務所の存在意義を完全否定するようなことを切り出している。
「ぐらす先生さんみたいに、ご自身でイラストを作れたり、LIVE2Dを組めたり、アニメ制作や動画編集までできる方ならなおさらです。それなのに連絡をくれたのは、きっと何かに悩んで……迷っているからじゃないですか?」
いささか強引な決めつけにも思えたが、黒縁ぐらす氏は黙って聞いていた。
心当たりがあるのだろうか。
「VTuber事務所は、一人でも活動できるはずの個人が、集団で活動している奇妙な組織です」
高山愛里朱は続ける。
「わたし達はVTuberさんの足を引っ張りたくない。一人でも問題のないVTuberさんから搾取をしたくない。……だから、所属云々のお話をする前に、V-DREAMERS自身が黒縁ぐらすさんのお役に立てるのか、迷いを解決させていただくことで見極めてほしいんです」
なんだろう、妙に実感がこもっている気がする。
まるで高山愛里朱という人物の本質に、何か関係があるような。
そう、聞き覚えがあるんだよなあ。この声。
彼女の正体を、俺もまだ知らない。
「……ちなみに、相談料を請求されたりとかは?」
「もちろんナシです!」
黒縁ぐらす氏の慎重な質問に、高山愛里朱は明るい声で答えた。
「どんなお悩みでも、謎の美女装コスプレ天才プロデューサーの佐々木さんと、経歴不明の謎のキレキレ金髪美少女社長の私が、まるっとバッチリ解決してみせますからっ!」
「「怪しっ」」
信じられないことに俺と黒縁ぐらす氏の声が被った。
直後、黒縁ぐらす氏が「お前も怪しんでるのかよ」と言わんばかりの顔でこちらを見てきたが、だって仕方ないじゃないか、怪しすぎる表現だったんだから……。
「はあ……。まあ、話すだけで、タダなら良いかもですねえ」
黒縁ぐらす氏は静かに語り出した。
「それじゃあお言葉に甘えまして……、わたしの迷いをお伝えします」
すっと取り出したスマートフォンを会議室用のテーブルに乗せて、黒縁ぐらす氏は言った。
「……YouTubeチャンネルが伸び悩んでいまして……」
V-DREAMES、最初の面談が始まっていく。
今回も読みいただきありがとうございます。
VTuberに限らず、いまはあらゆる職業がフリーランスの時代です。
彼らを束ねる事務所の存在意義って、難しいですよね。
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