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獅子奮迅



「……なるほどね。王社長が、そこまで横暴をやっているとはな……」


 俺は獅紀しきチサトから、俺が退職した後のキングスの大まかな顛末てんまつを聞いた。


 ひどい話だった。

 俺が解雇になってから、Vライバーたちは意気消沈して業績を悪化させてしまったらしい。

 それに激昂した王社長は、成績の奮わないVライバー達をキングスの社外に追放したというのだ。


「佐々木マネージャー。どうして、会社を去ることを自分に何も言ってくださらなかったのですか?」


 黒髪を後ろでスポーティにまとめた、化粧っけのない高校生のような少女。

 さきほどまでぐずぐずと泣きながら近況を話していた獅紀チサトは、赤く腫れて潤む瞳でまっすぐに俺を射抜きながら、咎めるように言った。


「……仰っていただければ、自分は迷わずマネージャーについていきました。きっと、お力になれたはずです」


「……すまない。心の整理がつかなかったんだ……。それにさ、辞める時点では次の職場なんて見当もついてなかったんだよ。無職になる予定だったからな。誘うのも厳しかったと思う」


 むすっとした表情で、獅紀チサトが俺を睨む。


「……無職になる予定だったのに、今やV-DREAMERS(ブイ・ドリーマーズ)なる企業への栄転に成功し、そうして貴婦人になっておられるのですか」


「──いやこの格好、金持ちだからしてるわけじゃないからね!?」


 心外ですわ!?


「む……。成金趣味に目覚めたために、このような庶民の憩いの場で財力を見せびらかしているわけではないのですか」


「お前が男嫌いだから女装してるんだろうがっ! 喉仏見せますわよっ!?」


 まあお給料は上がってしまったのですけれど、わたくしまだまだ一般人ですわ。

 話を戻そう。


「……それでチサト。君自身の状況は?」


「はい。恥ずかしながら自分も、キングスから追放された身です」

 獅紀チサトが悔しそうに唇を噛んだ。

「チャンネル登録者17万人……。数字でオーロラの先輩達に及ばない自分が、『足切り』の基準とされました。自分よりも登録者数の少ないVライバー達は全員、社外に所属変えされています」


「登録者17万人で追放ねぇ……。さすが王社長、理想が高い」


「自分はこれでも戦士の端くれです……。規則には潔く従うつもりでした。獅子奮迅ししふんじんして力をつけ、正式な方法で本隊に帰還させていただこうと思っていたのです」


 戦士とか、本隊とか。

 チサトはすっかりVの設定にのめり込んでいるなぁ……。


 彼女は本当に「ド」のつく実直人間なので、嘘をつくとか、演じるとか、そういう絶妙なバランス感覚が要求されることはできないのだ。


 元が武人気質な「武道家少女」だからか、生真面目で努力家な「神域の兵長」という設定がマッチしたのかもしれない。

 Vライバーとして配信するうちに、本当に魂がVと融合してきているような印象を受けた。


「──しかし、真っ当な訓練を積むにはあまりにも……」

 獅紀チサトは、辛い記憶を思い出すかのように両目を歪める。

「……あまりにも、移籍先の環境が劣悪だったのです」





 獅紀チサトが追放された先は、王社長の部下である兵吾ひょうご逸平いっぺいが運営する事務所だった。


 兵吾は、王社長や金城かなしろと共にオーロラ・プロダクションの事務室にやってきたという、毳毳けばけばしい柄モノのスーツを身にまとい、銀髪にパーマをかけた業者風の若者だ。


「兵吾逸平は、23歳にしてベンチャー企業を起こした若手起業家です」


 獅紀チサトが年上を呼び捨てにするなんて珍しい。

 彼女が義憤にかられるような、よほどの事情があるのだろう。


「起業にあたっては、さまざまな投資家から資金を募ったのだと、ことあるごとにライバーやスタッフに自慢をしておりました」


 その主な事業は、VTuberや読者モデルのマネージメントであるらしい。


 自社で演者をスカウトしてVTuberを立ち上げることもあれば、キングスのような外部から、タレントの養成を請け負う受け皿になることもあるのだとか。


「なるほど。それで、彼の事務所の環境が良くなかったと?」


「良くない、などという生優しいものではありません。……兵吾逸平の事務所は、まるで現代の姥捨山うばすてやまです」


 曰く、兵吾逸平らは、タレントに()()()()()()()()()()らしい。


 移籍したVTuber達は生殺しにあっている。

 機材の提供や、配信の手伝い、チャンネルの分析、タイアップ案件の営業はおろか、最低限の連絡の返信すらまともにしてもらえていないのだとか。完全な放置状態だ。


「ふむ……。私物の機材で配信させているっていうのは流石に酷すぎるけれど……。他については正直、昔のオーロラも近かったよな」


「いいえ。大違いです。かつてのオーロラも拙くはありましたが、『内部』の皆様は常に真摯な努力をされていました」


 獅紀チサトが力強く言う。


「かつてのオーロラで改善されたのは、あくまで『外部』でした。事態が好転したのは、佐々木マネージャーのこの世の物とは思えない気の狂い方による行動量と、和寺わじ部長殿の予算交渉による『外部』の変化があったからでしょう」


「ありがとう。努力を褒めてくれて嬉しいよ。でもチサト、いま俺のこと凄い言い方しなかった?」


「その点、兵吾逸平の事務所で腐っているのは『内部』なのです」


 ライバーの支援をせずに兵吾達が何をしているかといえば、日々、遊び呆けているらしい。


「日中はろくに働かずに事務所で仲間とたむろしている様子しか見ていません。夕方になると全員が……馴染みの高級な……その……よ、よ……夜のお店にっ、入り浸るばかりなのです」


 キャバクラのことを言いたいのかなぁ?

 会社全員で連れ立ってキャバクラよりアレなお店に行くとは考えずらいし。


「何度抗議しても『検討するから待ってろ』の一点張りでした。時間が経つあいだにも、兵吾逸平らは新しいVTuberをデビューさせては、放置するを繰り返しているのです。そして遂に……恐れていた事態が起こってしまいました」


 ──兵吾たちの下に追放されたオーロラのVTuberが、倒れたそうだ。




 今回も読みいただきありがとうございます。


 獅紀チサトは恋愛に超絶疎いので、配信ではリスナーに揶揄からかわれてそうですね。

 下ネタとかどうさばいているんだろう……。


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