体育会系VTuber「獅紀チサト」の場合
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「佐々木さん、いくらメンバーが欲しくても、引き抜きはダメだよぉ!?」
「わ、分かってるよ! っていうか……チサトはどうやって俺の居場所を特定したんだ……?」
高山愛里朱に念を押されつつ、俺は獅紀チサトとチャットを開始した。
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獅紀チサト
【佐々木マネージャー、ついに貴方を発見したかもしれません。】
佐々木蒼
【チサト。】
【未読無視していてごめん。久しぶり。】
獅紀チサト
【佐々木マネージャー。】
獅紀チサト
【佐々木マネージャー。大変、ご無沙汰しています。】
【いまどちらにいらっしゃいますか。】
佐々木蒼
【ごめん、その前に教えてくれる?】
【チサトはどうやって俺の勤め先を知ったんだ?】
獅紀チサト
【@GlassKurobuchi_Otsugurasu~】
獅紀チサト
【この方が、配信で仰っていました。】
【V-DREAMERSなる素晴らしい事務所で、VTuberの女装をした天才コンサルタントに相談にのってもらったと。】
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「ぐらす先生……っ! いい人かよぉ……っ!」
俺は顔を振って、ぎりり、と歯を噛み締める。
「宣伝してくれたんだねぇ。善意が裏目に出たね」
高山愛里朱は、あはは、と苦笑した。
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獅紀チサト
【佐々木マネージャー。】
【いまどちらにいらっしゃいますか。】
佐々木蒼
【ごめんね。場所は言えない。】
【どうしてチサトは俺のことを探しているの?】
獅紀チサト
【それは、】
獅紀チサト
【それは、当然です。】
【佐々木マネージャーはオーロラ・プロダクションに必要な人ですから。】
獅紀チサト
【それに、】
獅紀チサト
【それに、】
獅紀チサト
【申し訳ありません。】
【やはりいちど、お会いできませんか。】
【どうしてもご相談したいことがあります。】
獅紀チサト
【後生です。どうか、よろしくお願いいたします。】
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「参ったなぁ……」
俺はうなだれた。
「いやぁモテモテだねぇ! 佐々木マネージャーさんっ!」
高山愛里朱は、発言のわりに、真面目な面持ちで言った。
「佐々木さん、オーロラでも優しい人だったんだねぇ。タレントさんがマネージャーを追いかけてきてくれるなんて並大抵じゃないよ?」
「ありがとう。いやぁでも、本当に、すごく悪いことをしてるなぁ……」
俺は苦笑する。
ちょっと本当に泣きそうだった。
──無力感と罪悪感で。
五年間。一緒にエンタメ業界を駆け抜けてきたVライバー達。
彼女たちを置き去りにして、俺はキングスを去るしかなかった。
別れの言葉も見つからなくて。
辞めた後の自分が定まらなくて。
退職の連絡もせず、連絡も見ずに、悲劇に逃げてきてしまった。
──そりゃあ、みんな不安に決まってるよな。
「いまさらチサトに合わせる顔なんて無いよ。不誠実すぎる自分が情けない。愛里朱もごめんな、迷惑をかけちまっ──……って、うおぉぉおおっ!?」
高山愛里朱の両腕が急に伸びてきて、俺の銀髪とケモミミを揉みしだきだした。
「なぁに言ってるのーっ! 佐々木さんはただの被害者でしょーがぁっ!!」
わしゃわしゃと銀髪を掻き乱されながら、高山愛里朱の元気な喝が聞こえた。
慰めとも励ましとも、怒りとも笑いともとれる、感情の篭った声だ。
「佐々木さんはねえっ! 自分のことだけ減点評価にしすぎっ! さっきまでさんざん人の限界について話してたのに! どうして佐々木さんだけ完璧じゃないといけないのっ!? 大好きな職場をクビになったのに、去り際まで完璧にこなせるわけないでしょーがっ!!」
「ちょっ、やめろっ、耳が取れるぅっ!」
「佐々木さん、もっと自分を誇りなよ! なーにが『合わせる顔がない』よ女装コス百面相のくせにっ! 向き合いたいなら向き合えばいいのっ!」
高山愛里朱が、まっすぐに俺の瞳を見つめてくる。
「Vライバーの人生にだって、二次元の向こう側までだって、踏み込みすぎるのが佐々木さんのスタイルでしょ?」
「はは、めちゃくちゃアツい励まし方されちゃったな……」
「ふふっ。テンション上がった? アニメの展開みたいで素敵でしょ!」
高山愛里朱は、にまーっ、と子どものような笑顔になると、俺のまんまるのタヌキ尻尾に、むぎゅーっ、と抱きついた。
「さーてっ! 所属希望者の面談の日時を決めちゃおう! 2人目はまさかのオーロラのスーパールーキー、獅紀チサトちゃんだぁ!」
「ふ、ふわぁっ!? し、尻尾はやめてぇーっ!!」
「神経通ってるのっ!?」
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──で、こうなったってわけ。
順を追ってご説明差し上げたので、皆様方、わたくしがカフェにいる理由が完璧に理解できましたわね?
え? どうして銀髪ケモミミ女子高生タヌキから、真紅のドレスに身を包んだ縦ロールヘアの満点系お嬢様VTuberコスに変わっているのかしらって?
それも、スタジオの外のカフェの一般スペースで?
お〜〜っほっほっほっほ〜〜!!
いいところに気が付きましたわね!
おっしゃる通り場違いでめちゃくちゃ浮いているので、さっきから外国人のお客様にめちゃくちゃお写真を撮られてましてよ〜〜〜〜!!
……この格好の理由を説明しよう。
第一に、獅紀チサトは、大の『男嫌い』だ。
というか初心を極めすぎている。
学生時代をスポーツに打ち込み、恋愛沙汰から遠ざかってきたせいか、男性と触れたり話すのはもちろん、近くに寄られるのも意識しすぎる性分だった。
だから今日もチサトのために正装をしたまでだ。
キングスに勤めていた頃も、他の男性スタッフでは仕事にならないので、女装した俺や、貴重な女性スタッフでお世話をしていたものだった。
──え? 俺も男性だろうがって?
──かわいいやろがい。
第二の理由は、いちど着たコス衣装はヘタるので見栄えが悪いからだ。
さすがに移動中ずっと、たんたんたーぬきっ! なケモミミ美少女でいると指名手配度がぐんぐん上がってマズいので、高山愛里朱のスタジオで一度変身を解いた。
コスのクオリティには常に全力を投じる主義なので、当然持ち合わせていたもう1パターンの衣装に着替えたまでだ。
──え? なぜもう1パターン持っていたのかって?
──え? 逆に持たないの? 出社するなら普通2着は持つくない?
以上の理由から俺はVTuberのコスプレをして、馴染みのカフェで獅紀チサトを待っているのだった。
ちなみに高山愛里朱のスタジオから俺だけ移動してきた理由は、オーロラのメンバーにスタジオの住所がバレると、いろいろマズいと思ったから。
カララン、という軽快なベルの音。
「いらっしゃいませ」というマスターの落ち着いた声。
「佐々木……マネージャー……」
お嬢様スタイルの俺を一目で「俺」と見抜いたその女子大生は、すたすたと俺の席へ歩んでくる。
椅子を引き、伸びた背すじで着席すると、気難しげな「への字」に唇を結んだまま、ほのかに潤んだ瞳で俺を見つめた。
「お会いしたかったです……ずっと……」
俺はバツの悪さを隠しきれずに苦笑した。
「久しぶり、チサト」
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平均同時接続者数、7,500名。
チャンネル登録者数、170,000人。
師に去られて孤に悩み、傾く城で惑う獅子。
孤軍奮闘、苛政猛虎の悪政に耐える武闘家。
2人目の所属希望者は、体育会系VTuber「獅紀チサト」だ。
今回も読みいただきありがとうございます。
作中のVライバーたちの登録者数は、リアルの市況に合わせて設定していたりします。
獅紀チサトがどのくらいの規模なのか、リアルのVTuberさんと比べてみていただいても面白いかもしれませんね。
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